スプライス

( 2009 / カナダ＝フランス / ヴィンチェンゾ・ナタリ )

「CUBE」のヴィンチェンゾ・ナタリ監督最新作

『スプライス』1 製作中から注目していた「CUBE」のヴィンチェンゾ・ナタリ監督の最新作のSFスリラー。科学者のカップルが禁断の遺伝子操作で新種の生命体を創り出してしまうが、資本先の会社の要請とカップルの研究心から、より禁断の聖域に近付くが、その生命体の目的にやがて巻き込まれていく様を描く。
生命体はNERD（「オタク」を意味する英単語）を逆読みしたドレンと名付けられるが、このドレンの造型が話題になっていたように薄気味悪く、禁断の生物らしさを際立たせている。ヴィンチェンゾ・ナタリがカナダ出身の監督からか、同じくカナダ出身のクローネンバーグとの近似を感じるが（実際、クローネンバーグ作品を思わせるロケショットや研究室・学会のシーンなどあり）、作品的には「ザ・フライ」というより、クローネンバーグが監督ではない「ザ・フライ2」に近い印象だ。「CUBE」、「カンパニー・メン」、「NOTHING」とSFマインドを持った監督なのは分かるナタリだが（監督予定作にバラードの「ハイライズ」、ギブスンの「ニューロマンサー」もある）、映像でやりたいことと観客に与えるストーリーやキャラクターの情報が若干かみあわないのもナタリの特徴で、今作もそこをどう見るかで評価が分かれるだろう。前半と後半が演出が違うように見えたのは残念だったが（後半に否定的な批評も海外に多い）、意欲作として観たしスクリーンで観られることは素直に嬉しい。
『スプライス』2 今作は90年代後半からナタリが暖めていた企画で（ノーランの「インセプション」のようなもので海外では’Pet Project’とも呼ばれる）、予算面から折り合いがつかず難航していたが映画祭で会ったギレルモ・デル・トロが製作総指揮に入ったことで動き出し、ジョエル・シルバーのダーク・キャッスルとフランスのゴーモンも製作に入り（他に「トランスフォーマー」や「シューテム・アップ」のドン・マーフィなど）映画化が実現した。面白いのはウディ・アレンの「人生万歳！」と同じく、脚本家組合のストライキが映画化の実現に関わっていること。脚本家組合のストライキで映画を作れない時期が来ることを見越して、急遽、実現した作品のいくつかに「人生万歳！」と「スプライス」も入っているのだ。
撮影監督が永田鉄男なのにも注目してほしい。フランス映画の「将校たちの夜」や「エディット・ピアフ」で評価を高め、より拾い分野の作品を撮るようになった方だが、「パリ、ジュテーム」のナタリ監督の短編で組んだことで、今作につながっている。「影の王子」と言われるぐらい、永田鉄男は暗さのレイヤー表現が絶妙な撮影をするが今作でも撮影と照明は秀逸である。
先に書いたように、さまざまな人の手と脚本家組合のストという機会もあって実現した今作だが、海外のこのジャンルではおさえた予算の2700万ドルなので主な登場人物が7人ほどしかいないのもポイントだろう。主演のエイドリアン・ブロディとサラ・ポーリーは実力はあるので演技は見応えあるし、ドレンを演じるデルフィーヌ・シャネアックもヌードも辞さない熱演。そして、ナタリ作品に欠かせないデヴィッド・ヒューレットの出演も嬉しい（他にはテレビ版のスターゲイトで知られる）。スクリーンで観られる機会は少ないので、この機会によかったら観てほしい作品だ。

(2011.1.5)

スプライス　2009年カナダ＝フランス
監督・脚本：ヴィンチェンゾ・ナタリ　製作総指揮：ギレルモ・デル・トロ　製作総指揮：ジョエル・シルバー　撮影監督：永田鉄男
出演：デルフィーヌ・シャネアック,エイドリアン・ブロディ,サラ・ポーリー
配給：クロックワークス　(C)2009 GAUMONT - SPLICE (COPPERHEART) PRODUCTIONS INC.