インタビュー
吉田光希監督

吉田 光希 (映画監督)

映画「家族X」について

公式

2011年9月24日(土)、ユーロスペース他にて全国順次ロードショー!

2008年ぴあフィルムフェスティバル(以下PFF)で審査員特別賞に輝いた吉田光希監督の商業映画デビュー作『家族X』。郊外の住宅街に暮らす一見普通の家族にドキュメンタリー風のカメラが密着し、微妙な関係性が次第に暴走していく過程を緊張感ある映像で綴ってじわじわと胸に染み入る作品だ。現代社会の厳しさと家族のあり方に実直に向き合い、繊細な人間ドラマを撮り上げた1980年生まれの気鋭の監督にお話をうかがった。(取材:深谷直子

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『家族X』2――路子が壊れてしまうきっかけというのは、健一が似た境遇の同僚に誘われて外泊してしまうというのと、息子の友達に見栄を張ってウソをついていたことが息子にバレて責められることですよね。

吉田 路子は近所の目をナイーヴに気にするような役にしたかったので。ウォーターサーバーも息子の友達から買わされてしまうわけですよね。あのサーバーというのは小道具というよりは登場人物なんですよ。ひとつのモンスターとして家にいると。水の色が変わっていったりもして、それは路子にしか見えていないかもしれないけど、心理描写をモノで表現したいなあいうことで出てきたものですね。

――水というのは一般的には清らかなイメージですけど、この中では邪悪なイメージで。路子は水自体にも囚われている気がしました。家事も水にまつわることが多いですよね。洗い物とかお風呂掃除とか植物への水やりとか。

吉田 そうですね、水は意識して映していた気がしますね。現代的じゃないですか、水を買うという行為が。うちの両親なんかももう当たり前のように買ってきますけど、小学生の頃は空いた瓶に水道水入れて冷やして飲んでましたよね。たかが20年ぐらいで買うのが当然のようなことになっているのが現代的なことのような気がしますね。

――かと思うと今は放射能で水道水が飲めなくなってしまって。

吉田 水の買い占めが起こりましたからね。ウォーターサーバーも流行ったみたいです。

――水からは本当にいろいろなイメージが湧いてきました。息子の宏明(郭智博)がバイト先で他の人が作業をしている中に入れなくて、なんだか透明人間になってしまったようにいたたまれなさそうにしているのが、水の無味乾燥さと重なるなあとも思ってしまいました。

吉田 息子についても社会から必要とされていない孤独感を描きたかったんですね。いてもいなくてもいいような仕事に派遣されていて、その中で孤独を感じさせたかったというのがありますね。

――でも村上淳さん演じる運送会社の社員と一緒に仕事をして、前向きな心境になれますね。

吉田 社会に出るのも悪くないなって思えるような場を作りたかったんですね。引っ越し屋でバケツリレーの一員でしかなかったのが、少しは自分を認めてくれる人がいるっていうことで見方が変わるというような。そういうことって多いような気がするんですよね。

『家族X』3――母親のことも初めて顧みようと思って。

吉田 身近な人に目線を向けるということ、それぞれが別のところを向いて一緒に暮らしている寂しさから、誰かが身近なところにいるということだけで救いのきっかけになるという希望を描きたいなと思っていました。

――路子が家出をしてあるところで寝入っている、そこで家族に見付けてもらうというのは決してすごいドラマではないけど、彼らにとってはとても大きいことですよね。

吉田 この映画で家族3人が一緒に映るシーンって最初と最後の2ヵ所しかないんですよ。最初は写真立ての写真の中で、最後は路子が家出をした翌朝のシーンですよね。過去のことでしかなかった家族たちが現実の世界で同じフレームに収まっているというのは、些細だけど彼らにとってはものすごく大きな変化なんですね。それは意識して撮っていました。

――ラストシーンは印象的でした。それまでのほとんどのシーンが後ろ姿を追っているところ、最後だけはこちらに向かってくるんですよね。

吉田 そうですね。客席のこちらまで続いているような印象を作りたかったです。

――あのシーンは音楽もよかったです。開けていく感じがして。

吉田 音楽が付いているのは最後だけですけどね。以前からの知り合いだった世武裕子さんにお願いしてどんな音楽がいいか話し合ったんですが、見方を限定したくなかったんですよね。感動的過ぎる曲だとか、悲しい音楽だとか、どっちにも取れる感じがいいなと。お客さんが映画から感じたものを持って帰ってもらいたいというのがあって、感情的なもので締めてしまうと見方を限定してしまうような気がしたので、注文としては、最後のローリングが終わって電気が点いたら席を立つしかないよね、っていうような音楽を付けてと言いました。

――人によっていろいろな捉え方があるし、後に残る映画だと思いました。

吉田 観た人にひとつ種を植えるようなものにしたかったっていうのがあるんですよね。橋本家の物語は今は自分に関係ないかもしれないけど、どこかで直面するかもしれない問題で。あと、自分も今は独身ですけど、いつか結婚して子供ができたときに見たらまた違う感想を持つかもしれないですよね。そういう映画にしたかったっていうのがありますね。観た人の状況によってすごく感想は違うと思います。

――キャストのみなさんが見事でした。特に南さんは一人芝居の多い大変な役でしたが、現場ではどうでした?

吉田 「用意、スタート」をきっかけにということよりも、役は撮影を通じて作っていくものだと思うので、精神的に辛いシーンばかりで辛い思いはあったと思いますね。

――そのような辛い現場でムードメーカーになってくれるような方はいましたか?

『家族X』田口トモロヲ吉田 田口さんと森下(能幸)さんが出てくるシーンって面白いんですよね(笑)。おかしいシーンとして描いているわけではないんですけど、奇妙な間とかがあって、妙なおかしみが生まれていましたね。

――森下さん演じる小林という同僚は、無害でおとなしそうなイメージなのに侮れないところがありましたよね。健一がパソコンが苦手なのを知っているのに、彼もわざわざパソコンのことを訊きに行ったり。

吉田 魔界に引きずりこむような存在にしたかったっていうことはありますね。彼も健一と同じような状況にあって、会話がないながらも仲間意識を感じて近付いてくるような関係。すごく細かいけど、後半のオフィスのシーンでは、彼の席はもう無人になっているんですよ。もういないんですね。

――脇を固める方まで味のある役者さんが揃っていますが、キャスティングは自分でされたんですか?

吉田 そうですね、最初に好きな人を挙げてみてとプロデューサーから言われました。予算はどうあれ、掛け合うことはできるからと。結果的には自分の希望したみなさんになっていますね。

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家族X 2010年/35ミリ/ 90分/カラー
監督・脚本:吉田光希  プロデューサー:天野真弓/撮影:志田貴之/照明:斉藤徹/録音:加藤大和/
整音:照井康政/美術:井上心平/装飾:渡辺大智/音楽:世武裕子/編集:早野亮、吉田光希/
スクリプター:西岡容子/助監督:松倉大夏/制作担当:和氣俊之
出演:南果歩、田口トモロヲ、郭智博、筒井真理子、村上淳、森下能幸
PFFパートナーズ(ぴあ、TBS、IMAGICA、エイベックス・エンタテインメント、USEN)/ リトルモア提携作品
配給=ユーロスペース+ぴあ ©PFFパートナーズ
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  • 監督:足立正生
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  • 監督:塩屋俊
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2011/09/15/22:32 | トラックバック (0)
深谷直子 ,インタビュー
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