インタビュー
家族X/吉田光希監督

吉田 光希 (映画監督)

映画「家族X」について

公式

2011年9月24日(土)、ユーロスペース他にて全国順次ロードショー!

2008年ぴあフィルムフェスティバル(以下PFF)で審査員特別賞に輝いた吉田光希監督の商業映画デビュー作『家族X』。郊外の住宅街に暮らす一見普通の家族にドキュメンタリー風のカメラが密着し、微妙な関係性が次第に暴走していく過程を緊張感ある映像で綴ってじわじわと胸に染み入る作品だ。現代社会の厳しさと家族のあり方に実直に向き合い、繊細な人間ドラマを撮り上げた1980年生まれの気鋭の監督にお話をうかがった。(取材:深谷直子

吉田 光希 (映画監督) 1980年東京都生まれ。東京造形大学在学中より塚本晋也監督作品を中心に映画製作現場に参加し、美術助手、照明助手、助監督などを経験。大学卒業後は、製作プロダクションにてCMやPVを制作する傍ら、自主製作映画を手掛け、4作目の作品『症例X』がPFFアワード2008にて審査員特別賞を受賞。第20回PFFスカラシップの権利を獲得し、『家族X』へと至る。

吉田光希監督――この『家族X』で商業映画デビューですね。前作『症例X』がPFFで受賞し、それでPFFスカラシップの権利を獲得して撮られたということで、目指す通りの道を歩まれている感じですよね。

吉田 自主映画の監督の方っていろいろな形でデビューされていますけど、僕が10代終わりぐらいで監督を目指したときに、ぴあというのは割と王道のコースと言うか、自分が好きで観ていた監督たちも過去に入選されている方が多かったんですね。そこでまずぴあを目指したいなというところがありましたね。

――最初に映画監督になりたいと思ったきっかけは?

吉田 映画は子供の時からずっと好きだったんですね。家の近くに映画館があったから小さい時からよく観ていたし、ちょうどVHSのデッキが家に登場した頃だったのでレンタルで観たり。

――1980年生まれですよね。映画を観出したのは90年前後からかなと思いますが、その頃だと洋画が多かったんですか?

吉田 何でも観ていましたね。日本映画も観ていました。小学生の頃から伊丹(十三)作品が好きだったんですね。北野(武)監督の映画とかも観ていたし。映画に興味を持ち始めた頃にそういった方たちがリアルタイムで撮っていて、その辺りから日本映画に目を向けるようになった気がしますね。

――では早くから監督を目指していたんですね。東京造形大学の出身ですよね。

吉田 ええ、でも高校を卒業してすぐに入学したわけではないんです。現役のときは日本映画学校とか日大の芸術学部なども目指していたんですが、まあ受験に失敗して予備校に通ったりしていたんですね。その間に塚本晋也監督の現場に入るきっかけがあって、学校に入るよりも先に映画の現場を経験していました。そのあと大学に入ったんですが、その経験があったので大学在学中も現場に参加したり、卒業後も現場に助監督で付いたりしながら自分でも撮っていて。

――PFFに応募したのは『症例X』が初めてですか?

吉田 いやいや、撮った作品は全部送ってますよ。国内の主要映画祭、ほぼ全部送ってかすりもしなかった(苦笑)。

――そうなんですか。でも『症例X』はスカラシップを受けられるほど高い評価を得て。私はまだ観ていないんですが、家族を描いているということで今回の『家族X』とは対になるような作品だったんでしょうか?

吉田 家族と言うか親子を描いているんですね。身近な人との関係性という点では『家族X』にも通じていると言えます。

『家族X』――『家族X』は観ていてすごく考えさせられる作品でした。こんなに我慢して耐え忍んで、それでも繋がっていかなきゃいけない家族とは何なんだろう、と。

吉田 家族っていうものは単純に事実としての婚姻とか血縁関係で成り立っているけれど、それだけではないじゃないですか、家族という関係性を作っているものは。それがどうあるべきなのかということが、映画を作る最初の段階での自分への問いだったのかなと思いますね。

――夫婦と息子の3人家族の心がバラバラで、でも状況を変えていこうと敢えて行動することはせずに、ギリギリのバランスで進んでしまうのがリアルだなと思いました。

吉田 大なり小なりどの家庭にも悩みとか不安があるんじゃないかなと思っていて、単純に現代家族をエピソードで描きたいというのではなく、誰でもが出会ってしまうかもしれない関係性の不和を映画にしたかったというのがありますね。

――3人家族の描かれ方で比重が高いのは南果歩さん演じる妻の路子かなという気がするんですが、やはりそれぞれ抱えているものがあって、誰が先に崩れてしまうのかまったく読めませんね。田口トモロヲさん演じる夫の健一もどんどん追い詰められていくところがあって。

吉田 健一は妻が精神的な重荷を背負っているのには気付いていると思うんですけど、深く関わらないと言うか、変に刺激をしないことが優しさだと思ってしまっている。そういう歯車が回って続いてしまっている家族なんじゃないかと思いますね。

――いちばん最初におかしなことを起こすのは夫の健一なんですよね。会社でパソコンが上手く扱えなくて、自宅で勉強するために会社の物置のようなところからパソコンを持ち出して。

吉田 自分で今の状況を何とかしようとするけれど、モノにすら否定されているんですよね。家でパソコンを繋ぐと警告音が鳴って。極端な表現ではあるけど、彼の状況を積み重ねていきたかったですね。

――健一がパソコンを持ち出すシーンで、床が黒く濡れているんですが、あれは演出でわざとそうしているんですか?

吉田 わざと濡らしていますね。異界に通じるような、邪悪なものに手を出すかのような。極端な表現ですけど、仕事場でも家庭でも必要とされていない、どこを向いていいのか分からないという過酷な状況を描こうとしていました。

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家族X 2010年/35ミリ/ 90分/カラー
監督・脚本:吉田光希  プロデューサー:天野真弓/撮影:志田貴之/照明:斉藤徹/録音:加藤大和/
整音:照井康政/美術:井上心平/装飾:渡辺大智/音楽:世武裕子/編集:早野亮、吉田光希/
スクリプター:西岡容子/助監督:松倉大夏/制作担当:和氣俊之
出演:南果歩、田口トモロヲ、郭智博、筒井真理子、村上淳、森下能幸
PFFパートナーズ(ぴあ、TBS、IMAGICA、エイベックス・エンタテインメント、USEN)/ リトルモア提携作品
配給=ユーロスペース+ぴあ ©PFFパートナーズ
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2011/09/15/22:31 | トラックバック (1)
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