インタビュー
吉田光希監督

吉田 光希 (映画監督)

映画「家族X」について

公式

2011年9月24日(土)、ユーロスペース他にて全国順次ロードショー!

2008年ぴあフィルムフェスティバル(以下PFF)で審査員特別賞に輝いた吉田光希監督の商業映画デビュー作『家族X』。郊外の住宅街に暮らす一見普通の家族にドキュメンタリー風のカメラが密着し、微妙な関係性が次第に暴走していく過程を緊張感ある映像で綴ってじわじわと胸に染み入る作品だ。現代社会の厳しさと家族のあり方に実直に向き合い、繊細な人間ドラマを撮り上げた1980年生まれの気鋭の監督にお話をうかがった。(取材:深谷直子

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吉田光希監督2――企画から撮影まではどれぐらいかけるんですか?

吉田 PFFスカラシップでは企画が決まって翌年の撮影まで1年かけてプロデューサーと脚本を作るんです。脚本にするという行為自体も僕にとっては新しい経験でした。自主映画だと多少曖昧な部分があっても撮影はできてしまいますよね。少人数だし、自分の目の届く規模なので。でも劇場用だとスタッフの人数も違うし、きちんとしたものがないと動けない部署があるんですね。だからそういうものを作るという行為もいい経験になりました。

――撮影期間はどれぐらいだったんですか?

吉田 ちょうど2週間ですね。時期は5月のGW明けぐらいですかね。

――すごく風が強いので、夏の台風の時期かなと思ってました。路子が外出するときにいつも風が吹いていて、不穏な感じが出ていましたね。

吉田 あれは映画の神様ですよ(笑)。風はいい効果になってくれましたね。路子さんが部屋で雑誌を読んでいるシーンでも、カーテンがふわーっと揺れるんですよね。あんなの全然予想していなかったですから。

――長回しが多いですが、撮影は大変でしたか?

吉田 スタッフが結構大変だったんじゃないかなと思いますね。「ここからここまで行きます」と言ってそれが360°だったりするので、みんなカメラの後ろでグルグルと(笑)。でもここは撮影が大変だろうなと思うシーンは1発でOKになることが多かったんですよね。ポイントとなるようなシーンは結構すんなり行って。俳優さんの力だと思っています。

――リハーサルはしたんですか?

吉田 いや、してないですよ。カメラマンの力もあると思います。リハーサルを何度もして「じゃあ本番」と言って撮影するのって俳優さんの動きを段取りで捉えてしまうんですよね。今回はフレームから外れてしまうようなシーンもあるんですけど、そうすることで収まりきれないような感情を描きたいというのがあったので。それは狙っては撮れないんですよね。

――撮影の志田(貴之)さんは塚本組のカメラマンの方ですよね。最初からクセとかを知っていたんですか?

吉田 撮影のクセと言うか、10年ぐらい知っている方だったので、意思の疎通がもうすでにできているということが大きかったですね。カメラマンの映画になってしまうのはいけないけど、僕だけの映画になってしまうのもダメで、カメラマンの見るものを見たかったし。そのバランスを取りながらどう撮るかというのを話し合っていけたのは、やっぱりずっと知っていた人だったからというのはありますね。

『家族X』4――現場は今までいろいろ経験してきたと思うんですけど、自分で監督をして新たに実感したことはありますか?

吉田 スタッフで映画作りに関わると、自分の仕事をクリアすることに集中しちゃうんですよね。監督というのは俳優さんに演出するということなので、やっぱり俳優さんの力は感じましたね。結局映画は誰かと作るものなんだなあと思いました。シナリオだけでは映画ではないし、それをそのまま撮ったところでも映画ではない。

――じっくり練り上げて作られたということで、この作品は、自分が思うとおりの出来に仕上がったと思っていますか?

吉田 今になってもっとこうしたかったなっていうのはありますけど、撮影時点では100%のものができたと思いますね。やっぱり何度も見ているうちに今度はこうしたいというのは出てくるので、それは次回作以降に反映していければいいと思っています。

――次回作の構想などはもうあるんですか?

吉田 いろいろやりたいことはあるんですよ。身近な関係性を見つめるということは『症例X』と『家族X』とでひとつ完結できたようなところがあるので、ガラっと違う映画に取り組みたいなと思いつつ、また心の痛みを描きたいなとも最近思うようになり出して、どっちもやりたいですね。会話の少ない映画が多かったので、会話劇というものにも挑戦してみたいなと思っています。

――どんなジャンルの映画を撮りたいですか?

吉田 高校生ぐらいが主人公の青春映画を撮りたいなというのが1コあって。今まで若い人ばかりの映画というのが少なかったけど、30歳になって、やっと冷静に見れるかなあという年齢になったので。

――楽しみですね。同じ世代の監督とは親しくされているんですか?

吉田 普段から仲のいい監督って意外といないんですよね(笑)。でも、今出てきている同世代の監督たちは学生時代に注目してきた監督たちばかりなので、勝手な仲間意識は持っています。「あ、この監督この映画祭にも入選してるんだ」って名前は結構前から見てきた人たちが、ずっと続けていて今も映画を撮っているというのはすごい嬉しいですね。

――いいですね。これからの映画界をみなさんに引っ張っていってほしいです。

吉田 でもなかなか順番やってこないですけどね(笑)。

『家族X』郭智博――ぴあも雑誌はなくなってしまいましたし、映画館も閉館となるところが増えていますが、これからの映画作りに関して不安はありますか?

吉田 PFFのスカラシップは次も撮られているし、その次も決まっていますからね。作って発信したいという意識があれば、発表の場って意外とあると思います。

――では最後に、『家族X』はどんな方に観ていただきたいですか?

吉田 普段あまり映画を観ない人に観てほしいですね。一般的な映画ってやっぱり物語がきちんと分かって、クライマックスがあって、っていう感じですが、そういうエピソードが引っ張ってくれるような映画とは違う作品なので、こういうのがあるっていうことは知ってほしいなと思いますね。

――この作品は震災を挟んでの公開になりましたが、辛い状況でも淡々と生活する人の姿が現実と重なる気がしましたし、それでも最後は力強いものを感じて、今だから観てほしい作品だと思いました。

吉田 でも地震の前にできている映画ではあるので。逆に今はこういう映画は撮れないですね。地震前だから漠然とした家族間での不安とかを描こうとする意識はあったけど、実際に震災で、大きい小さいの差はあれ共通の体験をしたわけですよね。漠然とした不安を抱えていたところから、目の前に危機的なものがあるということになってしまって、そんな今だからこそ明るい映画を作ろうとしているのかなというのがありますね。

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( 2011年8月24日 渋谷・ユーロスペースで 取材:深谷直子

家族X 2010年/35ミリ/ 90分/カラー
監督・脚本:吉田光希  プロデューサー:天野真弓/撮影:志田貴之/照明:斉藤徹/録音:加藤大和/
整音:照井康政/美術:井上心平/装飾:渡辺大智/音楽:世武裕子/編集:早野亮、吉田光希/
スクリプター:西岡容子/助監督:松倉大夏/制作担当:和氣俊之
出演:南果歩、田口トモロヲ、郭智博、筒井真理子、村上淳、森下能幸
PFFパートナーズ(ぴあ、TBS、IMAGICA、エイベックス・エンタテインメント、USEN)/ リトルモア提携作品
配給=ユーロスペース+ぴあ ©PFFパートナーズ
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2011/09/15/22:33 | トラックバック (0)
深谷直子 ,インタビュー
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