今泉 力哉 (監督)
映画『鬼灯さん家のアネキ』について
▶公式サイト
2014年9月6日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開
(取材:深谷直子)
――シネスコで撮られていますが、シネスコへのこだわりはあるんですか?
今泉 『サッドティー』(13)をシネスコでやったあとで、なんか16:9のオーソドックスな映画というのが結構苦手になってきてて。それよりは4:3のスタンダードかシネスコが観ていて気持ちよくなってきているんですよね。この映画は外のシーンとかがたくさんある映画じゃないし、明確に何かこだわりがあってというわけではないんですけど、撮影の岩永さんとの相談の中で「シネスコにしていいですか?」というのが出て、プロデューサーの方にもいいですよと言っていただけたので。
――新鮮で気持ちいいですよね。でもこの作品だとやっぱり部屋のシーンが多いので、スタンダードで撮りそうな気がするんですけど。
今泉 まあそうですね。でもいろんなズレがあっていい作品な気がしてて。なんか下手すると普通に普通になっていく可能性がありますよね。
――原作にない隠しカメラがいっぱい出てきますが、どういう意図があるんですか?
今泉 あれすごいですよね、盗撮×盗撮みたいな(笑)。片岡さんの脚本が上がってきて最初読んでるときに「これは誰のカメラかな? 誰がどう見てるのかな?」みたいになってましたからね(笑)。さらに編集で変ないじり方もしてて。ハルが鏡の前で女子高生の制服に着替えてるのが誰かのカメラに映っているという映像がいきなりポコッと入っていますが、あれは脚本の順番どおりじゃないんです。
――ええ、とても唐突で、なんだろうこの映像?って思いました。
今泉 あれはいきなり振っといて、しかも観る人によっては吾朗が仕掛けたカメラだとシンプルに思いそうな段階で、でも別の人が仕掛けてるんですけど、映画が不穏な方向に向かっていくというのはお客さんを惹き付けるフックになるから、できるだけ活かしたほうがいいなと編集しながらやってましたね。あと、谷さんのちょっとエッチな見せ場とかはいろいろあるんだけど、女子高生の格好に着替えていろいろするっていう行動はそれとは違うので、いやらしく撮るっていうよりはいつものクセじゃないですけどワンカットでだらっと長く撮ったりしてたんです。でもそれよりも盗撮映像っぽいほうを活かそうとか、あとあとですけどね。やりながらそうなっていきました。
――すごくドロドロしてこのへん今泉監督らしいなあと(笑)。でも一方でこの映画にはすごく大きい愛も描かれていますよね。
今泉 佐藤さんとの対談でも話しましたが、自己犠牲じゃないけど、人のことを思いやってというような行動がたくさんあって、いちばんの主題のエッチな絡みとかも含めての大前提が弟のことを想ってやっていることだったり、モト冬樹さんが演じている父親の行動も、それがどうなるか分かんないけど吾朗のことを想ってたりとか、みんな空回ってるかもしれないけど、よかれと思ってやってることだという。それは単純に男女の恋愛じゃなくもっとでかい、「愛」っていう言葉しかないからあれですけど、なんかそういうのがいっぱいありますよね。
――監督の以前のインタビューを読んでいて、男女の恋愛でも「好き」という言葉は使うけど「愛してる」は絶対書けない、そんな言葉を実際に使うの聞いたことない、とおっしゃっていて、それは本当にそうだと思うんですけど。
今泉 そうですね、絶対書かないですね(笑)。今回も「愛してる」は書いてないですよ。
――いや、吾朗が「愛」という言葉を使っていますよね。
今泉 ああ! でもあれは吾朗ギャグですよ(笑)。ギャグというか、好きということをまっすぐ言える人だし。でもあの「愛してる」は終盤意味合いが違うものになっていて、それは片岡さんの脚本の上手さだなと思いますね。
出演:谷桃子 前野朋哉 佐藤かよ 川村ゆきえ 古崎瞳 岡山天音 葉山レイコ 水澤紳吾/モト冬樹
原作:五十嵐藍(株式会社KADOKAWA 角川書店刊) 監督・編集:今泉力哉 脚本:片岡翔 今泉力哉
音楽:曽我淳一(トルネード竜巻) 主題歌:浜崎貴司「家族」(スピードスターレコーズ)
製作プロダクション:角川大映スタジオ 制作プロダクション:ダブ 製作:KADOKAWA ポニーキャニオン
©2014『鬼灯さん家のアネキ』製作委員会
▶公式サイト