和田秀樹監督

主人公の目線で映す主観撮影の方法を用いる本作では、主演の二人は体当たり演技に挑んでいるにもかかわらず、あまりスクリーンに映らないことになる。それでも出演を希望した本作の魅力とは？との質問に、平塚は「まずは実話であることです。境遇に負けずに闘ってきた生き方そのものが、生きる強さを教えてくれていると思いました。私と雪村葉子さんの顔が似ているので、他人事と思えないところもありました」と答えた。西川は「臨場感や目に映る生々しさは主観撮りならではだと思いました。監督の演出に妥協がまったくなく、監督が想いをぶつけた作品というところも魅力だと思います」と語った。 さらに役作りについて尋ねられ、平塚は「雪村さんご自身にお会いしてお話を聞き、役作りの参考にさせていただきました。昔の傷をえぐってしまうことになるのですが、私たちのためになるのなら、と当時の心情を話してくださったので、『何が何でも私たちが再現しないと』という気持ちになりました」と語り、西川は「事件に遭ってからもうひとりの人格が現れるという役なので、その使い分けを意識しながら役作りに励みました」と明かした。

葉子につらく当たる父親役の友川も役作りについて尋ねられ、「インテリで東北の大学を出た大地主の役で、私自身は高卒で学歴もないのでちょっと演技力は要りましたけれど、殴ることが威厳だと勘違いしている父親ですから、そんなに難しくはなかったです。ただ、私自身気が小さいものですから、NGを出してスタッフや共演者のみなさんに迷惑をかけられないと。特に白川和子さんは怒ったら包丁とか持ってきそうで怖そうだから（笑）、スタッフと外でタバコを吸いながら、雪の降る中セリフの練習をしました。『ひとつ間違えたら命取りだ』という感じでやらせていただきました」と話して会場を沸かせた。 そんな友川に、さらに「主観撮影は大変ではなかったか？」と質問が。すると友川は「私みたいな素人にそんなこと訊かないでください！　私は今日初めて主観撮りだったと知りました。撮影というのはこういうものなんだと思ってて」と苦笑いしながら告白。佐野は少し驚いた顔を見せながらも、そんな友川の暴力的な演技を「いいっすよ！　僕も暴力的な役柄を結構やりましたが、友川さんはすご過ぎました」と絶賛し、和田監督も「主観撮影だから、友川さんはカメラマンに向かって殴ってくるんですけど、カメラマンが『怖い』と言っていましたから」と明かした。

隆は早田役を演じたことについて、「幸せな時間を過ごさせていただきました。どんな仕事でもある程度役作りをして望むことが多いですが、所詮やくざ者の役ですから、いやらしい下心を持ったまま彼女に近付き、あとは彼女との時間の中で、ひとつひとつの場面を彼女と楽しむことに徹する方がいいんじゃないかと思い、自然に委ねて演じました。幸運なことに、西川さんは僕にとってやりやすい女優さんだったので、結果的にその方法は間違っていなかったなと思います」と穏やかな表情で振り返った。

最後に和田監督が、「主観で撮っている映画ですが、観客が葉子さんの世界に入ってどんなふうに感じるかで、ひとりひとり違う作品になっていくと思います。撮影方法も音響効果も役者さんの努力も、この世界に入り込ませるものになっていると思いますので、最後までお付き合いいただきたいと思います。よろしくお願いします」と観客に呼びかけ、そんな作品の世界観が込められた主題歌「迷宮」を、出口陽が作曲者・近藤薫のギター演奏とともに歌い上げて、舞台挨拶が締めくくられた。