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サラエボ、希望の街角

ボスニア紛争から15年――。戦火の記憶が今もなお残るなか、
美しい街はよみがえると、明日を信じて生きるルナ。サラエボへの愛を描く感動作。

http://www.saraebo-kibou.com/

2011年2月19日(土)より、岩波ホールほか全国順次ロードショー!

INTRODUCTION

ボスニア・ヘルツェゴヴィナの首都・サラエボ。 街角では愛が語られ、歌声や笑いが絶えることなく、異なる民族と宗教がおおらかに共存する真のコスモポリタンの街――かつてサラエボは、人々にとって理想の場所だった。

『サラエボ、希望の街角』1サラエボは、ボスニア・ヘルツェゴビナの首都である。かつてこの街は、人々にとって理想的な街だった。美しく、古い歴史があり、市民のだれもがこの街を誇りにしていた。街角では愛が語られ、歌声や笑いがたえることなく、異なる民族と宗教が共存する、コスモポリタンの街として知られていた。旧ユーゴスラヴィアの社会主義政権下でも、他の国々とは一線を画すおおらかな自由があった。

旧ユーゴスラヴィア連邦の共和国、スロヴェニア、クロアチアに続くボスニア・ヘルツェゴビナの独立にともなって、1992年に始まったボスニア紛争は、1995年に一応終息するまでに、市民に甚大な被害を与えた。首都サラエボは3年半にわたってセルビア勢力に包囲され、市民は、狙撃手の銃弾から逃れながら、食料や水など、生活必需品が窮乏する日々のなかで、生きるために厳しい闘いを強いられた。
第二次大戦後、ヨーロッパで最悪といわれる紛争が残したものは、爆撃や銃撃で瓦礫となった街と、数えきれないほどの墓標、人々の絶望とトラウマ、そして民族や宗教がからむ憎しみだった。それでも人々はサラエボの復興へむけて立ちあがる。

『サラエボ、希望の街角』は、長編第1作『サラエボの花』で、2006年ベルリン国際映画祭金熊賞に見事輝いたヤスミラ・ジュバニッチ監督の待望の第2作である。ジュバニッチ監督は、1974年、サラエボ生まれ。紛争の最中に十代を過ごし、多感な心でこの街が破壊されてゆくさまをつぶさに見てきた。『サラエボの花』は、紛争後10余年を経て、市民の心に残る戦争の痛々しい傷跡を、母娘の葛藤をとおして描いている。
本作『サラエボ、希望の街角』は、現代に生きる若い女性ルナの愛の行方をとおして、過酷な紛争の記憶が今もなお残るなか、サラエボの街がこれから歩むべき未来をしめそうとしている。若いルナのしなやかな心、自分に正直であろうとする生きる姿勢は、不安を増す時代に対して、人間らしくありたいと高らかに表明しているようだ。そこにはジュバニッチ監督の人間への変わらぬ信頼と、サラエボへの深い愛がある。

『サラエボ、希望の街角』2ルナは航空機の客室乗務員、友人も多く、充実した毎日を送るサラエボっ子。彼女は恋人アマルと同棲中。かつての紛争で、ルナは目の前で両親を殺され、アマルは過酷な戦場を経験し、弟を失った。ふたりとも戦争のむごい記憶を拭うことができない。
愛しあうふたりは子どもを望んでいるがなかなか妊娠できず、人工授精を薦められる。ある日、アマルはアルコール依存症のために、停職処分になった。彼は厳格なイスラム教徒となったかつての戦友と出会い、仕事を世話されたことを機に、宗教に傾倒してゆく。ルナは信仰に急速にのめりこんでゆくアマルとの溝が深まるなかで、悩み苦しむ。ある日、ルナは妊娠を告げられた。その彼女が最後に下した大きな決断とは……。

かつてのサラエボは、イスラム教を中心に、セルビア正教、カトリックなどがゆるやかに混在した街だった。しかし紛争によってイスラム教徒が、人口の大半を占めるようになる。イスラム教の規律もかつては寛容なものだったが、近年、人々はより厳格なものを志向するようになってきている。国もボスニア連邦とセルビア人共和国に二分された。
そのために現在のサラエボは、かつてはなかった民族や宗教の不寛容が生じて、人々の不和がしだいに深まっている。しかし、社会が寛容性を失ってゆく傾向は、とおいボスニアだけの話ではなく、9.11以降の世界的な現象である。本作は、不寛容に抵抗し、社会の不条理に対して必死に生きようとする人々の思いを重ねている。

本作の原題『Na Putu』'英語題『On The Path』(は、「道の途上」という意味で、その道とは、サラエボの道であり、主人公ルナの道でもある。両者は、よりよい未来へ歩むために、困難な状況のなかで自身を見つめ直そうとしている。
戦争によって変わってしまった美しい街サラエボ、この街はどのようにしてかつての歓びをとりもどせるのか。ジュバニッチ監督はその答えを、ルナの生きる姿勢に託した。第1作「サラエボの花」では、紛争中、レイプによって生まれた敵兵の子への母の愛が描かれたが、本作の主人公は、愛する人の子をようやく身ごもっても、相手への失望から、それを拒絶する選択をする。自分に正直であろうとするルナの厳しい美しさ。
何度もずたずたになって挫けそうになりながらも、決して夢を見失わず、前向きに生きようとするルナのひたむきな姿は、新たな歴史を刻むサラエボの、未来への希望を体現しているかのようだ。

『サラエボ、希望の街角』3ジュバニッチ監督は、紛争の傷跡がようやく修復されたサラエボの街並みを、透明感あふれるナチュラルな映像で映しだす。人々でにぎわう市場やカフェ、若者たちが集うクラブなど、街の豊かなバイタリティと親密な雰囲気を、愛情をこめて表している。
また、キャラクターの繊細な描写に抜群の冴えを見せるジュバニッチ監督は、アルコールに依存し、信仰に救いを見出そうとするアマルが戦争後遺症を患っていること、ルナが紛争で家族を奪われた過去を、物語の流れにそって静かに描き出してゆく。とりわけ終盤、紛争で手放した生家を再訪した場面で、ルナの涙を、戦争を知らない新世代の.女の無垢な瞳と対比させる精妙な演出は、観る者の胸を締めつけずにおかない。
「ルナの内側にある女性としての強さと脆さ、その両面の美を見てほしい」と語るクロアチア出身の主演女優ズリンカ・ツヴィテシッチの迫真の演技も特筆もので、ラスト・シーンで彼女が披露する凛々しくも澄みきった表情はしばし忘れられない。

2011年2月19日(土)より、岩波ホールほか全国順次ロードショー!

Staff Profile

ヤスミラ・ジュバニッチ (脚本/監督)

1974年サラエボ生まれ。サラエボ演劇アカデミー舞台・映画監督科を卒業。映画製作に携わる前は、アメリカのヴァーモントを拠点とする人形劇の劇団「ブレッド&パペット」でピエロとして活躍していた。1997年から、自身が設立したアーティストのための協会であるDeblokadaにて映画製作を始める。
『サラエボ、希望の街角』は彼女の長編第2作目。デビュー作『サラエボの花』は2006年ベルリン国際映画賞にて金熊賞を受賞し、AFI 映画祭の審査委員賞とヨーロッパ人権協会のグランプリオディッセイを受賞した。戦争を生きのびたシングルマザーのエスマ、彼女の10歳の娘サラの、痛ましい秘密にまつわる感動のドラマは世界各国の人々の心を打った。またヤスミラの初期の短編映画やビデオ映像は世界中の映画祭や展示会で上映されている。短編映画「Birthday」-クロアチアとボスニア、それぞれの国の.女がたどる二つの運命を描いたもの-や、ドキュメンタリー「Images From The Corner」-若い女性が戦争で大怪我を負い、その自身の姿を海外のカメラマンが撮影した写真を苦しみながらも直視したという感動の話-などがある。

ヤスミラ・ジュバニッチ監督オフィシャルインタビュー

――ヤスミラ監督が本作を作ろうと思われたきっかけ、そして、どのようなプロセスを経てこのお話しを生み出されたのかを教えてください。

Jasmila Zbanic
ヤスミラ・ジュバニッチ監督 (C)DirkDeckbar
私は恋愛関係においてこの他人を受け入れるということを探ってみたかったのです。日常における些細な障害が愛しあう二人に違うリアクションをもたらます。人は、日常生活が変化していき、その変化を受け入れるためには違ったリアクションをとるものです。 また、私は恋愛関係の中で自分自身に正直でいられるかということを突き詰めてみたかったのです。一連の感情、習得した知識、恋愛関係を形成する経験や想像を。私たちが信じるこの世界に対する見識は、私たちがセックスをする時、その体のリズムにどれだけの影響を与えるものなのでしょうか。

――前作『サラエボの花』では、紛争中にレイプされたことによって生まれた娘と母の葛藤を描いた作品でした。『サラエボ、希望の街角』では、対照的に子供を産むべきか産まないべきかの選択をする現代女性の繊細な気持ちの変化を丁寧に描かれていますが、前作『サラエボの花』で描いた母親を経て、今回ルナという女性の生き方に込められた監督の想いを教えてください。

「サラエボの花」の主人公エスマには、子供を産むか産まないかという選択肢はありませんでした。収容所でレイプされ、中絶ができない時期までそこで監禁されていたからです。一方、「サラエボ、希望の街角」の主人公ルナは、仕事があり、自分を愛してくれる恋人との幸せな生活を信じ、そして子供を望んでいます。しかし環境が変わってしまい、女性としての根本的な疑問を持つのです。一番大切なことは彼女は自分ことは自分で決められるということです。

――ルナが、紛争で離れざるを得なかったかつて住んでいた家に戻るシーンで、今そこに住んでいる少女に「どうして出て行ったの」と聞かれ、ただ頭をなでるシーンが印象的ですが、ここでルナは語りません。このシーンでルナが考え、受け止めたものとは、何でしょうか?

ルナは10年以上の間行くことのできなかった昔の家を訪ねます。彼女が子供の頃、町がセルビア軍に占領され家を追い出されたのです。彼女の両親は殺されました。かつての自宅への訪問は彼女にとってはとてもエモーショナルな瞬間なのです。まず、行こうと決心するまでかなりの努力が必要でした。それは今、自分の人生に起こっている目の前の一大事を決心する上で、過去と対峙し過去の問題を解決することが必要だと彼女は思っていたのです。
『サラエボ、希望の街角』4現在、昔のルナの家に住んでいる少女は敵の「娘」で、その子は「ここは私の家なの」といいます。ルナはすぐに「いいえ、ここは私の家よ」と言い返したかったのです。しかし彼女はこの少女も、かつての自分と同じく子供自身には何の罪もないことに気づくのです。そしてルナは彼女に愛を与えました。彼女はその子に自分自身を発見し、そして自分自身を勇気づけたのです。この愛が彼女を動かす力となりました。

――紛争前のサラエボは、異なる民族や宗教がおおらかに共存する世界的にも稀に見る人々にとって理想の街だったとお聞きしています。不条理で不寛容な社会状況は今や世界的な現象です。監督の考えるサラエボのこれから歩むべき未来、世界がこれから歩むべき未来はどういう姿でしょうか?

この答えは私こそ知りたいのです(笑)。真剣に答えますとこれをクリアに答えられる人も、クリアな答えもないように思います。サラエボはもっとポジティブな形で過去のトラウマ的な経験から抜け出す方法を見つけないといけないですね。これは簡単ではないのです。経済的状況が自由を許さない現状ですから。文化面での寛容さ、異質なものへの愛、他者への恐怖をなくすこと、新しいものや知らないものへの過剰反応をなくすなどでしょか。私がいつもこれに対して一番大切と思っていることは物事を理解する上で何でも決して1つではないということです。残ながら、私たちの文明や経済は操作から成り立っております。この操作はみなが同じ方向に向くという性質上成り立っているのです。しかし人生というのはさまざまであり、その美しさを享受すべきなのです。

――ラスト・シーンでルナが見せる凛々しくも澄みきった表情がとても印象的です。ルナの潔く、自分に正直に生きる姿勢がよく表れていると思われますが、このラストに監督が託したメッセージはなんですか?

まさにあの場面のルナは自身の中にある真実にたどり着いたのです。彼女は大いに変化しました。彼女は自分の人生がアマールの人生から違った方向へ進んでいると気づいたのです。そしてその新しい道がどんなに大変なものであっても進んでいこうと決めたのです。それは彼女の決断であり、彼女のための人生なのです。

『サラエボ、希望の街角』5――最後のルナの決心について伺いたいのですが、何か監督自身の考える結論はありますか?(EX:ルナは子供を産んで育てていくのか?あるいはその選択はしなかったのか…など)

もちろん!しかし、私は観客たちに自分たちなりの解釈をしてほしかったのです。これは決して観客をトリックで翻弄しようとかそうした意図ではないのです。誤解しないでくださいね。私はあくまでも観客たちに結論を委ねどのように話が終わるのかを自分なりに決めてほしかったのです。私がこの映画製作の過程で重なる旅を通じてさまざまな答えに出会いました。西欧ではルナは子供を中絶し2度と亜マールには会わないだろうと、東欧では彼女は子供を生んで一人で育てるだろうと。また最後のシーンでのアマールの視線にもいろいろ意見がありました。彼は彼女に戻り、また仕事も得るだろうと。私はこの映画が人々を自分自身なら人生においてこのような重要な事に対しどのような決断を下すのかという自分の深層心理を知るきっかけになればうれしいです。

――日本の観客へ、一言メッセージをお願いします。

この映画を日本の皆様に見て頂く機会を与えて頂きとても光栄に思っております。
私は日本の観客をとても尊敬しており、皆様が映画を気に入ってくださると何よりです。 前回日本から持ち帰った2つのものを今回の映画の中にとりいれています。どなたか気づきましたら教えてくださいね。

C R E D I T


出演:ズリンカ・ツヴィテシッチ、レオン・ルチェフ、ミリャナ・カラノヴィッチ、エルミン・ブラヴォ
監督・脚本:ヤスミラ・ジュバニッチ
撮影:クリスティーン・A・マイヤー 編集:ニキ・モスベック
美術:ラダ・マグライリッチ、アミル・ヴーク 衣装:レイラ・ホジッチ 音楽:ブランコ・ヤクボヴィッチ
プロデューサー:ダミル・イブラヒモヴィッチ、ブルノ・ワグナー、バーバラ・アルバート、
カール・バウムガルトナー、ライモント・ゲーベル、レオン・ルチェフ
2010年/ボスニア・ヘルツェゴビナ、オーストリア、ドイツ、クロアチア合作映画/
ボスニア語・クロアチア語・セルビア語/104分/原題: NA PUTU/英題:ON THE PATH/
シネスコ/ドルビーSRD/R-15/字幕翻訳:古田由紀子/字幕監修:柴宜弘
提供:ツイン、ニューセレクト/配給:アルバトロス・フィルム、ツイン
(C)2009 Deblokada / coop99 / Pola Pandora / Produkcija Živa
/ ZDF-Das kleine Fernsehspiel / ARTE
http://www.saraebo-kibou.com/

2011年2月19日(土)より、岩波ホールほか全国順次ロードショー!

サラエボの花 [DVD] サラエボの花 [DVD]
  • 監督:ヤスミラ・ジュバニッチ
  • 出演:ミリャナ・カラノビッチ, ルナ・ミヨビッチ,
    レオン・ルチェフ, ケナン・チャティチ
  • 発売日: 2008-08-06
  • おすすめ度:おすすめ度3.5
  • Amazon で詳細を見る
2011/02/15/12:44 | トラックバック (0)
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