今週の一本
(2005 / 米 / ヘンリー=アレックス・ルビン/ダナ・アダム・ シャピーロ)
頑張る時はいつも今

仙道 勇人

 高いレベルにいる運動選手たちの物語である。 スポーツのドキュメンタリーにはありがちだが毎度のことこういうのを見ると、「俺ってホントだめ…」とブルーになってしまう (日大三高野球部のを見たときは立ち直りに時間かかったなあ)。勝利にかける強い意欲、 勝つというたった一つの目標のために何をやらなければならないか理解していて、それを実行できる意思の力。 高いレベルにいる選手だけが持っているこれらの能力に加えて、(加えてって変だけど)彼らは障害者だ。 登場する選手のほとんどはもともとがスポーツ万能か暴れん坊。そんな彼らがある日突然障害者になる。「最初の2年が一番辛い。 退院しても体は動かない。3~4年は自立のためのリハビリだ」と一人は言う。まずは絶望から這い上がるための努力というものが彼らにはある。 その上で金メダルを狙える位置にいる一流アスリートとしての意識を兼ねえている。簡単に書いてしまっているけど、 絶望の淵からその地点まで行き着いた力たるやどんなものだろう。想像つかない。 五体満足で生きている人間のほとんどが(分野の違いはあれど)その地点までいけないのだから。

 そんな選ばれし者たちを描いているわけだから面白くて当り前であり、その代表がマーク・ズバンとジョー・ ソアーズ。

 冒頭、ガシャン!ガシャン!と戦車のような車椅子に乗り込むアメリカの車椅子ラグビー、 ウィルチェアーラグビーの代表選手、マーク・ズバン。その姿はまるで「コマンドー」で敵地に殴り込むために、 戦闘用具を装備しているシュワルツネッガーのようであり、「かかってこい、殴り返してやるから!」とのたまう姿はデニス・ ロッドマンが車椅子のお世話になったかのようだ。友人の運転する車に同乗していて事故にあい、四肢マヒを追ったのだが、 事故に会う前から札付きの暴れん坊だったと友人たちは言う。そして彼女はメチャクチャ美人。

 そんなズバンを中心にしたアメリカ代表チームは2002年の世界選手権でカナダと対戦。 カナダの監督はかつてアメリカ代表選手だったジョー・ソアーズ。アメリカチームにクビを切られ、 怒り狂って勝手にカナダの監督に就任してしまった男だ。こいつがズバンに負けず劣らずの濃いキャラで、風貌はマイケル・アイアンサイド、 テンションはリー・アーメイ。四六時中怒鳴り散らしていて、とにかくアメリカには戦闘意欲を剥き出しでむかっていく。
 それに対してアメリカチームも「野郎は道ばたの火だ。ションベンで消してやれ」とマテラッツィもびっくりの汚い言葉で裏切り者扱い。 激しくぶつかりあう両チームだが、試合は大接戦のすえカナダがアメリカに勝つ。負けたアメリカは、 二年後のアテネパラリン五輪での雪辱に燃える。というスポ根王道パターンの物語。 もうちょいこの二人の対立構造が深かったりすればなお面白かったような気もするが、それではあまりにドラマっぽいか。

 彼ら二人だけでなく、「車椅子になってから初めてのセックスは最高だった」と言うアンディ (彼らがセックスのやり方について語る場面は最高)など登場人物たちがのきなみ魅力的。健常者も障害者もない! なんて言うありがちなことを言うわけでもなく、ナレーションも人物の気持ちを表すような字幕もなく、 ただ彼らの姿を力強く活写したこの映画に、観客はワクワクし、落ち込み、恥ずかしくなりながら力をもらっていくのだ。

 ちょっとだけ文句を言わせてもらえばスポーツ大好きの自分としてはやはりもっともっと試合の場面が見たかったか。 競技そのものの魅力は今一つ感じられなかった。まあ競技の魅力も伝えようすればこの上映時間ではとても収まりつかないのだろうけど。

(2006.10.16)

2006/10/16/12:37 | トラックバック (0)
百恵紳之助 ,今週の一本
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