言うまでもなく、人には向き不向きがある。映画における筆者の不向きは、SF、ホラー、 そしてファンタジー。重々わかってんだから見なきゃいいのだが、人間、心が弱ってる時は何をするかわからないもので、 年の瀬につい魔がさした。しかし、『ロード・オブ・ザ・リング』にも『ハリー・ポッター』にもピクリともしなかった琴線に、 この作品だけが都合よく触れちゃうわけは、やっぱりなかったのである。
冷酷無比な王、ガルバトリックスが支配する世界。民草にとって一筋の曙光は、 天下無敵のドラゴンと人馬一体ならぬ人竜一体のドラゴンライダーが再び現れ、この醜悪な世を救うという伝説。その神話を信じる抵抗勢力。 鍵を握るヒーローは「勇敢だが愚か」な農家の小倅――と、まさにファンタジーの王道(なんだろうな、きっと)をゆく展開。そして……まあ、 この壮大な物語の第一章としては、悪くない出来なのだろう。でもね、中学生ならともかく、オトナが観て面白いものかどうかは、オバチャン、 最後までわかりませんでした。だいたい、題名の響きからして(C)円谷プロかと。だもんで、 てっきりこいつはドラゴンの名前だとばかり思ってたから、初手からビックリしたなあ、もう。
「エラゴン」こと本作のヒーローたる若僧は、18万人もの候補者から選ばれたというエドワード・ スペリーアス。ビルドゥングス・ロマンに相応しく初々しい金髪の坊やだ(中途半端なマーク・レスターにしか見えなかったが)。しかし、 こいつがほんとに「勇敢だが愚か」――単なる阿呆だと思うが――なもんで、周り中が大迷惑。自らが望んだ運命ではないにせよ、 選ばれた立場の責任と意味をてんでわかってない。また、周囲がよってたかって、この子を甘やかす。何だかんだ文句を言いつつも、 往年のドラゴンライダー、ブロムや、マイ・ドラゴンのサフィラが尻拭いして回るのだ。これもまたお約束には違いないが、 筆者には未熟な若者が失敗を重ねて成長をしてゆくさまを微笑ましく見守る趣味は1ミリもないので、 勇気と無謀を勘違いして突っ走るガキのケツをひっぱたいてやりたくてイライラしたのみ。 母のような愛情でエラゴンを支えるサフィラとはえらい違いで、すみませんね。
そう、そのサフィラにしても、 孵化したばかりの時はカルガモの雛みたいにエラゴンのあとをくっついてたのに、あっという間に彼の母親然としてきたのも不思議。 良くも悪くも(ダイジェスト版かと思ったくらい)、ともかく展開が速すぎるのだが、長~~~い原作を上手いことまとめた脚本らしいので、 潔く端折る部分が出てくるのは、まあ仕方がないのだろう。それにしても、迫力はソコソコあるものの全く新味のない悪の軍団、 某大国のスローガンにカブる蜂起時の言葉「勝利か死か」等々、全体に漂う「アタマ悪いんじゃねえ?」感にも静かに萎え続け、 くどいようだが中学生ならともかく……と頭を抱えたわたくし。しかし、唯一、身を乗り出したシーンがある。
それはスピードと迫力に充ちた「ドラゴン目線」の映像だ。重力の軛から解き放たれ、 三次元の世界を自由自在に飛翔するドラゴン&ドラゴンライダー。夢の中でしか味わえなかった―― 夢の中では知悉しているからこそすげえ既視感のある――血が沸騰するような理屈抜きのあの歓喜、心躍る瞬間をリアルに味わえるのだ。
人は、羽を希求する。死ぬほど重くて安全な鉄の箱に乗り込んで空中を移動できるようになっても、 自らの意思で単身大空を翔けたいと願う夢は永遠に続く。本作も要は「空を飛ぶ」――しかも単純な自力ではなく、 人竜一体というオプションがもたらすビミョーな優越感付き!を堪能するための設えに過ぎず、 あとは皆その快感を増幅させるための小道具なんじゃねえのと、原作を読んでもいないくせに勝手に決め付けることにした。であれば、 そこらへんの「王道」をパッチワークしまくったような展開や設定も、まあどうと言うことはないというか、どうでもいいというか。
それにしても、竜といえば寺院の天井画タイプしか連想できない身としては、 妙にファンシーな本作のドラゴンが、その……ま、いいか。
(2006.12.20)
主なキャスト / スタッフ
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