わたなべ　脚本家の高木氏はフジテレビヤングシナリオ大賞の入賞者で映画「予言」などの脚本を書かれて、劇団「鵺的」も立ち上げています。こちらと友人でもあり、そのような実写の映像出身の方で、話すと映画にも造詣深い。そういう脚本家の高木さんがアニメを書いているというのに興味を持ったことがインタビューをするきっかけでした。

高木　実写よりもアニメーションの方が自由度が高いし、実感として脚本家の本分が守られていると思います。アニメの方がどうしても下に見られることが多いのですが、両方を知る者として言わせてもらえれば、やはりアニメの方がクオリティが高い。だから海を越えられるんです。

わたなべ　映像のスタッフは多くが経済的に困難を抱えている場合が多いから、それは素晴らしいことですよね。クリエイターにあまりお金が入らないのが、アニメだと安定している。そして、「デュラララ!!」を見てみると、とても面白い。DVDで見せていただいた「バッカーノ！」も面白かったです。高木さんから聞きましたが、大森監督はＪ・Ｊ・エイブラムスが好きだとか。こちらも「エイリアス」を見て以来、好きな脚本家/監督なので、この点でも興味を持ちました。

大森　Ｊ・Ｊ・エイブラムスは「LOST」とか好きですね。話しを好きに広げていて作り手が楽しんでいるのが分かるし、作品としても面白いなあと。「クローバーフィールド」は今イチでしたが。

わたなべ　ＳＦといえば、大森監督は「第9地区」がよかったとツィッターに書いていましたね。こちらが宣伝を手伝っている作品なので嬉しかったです。

大森　「第9地区」も、作り手が楽しんでいますよね。SF映画の要素もいろいろ入っていますし。 （インタビュー後にメールで、大森監督には「第9地区」の応援コメントをいただきました）

わたなべ　「デュラララ!!」も第1話を見たときに、同じように多くの映画の要素を感じました。「ダークナイト」、「スリーピー・ホロウ」などです。後者は首なしライダーの設定は原作通りとはいえ描き方に、後者は駐車場のアクションに、いい意味で映画好きのオマージュを含めて感じました。

高木　大森さんもですが、他の脚本家のみなさんも映画好きだから（笑）。

大森　打ち合わせのときに、映画の話題が多く出てきますね。「ダークナイト」でいえば、臨也（いざや）はジョーカーとか。好きな「蜘蛛女」や「時計じかけのオレンジ」も入っているかも。

高木　原作の成田さんも映画好きです。成田作品は基本的にどれも群像劇で、視点と時制が巧みに錯綜します。アルトマン＋タランティーノ÷2的な感じです。

横山　同じことをやっても面白くないですから、違うこと、今までにやってないことをやるように心がけています。

わたなべ　また、「デュラララ!!」にはネットのチャットの描写が出てきます。文字情報だけになりがちなので、映像化するのが難しかったと思います。

大森　まず、文字だけでなく、音声で読み上げる方法を選択しました。物語の序盤はチャットの書き手が判明していない為、ナレーターと兼任で，モニターの向こうにいる人間を想像するようなつもりで、読んでもらいました。それから、チャットの書き込みがストーリーにどう絡んでくるかも工夫を凝らしましたね。チャットによって、その情報を知っているキャラクターと知らないキャラクターがいるわけで、その見せ方とか。

高木　成田さんがこちらを信頼してまかせてくださったので、各脚本家陣も自由に腕が奮えたと思います。

大森　ネットに関してはネガティブな描写よりもポジティブな描写を心がけています。ネガテイヴにネットを描くのは簡単ですから。

わたなべ　前作の「バッカーノ！」も成田良悟氏の原作ですが、どういう違いを持って取り組みましたか？

高木　「バッカーノ！」は原作四冊分の内容が入れ乱れる複雑な構成でしたが、「デュラララ!!」はそれはやめよう、誰でも入って来られる平易明解な構成にしよう、というところから始めました。とはいえ成田さんの原作なので、あれこれ仕掛けはちりばめてあります。

わたなべ　「デュラララ!!」は池袋の町並みを、かなり忠実に再現していますよね。池袋はこちらの近所なので、見ていてどこを歩いているかなどがよく分かるし、背景の建物や看板まで楽しめます。

大森　スタッフは、何度も池袋に行って写真を撮ってきているので、裏道まで知り尽くしていますね（笑）。

わたなべ　話しがちょっとそれますが、大森監督は一時、アニメを離れて実写のPVや企業ビデオの制作者やディレクターを3年ほどやっていたことがあるとか。

大森　ちょっと離れていましたね。アニメ以外の世界も知りたかったというか。友人たちと飲み屋をやっていたこともあります。そこで、今作の音楽をやっている吉森信さんと会ったんですけど。ある時、飲み仲間でお金を出しあって、そこの常連のボーカリストのCDを出そうってことになったんです。吉森さんにはそのCDのプロデューサー兼ディレクターをやってもらいました。

わたなべ　そうなんですか。

大森　奇妙な縁で（笑）。

わたなべ　「デュラララ!!」は第1クールのオープニングがTHEATRE BROOKですよね。あまりアニメの印象がないバンドなんで驚きました。

横山　今は第2クールで、ROOKiEZ is PUNK'Dに代わっていますね。アニメの印象がないバンドというのも面白いですし、イメージ的にもぴったりな楽曲でした。

わたなべ　先に出たアニメのソフトの売り上げの堅調さはどこからきているのでしょう？

横山　放送したものをパッケージ化して売るわけなので、ソフト化において付加価値をつけます。テレビ未放送のエピソードを収録したり、特典CDや、音声コメンタリーを付けたりもしています。

わたなべ　そうやって購買意欲を高めている。

横山　スタッフの作り上げたクオリティの高さもあって、おかげさまで「バッカーノ！」に引き続き、「デュラララ!!」も異例の高セールスを続けています。

わたなべ　こうやって話しを聞いていると、3人のコンビネーションが絶妙ですね。横山プロデューサーはジャーナリストでもあった方だと聞きます。脚本は実写からで劇団も立ち上げている高木さん、演出は実写も一時手掛けていた大森監督と、経歴がアニメ一辺倒でない人たちだからかなと思いました。

大森　そう言われてみるとそうかもしれないけど、本人としてはよく分からないです（笑）。

高木　嗜好性は意外と違うんですけどね。そこがいいのかもしれない。

横山　また組みたいですね。

わたなべ　この3人での新作も是非やってください。楽しみにしています。

（取材:わたなべりんたろう）