奥田 庸介 (監督) 映画『クズとブスとゲス』について【3/5】
2016年7月30日より、渋谷ユーロスペースほか全国順次公開
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――この作品での奥田監督の演技がすごかったですね。映画を撮らなかったらこうなっているのか?というような……。荒んだオーラにリアリティがありました。
奥田 俺は芝居なんかできないですから、とにかくなり切ることで何とかやり過ごした感じですね。集中し過ぎて台詞が全部飛んじゃったり、大怪我して救急病院に担ぎ込まれたり、スケジュールをずいぶん壊しましたよ。ただ、俺の芝居は技術じゃなくてアートだと言い切る自信はあります。そこだけです、俺の芝居の強みは。「ふざけんじゃねえよ」って何かを発散している。「発散」っていうのは言葉が安いですけど、命の具現化をしているんです。俺がやりたいのは映画作りじゃなくて、宇宙なんです。
――おお、大きい(笑)。
奥田 そう、ユニバース。俺は宇宙を作っているんです!
――はははは。この作品は2時間20分もの大作になりましたね。
奥田 はい。観た人は9割がた「長い」と言うんですけど。
――元々の脚本がこういう長さのものなんですか?
奥田 脚本どおりにやると2時間40分あるんです。芝居のダメなところをどんどん切っていったら2時間20分になったんですけど。この長さは確かに観にくいんですよ。まとまりがないし、岡本太郎ふうに言うと嫌味ったらしい。ただ、俺がやりたいのは命の具現化であり、スクリーンからはみ出る宇宙だから。まとめちゃダメなんですよね。商業でもないし、自主だし、そこで観やすさとかを求めるのは違う。俺たちが何をやりたいかを第一に考えないと自主でやる意味がないし、そこに期待してくれたクラウドファンディングの出資者の人にも顔見せできないぞと、「やりたい放題ぶちまけてやれ!」っていうところで勝負したんです。そうしたら長くなって、観にくいし、背伸びしすぎて技術的にもダメなところはいっぱいあるんですけど、この気張った感じがやっぱりこの映画で俺が好きな部分です。
――今回の作品もテーマは今までと一緒ですよね。底辺で生きる人たちが一生懸命もがく、その生きざまを描いていると思うんですが、ストーリーを作る上でのポイントは?
奥田 この映画はまずラストシーンから着想しているんです。一斗缶でたき火をして、その火が燃え尽きるまで恋人同士が見ている、というのが最初に降ってきて、「おお、これで1本書けるぞ」と思って。で、何回も言いますけど、俺がやりたいのは命の具現化なんですよ。「命」を描くには、相対的に「死」というのが必要不可欠になって、ギリギリのところで死が身近にある人たちをやっぱり描くことになるんです。だからアンダーグラウンドなところで生きるか死ぬかの暮らしをしている人たちの視点になってしまうんです。
――なるほど。前作に引き続き群像劇ですが、生活や家族など、それぞれが守るべきものを持っているという背景が今作では際立つように描かれていますね。
奥田 ああ、そこは自分では意識していませんでしたけど、やっぱり年齢かな……。23歳でゆうばり(国際ファンタスティック映画祭)でグランプリを獲って、わがままを言っていたら大人の世界に叩き潰されて、あれよあれよという間に20代を終えようとして。その一方で一緒にブイブイ言わせてたヤツらが結婚とか大人になって、「俺は天才だ」なんて調子に乗ってたヤツも就職して丸くなって……、みたいなことがまわりで起こる歳なんですよね、29歳って。生活を守るっていうことを入れたのは、それがチラついていたかもしれないです。
出演:板橋駿谷,岩田恵里,大西能彰,カトウシンスケ,芦川誠
プロデューサー:奥田大介,小林 岳,福田彩乃 撮影:矢川健吾 編集:小野寺拓也 録音:根本飛鳥 照明:松永光明
脚本・監督・主演:奥田庸介
製作:映画蛮族 配給:アムモ 98 ©2015映画蛮族
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