インタビュー
榊英雄監督/『捨てがたき人々』

榊 英雄 (監督)
映画『捨てがたき人々』について

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2014年6月7日(土)より、テアトル新宿ほか全国順次ロードショー

人間の根源を衝き動かす金欲、食欲、性欲。必死に求めても逃げていく愛や幸福。生きるって、いったい何なのか? 金の亡者を主人公にした『銭ゲバ』(テレビドラマ化/松山ケンイチ主演)、飢餓から人肉を喰らう『アシュラ』(アニメ映画化)など、いま、鬼才漫画家・ジョージ秋山の作品が世に問い直されている。そして氏の一貫したテーマ――「人間の業と欲望」を徹底的に見据えた近年の代表作『捨てがたき人々』が、原作を愛するスタッフ・キャストの手で映画となった。この難易度の高いハードルに挑んだ監督は榊英雄。脚本にはジョージ秋山の息子でもある秋山命が当たり、原作のコアとエッセンスを大切にしながら、ドストエフスキーの小説『罪と罰』など独自のモチーフを加えて新しい映像ドラマへと再生させている。日本を代表する映画人たちがインディペンデント体制で放った問題作にして、真摯な力作。この覚悟と熱量、高い志を多くの人に受け止めて欲しい。(取材:後河大貴)
監督:榊英雄 1970年生まれ、長崎県五島市出身。95年に『この窓は君のもの』(古厩智之監督)主演で俳優デビュー。その後も『VERSUS ヴァーサス』(00/北村龍平監督)、『ALIVE』(02/北村龍平監督)、『楽園~流されて~』(06/亀井亨監督)に主演。『突入せよ!「あさま山荘」事件』(02/原田眞人監督)、『あずみ』(03/北村龍平監督)、『北の零年』(04/行方勲監督)などに出演し、俳優としてのキャリアを重ねている。07年、『GROW-愚郎』で商業監督デビュー。以降、様々な視点で人間ドラマを描き続けている。また09年に映画、音楽の企画プロデュース制作会社ファミリーツリーを設立、精力的に監督作を世に送り出している。監督作品に『GROW-愚郎』(07)/『僕のおばちゃん』(08)/『誘拐ラプソディ』(10)/『トマトのしずく』(11)/『木屋町DARUMA』(14)などがある。
原作:ジョージ秋山 1943年生まれ、東京都出身。66年に「別冊少年マガジン」(講談社)に掲載された『ガイコツくん』でメジャーデビュー。翌年に連載された『パットマンX』がヒットし、68年の講談社児童まんが賞を受賞。当初、ギャグ漫画が多かったが、70年「週刊少年サンデー」(小学館)に『銭ゲバ』、「週刊少年マガジン」(講談社)に『アシュラ』を 発表し、露悪的ともいえる描写で人間の善悪やモラルを問い、世間の注目を浴びた。 73年から『ビッグコミックオリジナル』(小学館)にて連載がスタートした『浮浪雲』は、広く支持を得て、現在も続くロングランの人気作品だ。80年から84年まで『週刊漫画ゴラク』(日本文芸社)にて成人向け漫画『ピンクのカーテン』を連載。また、壮年に入ってから「ビッグゴールド」(小学館)に『博愛の人』『捨てがたき人々』を連載。
※『捨てがたき人々』1996年~1999年に「ビッグゴールド」で連載。その後、幻冬舎より復刻版が出版。

<Story> 金も仕事もなく、不細工で怠け者の男・狸穴勇介(大森南朋)。生きることに飽きてしまった彼の足が最後に向かったのは、生まれ故郷の港町だった。この町で、両親は幼い勇介を捨て、彼は天涯孤独の身となったのだ。故郷で勇介を知るものはなく、目つきの悪い彼を、誰もが怪訝そうな表情で見ていた。
そんななか、勇介は、ただ一人だけ笑顔で接してくれた顔に痣のある女・岡辺京子(三輪ひとみ)と出会う。京子は痣がコンプレックスで、恋愛を諦めていた。“生きている証”を快楽(セックス)に求める勇介は、彼女に興味を示す。そして、その欲望を京子に押し付け、強姦まがいに関係を持ってしまう。
なし崩しに同棲し、やがてお互いを認めることなく“家族”を作ることになった二人は、それぞれに生きていることの“幸せ”とは何かを考えるのだった――。


榊英雄監督――榊監督は、もともとジョージ秋山作品の愛読者でいらっしゃったそうですが、数ある傑作のなかから、なにゆえ『捨てがたき人々』を選ばれたんでしょうか?

榊 それは簡単です。知ってる作品じゃなかったからなんですよ。もちろん、膨大な傑作群の多くをながく愛読してきました。『海人ゴンズイ』も大好きだし、『ラブリン・モンロー』も大好きです。だからこそ、逆に「僕の知らない作品はどんなのがあるの?」って本作のプロデューサーと脚本を兼務する秋山命さんに聞いてみた。すると、「いや、いっぱいあるよ榊君」と。そこでタイトルを羅列してもらったときに、引っ掛かったのが『捨てがたき人々』だったんです。
で、すぐに貸してもらって読んだら、のっけから掴まれてしまった。もう圧倒的な世界観ですよ。即座に「これやろう!」と。「今、これをやらなきゃいけない!」と直感したんですね。壮年期を迎えて、生きる意味を見出せず絶望する主人公が、完全に今の自分とシンクロした。そんな勝手な思い込みで動き出して、秋山さんを巻き込み、さらに周囲を巻き込みながら、突っ走っていったんです。原作の舞台は名もなき漁師町だけど、わざわざ五島列島に移し変えたりして。

――長崎県五島市は榊監督の生まれ故郷ですよね。

榊 やっぱり、「自分の地元で撮ったほうがいい」って直感的に思ったんでしょうね。まあ、普通はわざわざ行きませんよ。潤沢な予算があるわけじゃなし、合理的に考えると、何百万円もかけて五島でロケをする必要はない。まっとうなプロデューサーなら、「木更津とか熱海でいいじゃん」ってなると思うんですよ。でも、「そういうことじゃねえよなあ」と。僕は、チャチャッと撮って「はい、終わり」みたいなことが、絶対にできないタイプの人間なんで。だから、愛憎に引き裂かれた感情を抱いている故郷で撮らなきゃ駄目なんだと。18歳まですごした島だし、そこで人格形成したわけで。やっぱり原点ですから。
それに、この映画は「メシ喰って、セックスするだけが人間の本性じゃん」っていう人間ドラマじゃないですか。「どんなに格好つけたって、結局はそこに戻るよね」っていう。だからこそ、土地に根ざした人々の営みを、感覚的に掴まなきゃいけない。そこで涙を流し、多感な時期にいろんなことを経験した島だったら、それが可能なんじゃないかと。細かい路地裏まで知り尽くしているから、地の利もありますしね。そう秋山さんと宣言して、突き進みました。

――主人公の狸穴勇介役に大森南朋さん、ヒロインの岡辺京子役に三輪ひとみさんをキャスティングされた経緯をお聞かせ願えますか。

榊 僕のなかでは、企画が動き出した当初から、「狸穴勇介は大森南朋しかない」と決まってましたね。秋山さんからは「格好良すぎない?」とも言われたけど、僕は、「格好良すぎるとか、美しすぎるって理由でキャスティングの是非を問うのは、絶対に違う」と思うんです。役者として禄を食む人間に対する冒涜だと言ってもいい。だから、秋山さんには「そこに可能性があるんだろう。目を瞑って想像してみてよ、背中を丸めた大森の姿を。狸穴勇介に見えるでしょ」と伝えました。ようは、キャラクターと精神性を共有できるかどうかの問題だと思うんです。そういう意味では、大森さんしかありえなかった。
大森さんとは十数年前、まだ仕事があまりなかった頃――下北沢の飲み屋で出会ったんです。仲間たちと飲み食いしながら、映画に対する熱い想いを語り合ってきた間柄なんですよ。それから時を経て、やっと彼と対等に勝負できる企画が見つかった。僕は大森さんの肉体と精神がとても好きだったし、「彼なら絶対に狸穴に見える」と。そういう確信があって、大森さんにお願いしたんです。
で、事務所も通さないでいの一番に電話して、原作を携えて会いに行った。すると、大森さんはページをぺラペラ捲るや否や、「俺、これやるわ」と(笑)。逆にこっちも慌てて、「ふつうもっと読み込むよね。プロットも読んでないのに」って。そしたら、大森さんは「榊さんがやるって言ったら、やるよ。だって嬉しいじゃん」と言ってくれた。心意気を感じましたね。秋山命さんと出会い、大森南朋さんが乗ってくれたことで、企画の両輪ができたんです。

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捨てがたき人々 2012年/日本/カラー/HD/5.1ch/123 分/R18+
監督:榊英雄 原作:ジョージ秋山「捨てがたき人々」(幻冬舎文庫)
出演:大森南朋,三輪ひとみ,内田慈,滝藤賢一,佐藤蛾次郎,諏訪太朗,寺島進,荒戸源次郎,伊藤洋三郎,美保純,田口トモロヲ
脚本:秋山命 音楽:榊いずみ 撮影:宮川幸三 美術:井上心平 照明:木村明生 録音:永口靖
編集:清野英樹 助監督:山口雄也 制作担当:刈谷真 主題歌:「蜘蛛の糸」榊いずみ
制作プロダクション:ファミリーツリー 配給・宣伝:アークエンタテインメント
© 2012「捨てがたき人々」製作委員会
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2014年6月7日(土)より、テアトル新宿ほか全国順次ロードショー

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捨てがたき人々(下) [Kindle版] 捨てがたき人々(下) [Kindle版]

2014/06/03/23:41 | トラックバック (0)
後河大貴 ,インタビュー

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