イタリア映画祭2017トークセッションレポート【2/2】
(取材・構成・写真:常川拓也)
ピエルフランチェスコ・ディリベルト監督
『愛のために戦地へ』監督・主演
1972年パレルモ生まれ。ゼッフィレッリの『ムッソリーニ
とお茶』や、ジョルダーナの『ペッピーノの百歩』に助監督
として参加した後、テレビ番組の制作やMTVの司会など活躍
の場を広げる。脚本上で笑いを意図していた部分が実際に撮影してみたら上手くいかなった経験に関して問われると、レオは「たしかにそういう経験はたくさんあります。笑わせるつもりだったのにみんな笑ってない……でもそれはピフの映画のことで、ぼくの映画ではそういうことはありません(笑)」と会場の笑いを誘った。その後、笑いの種類について、「監督としては面白いと思ったら観客の皆さんが笑ってくれることを期待するけど、すごく面白いのにそれが笑いになって表に出ないこともあります。楽しくて面白いことが必ずしも笑いになって出るわけじゃない」とレオが持説を展開すると、ブルーニとピフも同意し、「コメディの監督はどれだけ観客が笑ってくれたかを成功のパラメーターにしてしまいがちだけど、実は黙ってシーンとしてる時は観客が一生懸命映画の中に入って注意深く聞いてくれていることでもあるのです」(ブルーニ)と語った。
さらに、矢田部が笑いは文化に影響されるもので国境を越えるのが難しい部分もあるのではないかと訊くと、ブルーニは「私たちが当たり前に通じると思っているアイロニーが、イタリアとは異なる文化を持った日本の観客に通じるかどうかはたしかに興味深いことではあります。たとえばジェスチャーを伴ったギャグは伝わりやすいと思いますが、セリフの中にある文化的なものを背景にしたニュアンスなんかはわからないものもあるかもしれない。でも少し受け取り方は違うかもしれないけど、通じるものはあると思う」とコメント。それから泣かせることと笑わせることではどちらが難しいと思うかという話題にトークが及ぶと、ピフは「涙を誘うことの方が簡単で、たとえば子どもや病気といった要素を物語に盛り込むことで泣かせることは割と容易にできると思うけど、笑いを誘うことはもう少し難しいと思う。特に何かメッセージや意味を含めた笑いを描くのはすごく難しいこと」と述べ、レオも「そういう意味では上手いコメディアンはドラマティックな演技もできるけど、いくらドラマティックな演技が得意な俳優であっても必ずしもコメディ演技が優れているわけではないと思う」と主張した。
最後に、好きな日本映画や日本人監督について観客から質問されると、1961年生まれのブルーニが黒澤明や小津安二郎、宮崎駿の名前を挙げるのに対し、1972年生まれのレオとピフは北野武の名を挙げた。ピフは「ぼくたちの世代にとって、日本との最初の出会いはテレビアニメでした。『UFOロボ グレンダイザー』『鋼鉄ジーグ』『タイガーマスク』『キャンディ・キャンディ』『ベルサイユの薔薇』、それからハイジやポケモン……小さい頃はずっとそういったものを観て育ってきたので私たちの心の一部に入っています。北野武にしても、はじめて彼を知ったのは『風雲たけし城』でした。テレビであんなにおかしなことをやってる人が全く違う映画を作ることに驚きました」と話し、昨年のイタリア映画祭で上映され、5月20日(土)より劇場公開される映画『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』が話題を集めているが、イタリアで70年以降に生まれた世代の中で日本アニメの浸透/影響力の大きさを改めて伺い知ることともなった。
トークセッションを締めたのは、この日レオからイジられ続けたピフ。「最後に日本に対する私の愛を表明するために私が知ってるすべての日本語を言います」と立ち上がり、再び日本語で「わさび抜きお願いします」とコメントし、会場は爆笑に包まれた。
( 2017年4月30日 有楽町朝日ホールで 取材・構成・写真:常川拓也 )
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どうってことないさ [2016年/105分/原題:Che vuoi che sia] 監督:エドアルド・レオ
愛のために戦地へ [2016年/99分/原題:In guerra per amore] 監督:ピエルフランチェスコ・ディリベルト
君が望むものはすべて [2017年/101分/原題:Tutto quello che vuoi] 監督:フランチェスコ・ブルーニ