矢崎 仁司 (監督)
映画『風たちの午後 デジタルリマスター版』について【3/5】
新宿K‘s cinemaにて公開中、
3月9日(土)よりアップリンク吉祥寺ほか全国順次公開!
公式サイト 公式twitter 公式Facebook (取材:深谷直子)
――脚本作りにはどれぐらい時間をかけたのですか?
矢崎 覚えていないですけど……。今回、劇場で販売するパンフレットに採録シナリオを載せているんだけど、それとは違う撮影当時のシナリオを石井さんが持っていたのが最近出てきたんです。僕は映画が終わるといろんなものを焼いてしまうので何も残っていないんですけど、石井さんが「こんなものがありました」と言って持ってきて、見たらわら半紙にガリ刷りなんですよね。今の人はそんな言葉も知らないだろうけど、鉄のペンで書いて謄写版印刷したもので。
――学生映画という感じですね(笑)。それは採録版とはかなり違うんですか?
矢崎 もう読んでいて自分でも恥ずかしいほどで。リマスタリングのためのクラウドファンディングの支援者へのリターンにしたんですが、本当は出したくなかった(苦笑)。すごく変なシーンがいっぱいあります。
――そうなんですか(笑)? そういうシーンは撮影しなかったのですか?
矢崎 いや、撮影した覚えはあります。最初のうちはシナリオ通りに撮影していましたが、応援に来てくれた長崎監督から「矢崎さん、映画はシナリオ通りに撮っちゃいけないよ。シナリオは壊すためにあるんだ」という助言をもらったので、そこからは吹っ切れて、全然シナリオにないシーンを取り入れるようになったんです。
――登場人物たちの生活の描写がとても生々しかったですよね。美津が部屋で一人コロッケを食べている姿など、なかなか映画で見ないもので。
矢崎 脚本には、夏子の部屋での描写として「虫のように這う」とト書きにあったぐらいなんですけど、綾せつこさん、伊藤奈穂美さんと出会ったことで、感情を映し撮ることができました。
――脚本にそんなに細かい動きまでは書いていなかったんですか?
矢崎 そうですね。夏子がアパートを出て行くシーンは、どうやったら愛した人の部屋を去れるだろうか? シナリオでは多分、「きれいに洗い物を済ませて出ていく」と書かれていたと思うんですけど、何かをしながらでないと出ていけないんじゃないか?と思って、「じゃあ歯を磨こうか」と。そういう感じでシーンを作っていきました。
――綾せつこさん、伊藤奈穂美さんという主演のお二人はどのように選ばれたんですか?
矢崎 伊藤さんは、長崎監督の『ハッピーストリート裏』(79)っていう映画に出演なさっていて、僕は助監督をしていて、伊藤さんに一目惚れして(笑)。そのときに「僕が監督をするときは出てください」とお願いしていました。綾さんは、当時Mr.スリムカンパニーという劇団にいて、長崎監督と一緒に公演を観に行って出演交渉しました。音楽も、僕は友部正人さんが好きだったのですが、ライブを見に行ったらバックで演奏していた信田和雄さんのピアノがすごくよくて、ライブが終わったら信田さんに音楽を頼みに行っていました(笑)。
――みなさん一目惚れなんですね(笑)。伊藤奈穂美さんは、どんなところに一目惚れしたんですか?
矢崎 伊藤さんはベタつかないんですよね。「乾いてるな、この人」というのは魅力でした。当時僕がいちばん熱望していたのは「乾いた映画」でした。僕の印象ですけど、あの頃の日本映画って、もっと湿っていたんです。だから非常にウェットな話で非常に乾いた映画を作るということに挑みたいと。それは『三月のライオン』へと続いていくわけですが。
――確かにまったく湿っていないですね。夏子も映画も。
矢崎 これは多分、綾さんの言葉だったと思うんですけど、「矢崎さんの映画って、お寺の瓦屋根に誰かが石を投げて、コロコロコロ……と転がる音をみんなが聞いていて、石が屋根から落ちると無音になるけど、最後に地面に落ちる音を待つみたいな映画だね」と。「ああ、僕はそういう映画を撮りたいんだな」というのを教えてもらった気がしました。
――演じるのも苦しそうな役ですが、お二人とも張り詰めた素晴らしい演技をされていました。
矢崎 伊藤さんも文学座出身なので、芝居をもっとしたかったんだと思うんですよ。長崎監督の『映子、夜になれ』(79)や『九月の冗談クラブバンド』(82)など魅力的な女性を演じています。
出演:綾せつこ,伊藤奈穂美,阿竹真理,杉田陽志
監督:矢崎仁司 脚本:長崎俊一,矢崎仁司 企画:三谷一夫 プロデューサー:平沢克祥,長岐真裕
撮影:石井勲,小松原淳 録音:鈴木昭彦,吉方淳二 編集:中島吾郎,石沢清美,目見田健
音楽:信田和雄,阿部雅志,内田龍男,矢野博司,BOOZY 制作:追分史朗,長崎俊一
協力:ヨコシネD.I.A.,草野康太,原風音,本間淳志,戸丸杏 宣伝美術:林啓太,矢島拓巳 WEB:徳永一貴
製作:ABCライツビジネス,フィルムバンディット,映画24区 宣伝・配給:映画24区
© 2019 映画「風たちの午後 デジタルリマスター版」製作委員会
公式サイト 公式twitter 公式Facebook