――『風たちの午後』というタイトルは、どなたがつけたんですか？

矢崎　最終的には僕ですね。こんなことを言うとクレームが来ちゃうかもしれないけど、僕は山口百恵さんの大ファンで、百恵さんのアルバムの中にこのタイトルの曲があるんです。題名に惹かれたのと、僕は川島雄三監督が大好きなのですが、今村昌平監督が編集した『サヨナラだけが人生だ―映画監督川島雄三の一生』という本を読んでいたら、川島監督は、次に撮ろうとしていた作品を撮れないまま亡くなってしまったんですが、「風だ…風だ、こいつを見たヤツは誰もいない」と遺言のように言い残したんだそうです。それをあえてこの映画のタイトルのところに出しました。そんな川島雄三への想いが込められています。

――この映画を初めて観る方も多いと思いますし、公開時に観て、それ以来久しぶりに観る方もいると思いますが、初めての方はどんなふうに観られると思いますか？

矢崎　どうなんでしょう？　意外とビックリしたのは、三谷さんと一緒に若い俳優さんたちと観たときに、みなさんの心に触った感じがあったので、今だから逆に大丈夫なのかな？と思いました。友人である小説家の保坂和志さんも試写を観たあとでメールしてくれて、「これは今見せるべき映画だ」と。嬉しいのと同時に新たな気持ちになっています。今、山戸結希監督がプロデュースもしている『21世紀の女の子』(18)という今の女の子たちの問題を女性監督たちが撮っている映画が公開されていますけど、すごく観るのを楽しみにしてます。きっとこの『風たちの午後』と一緒に観るとすごく面白いと思いますね。ゴダールが「女性はもっと女性自身の問題を撮るべきだ」みたいなことを言っていたと思いますけど、最近女性が撮る映画が面白いなと感じます。山戸監督の『溺れるナイフ』(16)や山中瑶子監督の『あみこ』(17)を観たとき、突き抜けているなと感じました。早く作り手が女性であるとか男性であるとかいうくくりがなくなるといいなと思います。

――矢崎監督がこれを40年前に撮っていたのはすごいことですよね。当時どのような反響があったのでしょうか。

矢崎　海外で最初に上映したエジンバラでは。観客から「私はレズビアンですが、この映画はレズビアンの映画ではないと思います」と言われて、「その通りです」と答えました。性は俳優の仕事だと思っています。人間として見つめるのが監督の仕事だと。俳優の性別で作る映画が変わったりはしないんですよ。

――『風たちの午後』が今公開されるということには意義があると思いますが、あらためてどうお考えですか？

矢崎　企画した三谷さんは、LGBTのくくりとかではないものとして、これを世界に放りこみたかったんだと思います。40年前、「ストーカー」という言葉も「LGBT」という言葉もないときに作られた映画が人の心に触るということで愛してくれたんだと思いますし、今だからこそ、矢崎が撮る新しい風を観たいと言ってくれました。だからその新しい愛の映画への滑走路として今回リマスターがあると思っています。「動機が愛ならやっちゃいけないことは何一つない」と信じて、理解なんてしてくれなくても感じてくれればいいという思いで作り続けた40年でした。これからもそんなふうに映画を作り続けたいと思います。