――処女作ならではの苦労などはありましたか？

矢崎　当時僕たちは「雨降らし」という人工的に雨を降らすなんてことを知らなくて、雨が降ったら雨のシーンを撮るということをしていました（苦笑）。クランクインの日にすごく雨が降って、「雨のシーンはどこだ！」と言って二人が傘をさしてリスの籠を持って歩くシーンを撮りました。

――えっ、そんなに臨機応変な感じで撮影していたんですか？

矢崎　そうです。さすがに後半になったら「雨降らし」を覚えて、公園の水道で雨を降らせて撮影しましたけど、初日の雨は、石井さんに「これぐらいの雨だと雨が映りにくい」と言われて、「じゃあスローモーションで撮ったらフィルムのコマ数の分、映る可能性があるね」と言ってスローモーションにしたりとか。スローモーションに意味があるわけではまったくなくて、少しでも雨が映るかも？と考えてしていたんです。

――そんな試行錯誤を。本当に自主映画という感じですね（笑）。

矢崎　こんなことを言うとあれだけど、雨が降っているのに背後の壁が濡れていないとかありますね（苦笑）。手探りでやっていました。雨が降ったから雨のシーンを撮ろうという現場って、今では考えられないですから。

――（笑）。ラストシーンがとても美しかったです。ハネケの『愛、アムール』(12)はこの作品を模したのでは？と思いました。

矢崎　あそこはこの映画でいちばんお金がかかりました。花を市場で競り落としてもらって。あの花が腐っていく過程が白黒では見えないので、それでカラーフィルムにしたんです。部屋を貸してくれた服部さんも敷き詰めてから腐るまで放置させてくれて、腐ったところで撮影したんですけど、白黒だと敷いたときと違いがわからなくて。

――それでパートカラーにしたんですか？　美的な効果のためではなく。

矢崎　そうです、雨を映したくてスローモーションにしたのと一緒で、腐った花を映したくてカラーにしたんです。

――パートカラーはもう１箇所、食べた花をトイレで吐くシーンでも用いられていて、ちょうど呼応するような感じになっていますが。

矢崎　あそこは赤い薔薇を見せたいと思って、それでカラーにしたんです。トイレは随分見て歩いたんだけど、いい感じのトイレが見つからなくて、最終的に室井滋さんが住んでいた部屋のトイレで撮影させてもらいました。

――それで協力者として室井滋さんがクレジットされているんですか（笑）。

矢崎　そうです。室井さんのトイレがいちばんよかったから使わせてもらって。

――室井さんとはどんなつながりがあったんですか？

矢崎　長崎監督に紹介してもらいました。長崎監督は幕末の坂本龍馬のような人で、各大学で映画を作っている人たちが一緒になって日本映画を壊そうと、自分たちが観たい映画を作ろうと集まりましたね。山本政志監督がアフレコに飛んできてくれたり。

――若かりしみなさんの熱気が感じられますね。

矢崎　表現をずっとやってきて「手を隠す」ということをすごく勉強したんですけど、この作品には手が見えていて恥ずかしいですね。