新作情報
ザ・ホークス ハワード・ヒューズを売った男

http://www.finefilms.co.jp/hoax/

2011年4月30日(土)より、シアターN渋谷ほか全国順次公開

INTRODUCTION

名匠ラッセ・ハルストレム監督が、名優リチャード・ギア主演で綴る
伝説の大富豪ハワード・ヒューズの“偽りの伝記”を執筆した、ある作家の<真実の物語>

『ザ・ホークス ハワード・ヒューズを売った男』11971年ニューヨーク。そこには、幻覚、妄想、詐欺といった危険性が常に隣り合わせにいた。世間から見放されていた作家クリフォード・アーヴィングは、世界一の権力と財力を誇り、正体が謎に包まれていたハワード・ヒューズに目を付け、偽りの伝記を大手出版社マグロウヒルに売りつけ、大金を手に入れようと企てた……。『サイダーハウス・ルール』『ショコラ』など数々の名作を世に送り出した名匠ラッセ・ハルストレム監督は、名優リチャード・ギアほかハリウッドを代表する豪華キャストと実力派スタッフを迎え、膨大な史実調査を基に、クリフォード・アーヴィングとハワード・ヒューズという本来は何の関係も無かったはずの二人の男の存在を通して、政治の混乱や不正がメディアに蔓延していた70年代アメリカの時代思潮を巧みに映し出す。時代と政治社会に翻弄された人々を壮大なスケールで綴り、観る者の心を揺さぶる人間ドラマが誕生した。

アメリカ史上最大規模のスキャンダル
世界を震撼させた世紀の詐欺事件を元に映画化

一人の作家が影響を与えたウォーターゲート事件、ニクソン政権の失脚

メディアの捏造は、今や世界各国の文化に欠かせない要素と言っても過言ではない。絶え間なくスキャンダルが発生する今の時代の幕開けとなったのは、おそらく1970年代初頭にニューヨークで起きたアーヴィングとヒューズを主人公とする世紀の詐欺事件だろう。アーヴィングはタイム誌で“今年を代表する詐欺師”とされた。2年以上を刑務所で暮らしたアーヴィングは、出所後に自分自身の回想録「ザ・ホークス」を書いた。その内容はより真実に近く、偽のヒューズ回顧録を創作するに至った経緯を描いているとされている。本作では、アーヴィングの大胆な嘘とともに、アメリカ史上最大規模の権力と腐敗のスキャンダルも描かれている。最終的にニクソン政権を失脚に追いこみ、アメリカの政治を永久に変えることとなったウォーターゲート事件の裏で、アーヴィングは無意識とは言えども何らかの役割を果たしたのだろうか?

1970年代のファッションやインテリアを華やかに、
当時のニューヨーク、ラスベガス、バハマの街並みや風情を見事に再現

撮影はNYマンハッタンとその郊外を中心に行われ、ニューヨークの出版業界から豪勢なホテル、ペンタンゴン、議会図書館、アーヴィングが旅するラスベガスやバハマの街並みまでを見事に再現している。マグロウヒル社の待合室や会議室にならぶ有名デザイナーの家具や装飾品などのインテリア、流行の最先端を行くお洒落な編集者たちの衣装デザインなどを色調豊かに再現し、アーヴィングの自宅には、彼が実際に所有する絵画を飾り、アーヴィングの写真資料を元にスーツなどの衣装がデザインされるなど、膨大なリサーチを基に細部に至るまで見事に再現されている。また、これらのデザインの要素は、現実の権力の世界とアーヴィングが創造した空想の世界の境界を曖昧にすることにも重要な役割を果たしている。

ハリウッドを代表する豪華キャストたちの共演、
熟練された演技から生まれる、心ゆさぶられる名シーンの数々

脚本を読むなり“新鮮”な感覚を受けたと本作の虜になったリチャード・ギアは、詐欺師となった実在の作家クリフォード・アーヴィング役を熱演し、従来のイメージとは異なった魅力で観る者を圧倒する。アーヴィングの親友ディック・サスキンド役には『スパイダーマン2』のドック・オク役など様々な役をこなすイギリス出身の名優アルフレッド・モリナ。アーヴィングの妻エディス役は『ポロック 2人だけのアトリエ』でアカデミー賞助演女優賞を受賞し、『ミスティック・リバー』で再度アカデミー賞にノミネートされたマーシャ・ゲイ・ハーデン。アーヴィングの愛人ニーナ・ヴァン・パラント役は『ビフォア・サンセット』でアカデミー賞にノミネートされ、『パリ、恋人たちの2日間』では監督としても賞賛されたフランス女優ジュリー・デルピー。マグロウヒル出版のアンドレア・テイト役を『脳内ニューヨーク』『アメリカン・スプレンダー』のホープ・デイヴィス。マグロウヒル社会長のシェルトン・フィッシャー役を『バーレスク』『ラブリーボーン』のスタンリー・トゥッチが演じるほか豪華キャストが華を添える。

2011年4月30日(土)より、シアターN渋谷ほか全国順次公開

Production Note

<映画化の経緯>

『ザ・ホークス ハワード・ヒューズを売った男』2アーヴィングをめぐる実話は常軌を逸しており、脚本を手がけたウィーラーは、初めてその内容を聞いたとき、作り話だとさえ思ったと言う。ハルストレム監督と共に、偽りと嘘を土台にし、真実に触発されたフィクション作品を作ろうと決めたとき、事態は一層ややこしくなった。
物語の基本となる事実関係を簡単に解説しよう。1971年、大手出版社マグロウヒル社が、ハワード・ヒューズの回想録を出版する権利を、当時としては破格の100万ドルに近い金額で獲得したと発表した。当時、ヒューズは世界で最も権力のある富豪として有名だったが、公の場に姿を見せなかったため、秘密に満ちた謎めいた私生活に誰もが興味を抱いていた。
著者であるアーヴィングが一流のジャーナリストでなく、多少知られている程度の作家だったことも世間を驚かせた。アーヴィングは以前に、贋作画家エルミア・デ・ホーリーの制作活動を描いた「贋作」という著書を書いており、これがきっかけになったのかもしれないとされた。しかし、事実はそうではなかった。マグロウヒル社は、アーヴィングがヒューズの同意を得たのみならず、ヒューズの長時間の独占インタビューにまで成功したと報じた。アーヴィングは、ヒューズの直筆文書を偽造していたが、それはマグロウヒル社の専門家の筆跡鑑定をも通過してしまう。しかし、ヒューズの自伝が発売される直前になって、ヒューズ本人が10年ぶりに公式声明を出した。バハマからの声だけの電話会見だったが、アーヴィングと彼の著書は重大な詐欺に当たると述べた。
これをきっかけに、すべてはアーヴィング自身の創作であり、ヒューズの元右腕ノア・ディートリッヒから盗み出した未発表原稿と、アーヴィングやサスキンドの合法的取材から得られた歴史的に正確な事実を切り貼りして、アーヴィングがねつ造したことが明らかになった。実際にはアーヴィングはヒューズと言葉を交わしたこともない。結局、アーヴィングはタイム誌で“今年を代表する詐欺師”とされ、著作に協力し経済的にも加担したサスキンドやそのスイス人の妻とともに、2年以上を刑務所で暮らした。アーヴィングは出所後、自分自身の回想録「ザ・ホークス」を書いた。その内容はより真実に近く、偽のヒューズ回顧録を創作するに至った経緯を描いているとされている。
プロデューサーのマウラーは、この本を読んで、アーヴィングの人物像を世間を揺るがした現代初のメディア・スキャンダルの当事者としてだけでなく、面白みがあり予測不能で無礼な映画の主人公として、興味を持った。マウラーは、この究極の“信用に欠ける主人公”は、あまりに嘘が巧みであったために、自分の嘘を信じ始めたのだと思った。彼の姿から、ライフスタイルの変化と政治の腐敗によって、個人間の信頼や国家に対する信用が打ち砕かれたアメリカの一時代も見えてくる。
ウィーラーとマウラーはまず、このストーリーの幾層にも重なる事実を把握する為、ヒューズの奇妙な隠遁から、アーヴィング、嘆かわしい嘘で有名なもう1人の歴史的人物であるニクソン元大統領との関係に至るまで、徹底的に調査することから始めた。
何より役に立ったのは、ウィーラーが本物のアーヴィングに会うチャンスに恵まれたことだ。 ウィーラーの興味の中心はアーヴィングの捉え難い心理だった。ウィーラーはこう打ち明けた。「彼は温かく迎えてくれた。大変温厚だったが、心のうちは全く分からなかった。彼に、なぜあんなことをしたのか?と聞くと、“そこにエベレストがあったからだよ”と彼は答えた。でも、そんなに単純なことじゃないと思う。この詐欺事件は、達成感を求め、何か意味のあることをしたいと思っていたアーヴィングの、その発露の手段だったのだと思うよ」
ウィーラーは言う。「映画の主人公としてのアーヴィングの一番の魅力は、自分の嘘からトラブルが生じるたびに、さらに嘘を重ねていくところだ。そして、その嘘は最も疑り深い人間たちさえも混乱させ続ける。そこに一番魅かれたんだ」。

<ハルストレム監督が語る>

『ザ・ホークス ハワード・ヒューズを売った男』3「アーヴィングが、パフォーマンス・アーティストのように思えた。なぜなら、この詐欺事件をお金の為ではなく、創造の糧として見ていたからだ。純粋な創造の楽しみが、彼を暴走させたんだ」

ハルストレム監督にとって, 『ザ・ホークス〜ハワード・ヒューズを売った男〜』は妄想や詐欺といったダークなテーマを取り上げながらもどことなくおかしさがこみ上げるという、彼の原点への回帰ともいえる作品となった。
ハルストレムは、テーマに関わらず、映画製作の情熱は登場人物によって喚起されると述べる。その人物が想像力をかき立てる人物か、明らかに道徳的に問題のある人物かは関係ない。出会ってすぐに本作に魅かれたのも、その登場人物のせいだと言う。「登場人物たちがとても魅力的だから、脚本を読んですぐ気に入った。こういうタイプの映画をもう一度やりたい、と長い間ずっと思っていた。人間の行動を大胆に観察する、ミロス・フォアマンやジョン・カサヴェテスの作品の伝統を受け継ぐこの種のコメディーが一番好きなんだ」
ハルストレムは、脚本を読むまではアーヴィングのことを知らなかった。脚本を手がけたウィーラーも、これほど大胆で常軌を逸した嘘を重ねて、多くの人の目を欺くことに成功した人間がいたことにショックを受けた。ウィーラーは自分なりのアーヴィング像を造形した。無から驚くばかりの空想の世界を作り上げ、それを現実としてそこに生きようとする、陽気で想像力にあふれる、詐欺をアートにしてしまう天才がそれだ。
ハルストレムは言う。「純粋な創造の楽しみが、アーヴィングを暴走させたんだ。彼は無から虚構の世界を作り出したが、彼の手に負えなくなってしまった。どんどん深みにはまり、詐欺を重ねることになった。ほんの遊びのつもりで始めたことが、重大な違法行為に発展してしまったんだ」
ハルストレムは、主人公を時に魅力的で機知に富み、時にひどく不道徳であるというように、人物像を固定しないというリスクを厭わなかった。「アーヴィングは、まったく信用ならない男で、友人に対する不実な態度にはうんざりしたから、アーヴィングのことをどう考えればいいか、いつも思い悩んでいた。でも一方で、彼には魅力があった。僕はあんな風に上手く嘘がつけないし、誰しも嘘をついて要領よく成功できる人間について思いを巡らせるからね。アーヴィングの魅力は、悪人になりきれないところだ。リチャード・ギアがそんな側面をとてもうまく演じている。たとえ彼のことを信用できなくても、理解はできるよね」
ハルストレムは、才能ある俳優の当意即妙な即興を尊重した。それが、彼らの壁を取り払い、予測できないストーリーの展開にジャズのようにマッチした。「脚本にとらわれる事なく時にそこから離れて遊んでみることもあった」。特にギアとアルフレッド・モリナの共演シーンで、このことが見られた。ハルストレムは2人に、アーヴィングとサスキンドの絶妙な友情の自発性と創造性を表現してほしいと求めた。ハルストレムは言う。「2人ともアドリブがうまいから、おもしろかった。2人の掛け合いは見事だったよ」。
ハルストレムが製作でもっとも重視するのは、生きた場面を作り出すことだ。「製作は演技に注目して構成した。多くの才能ある人々が協力してこの物語をつむぐのを観るのは本当に楽しかったよ」

<リチャード・ギアが語る>

「彼は作家としていつも次の契約を待っていた。役者の仕事と同じで、次の仕事が確約されているわけではない不安感を抱えていたんだ」

製作陣の間では早い時期から、主演はリチャード・ギアの線で固まっていた。ギアは『シカゴ』(2002)でジャズ・エイジの弁護士ビリー・フリンを演じ、その軽妙な語り口やタップダンスといった派手な演技で喝采を浴び、幅広い評価を受け、ゴールデン・グローブ賞を獲得した。「ずっとリチャードと仕事がしたいと思っていた。この役は彼にぴったりだと思った」と、ハルストレムは言う。
ギアは最初からこのストーリーの虜になった。「本当におもしろくて斬新だと思えた数少ない脚本の1つだね。個人、心理、政治などあらゆるレベルの偽物を描くという発想に魅かれたんだ。当時のアメリカ社会の混乱をよくとらえているとも思ったよ。ニューヨークの出版業界、ウォーターゲート事件、ニクソン、ベトナム戦争、ポップアートといった当時のさまざまな要素が一体となって見事に描かれているよ」。
アーヴィングを演じることが決まると、ギアは役作りに備え、外見までも役に近づこうとした。しかし役作りのために、ギアはアーヴィング本人に会わない決心をした。一番の理由は、この映画は伝記ではなく、クリフォードの作り話を元にしたフィクションだからだ。端的に言えば、ギアは、世間に知られるアーヴィングの悪者というイメージが、役作りのうえで邪魔になると考えたのだ。「彼に会いたくなかった。怖かったとも言えるね。自分なりのアーヴィング像が固まっていたから、一連の出来事に対する本人の考え方に過度に影響されたくなかった。足枷になるからね。自分の想像力を抑えずに演じる姿勢を貫いた」
ギアは、アーヴィングに関する膨大な資料に当たり、物語の冒頭のアーヴィングの苦境を自分なりに解釈した。「彼は作家としていつも次の契約を待っていた。役者の仕事と同じで、次の仕事が確約されているわけではない不安感を抱えていたんだ」
ギアが一番力を入れたのは、アーヴィングがヒューズと個人的付き合いがあるフリをすると決めてからの彼をどう演じるかだった。ギアは言う。「ポップアートやポイント・ゲームと同じ感覚で、有名人について論評するというような発想から始まったのだろう。だがそれを信じる人が増えるにつれ、アーヴィングにとってはそれが現実になっていくんだ。心理学的には一線を越えてるね。謎に包まれたヒューズは、格好のターゲットだった。人々は、常軌を逸した神秘主義者だの陰謀家だのヒューズについて勝手な話を作り上げた。中には本当の話もあったかもしれない。空想の世界だね。そんな社会現象に、アーヴィングの企みがぴったりはまったんだ」
ギアはまた、アーヴィングはあと一歩でこの世紀の詐欺を成功させるところだったと感じている。「ヒューズが声を上げなければ、アーヴィングの計画は成功していただろう。社会はそれを望んでいた。それほど大した話で、金の臭いがしたから誰もが真実であってほしいと願っていた。アーヴィングがマグロウヒル社に渡した偽造文書は、実際に見たらすぐに偽物と分かるような代物だったかもしれないが、人びとはそれを本物と信じたかった。アーヴィングもサスキンド夫妻も、その嘘が見破られないような魔法が効いている気がしていたに違いない」。
しかし、魔法は解けた。ギアにとっては演じがいのあるシーンは多いが、次第にダークで緊迫した展開となる。「この作品では、かなり創造性を求められたよ。アルフレッド・モリナと僕が即興で交わすアドリブのシーンも多い」とギアは語る。「監督は特に役者にとって望ましい雰囲気を作ってくれた。縛り付けず、果敢に新しいことや別の方法に挑戦させてくれた。でも同時に、主導権は彼の手にあった」。

<ヨーロッパのバロネス、ニーナ・ヴァン・パラント>

この映画に登場するもう1人の複雑な立ち位置の女性は、ヨーロッパのバロネス(男爵夫人)、ニーナ・ヴァン・パラントだ。事件当時のアーヴィングの愛人で、彼の詐欺の発覚に重要な役割を演じることになった。皮肉にも、ニーナは、アーヴィングのスキャンダルをきっかけに、歌手や女優としてのキャリアを開花させた。リチャード・ギアと共演した『アメリカン・ジゴロ』(1980)を始め数々の映画に出演した。『ビフォア・サンセット』(2004)で2005年のオスカー候補にノミネートされたパリ生まれの女優ジュリー・デルピーがニーナを演じている。
ジュリーはニーナ役についてこう語る。「戯画化せず、生身の陽気なニーナ像を演じようと思ったの。彼女はミステリアスな策士だけど、他の側面もあるわ。本人に会ったことはないけど、彼女の映画を何本か見て彼女の流儀が少し分かったわ。とても洗練されていて、物腰もひと味違うの。この映画では、彼女は女としての魅力を武器にとても大きな役割を果たす人物として描かれてるわ」。

<デザインの視点から>

本作は、1970年代の流行の先端を行く“メディア業界”の世界の国際的かつ自由な雰囲気の中で展開するが、フラッシュバック、幻覚、妄想、偽りの場面も挿入される。ハルストレムは常に登場人物を映画製作の中心に据えたいと考えていたので、ドキュメンタリーに近い画面作りを取り入れながらも、リアリズムを否定するような場面も加えている。また、映画に対する彼のアプローチの主眼は、駆け引き、嘘、腐敗がメディアに蔓延していた70年代の風潮を描き出すことだったが、アーヴィングの人生の周辺にも注目している。
プロデューサーのマウラーは言う。「当時の歴史意識をつかむことが重要だった。背景知識として、アーヴィングやサスキンドが書いているとおり明らかに彼らに影響を与えたベトナム戦争、ウォーターゲート事件、反体制思想と合わせて、同時代にアメリカで起きたすべての出来事を理解したいと思った。こうした要素をすべて盛り込んでこそ、写真、美術、衣装によって物語がより多くを語るようになるからね」。
撮影は、マンハッタンとニューヨーク州北部で進められた。「自分の住む街で撮影できて楽しかったよ」と、長年ニューヨークに住むハルストレムは言う。「ずっとスウェーデンで映画製作をしていたから、こんな経験は初めてだ」。
撮影監督には、長年の盟友であるオリヴァー・ステイプルトンを起用した。コンビでの仕事はこれが5本目となる。ステイプルトンは、従来のビジュアルコンセプトにとらわれずに自由な撮影ができるのはハルストレムのおかげだと考えている。「ハルストレムは『大胆に、独自性を出して』とよく言っていた。僕らは、この映画をこれまでとは違う感じにしたかった。ある意味で、僕以外の誰かが撮影したように見せたかったんだ。創造性を見直す事は、関係を長く続けるために重要な要因だ。特にハルストレムとの関係では重要だね」。
美術監督のマーク・リッカーも製作チームへの参加を熱望した。本作の台本を読んだとき、自分の幸運が信じられなかったという。デザイナーの創造力をかき立てる作品となることがはっきり感じられたからだ。リッカーは言う。「何もかも素晴らしかった。この時代の作品に携われること、特に洗練されたニューヨークの出版業界のセットを作れることがうれしかった」。当初から、リッカーとハルストレムは、ブルックリンのシュタイナー・スタジオのステージにセットのほとんどを作ることに決めていた。映画の雰囲気にぴったりだと考えたからだ。リッカーによれば、「この作品は多層構造になっている。フラッシュバック、幻覚、劇中劇があり、どれも同じ印象では困る。だから、美術はとても重要だった」
アーヴィングは、マグロウヒル社の“権力の回廊”だけでなく、しゃれたホテルの部屋、ペンタゴン、議会図書館、ラスベガス、バハマなどへも出かける。リッカーは、こうした場所のセットをニューヨークで作った。「スケールが大きかった。頭の中ですべての場所に行き、それからセットを作るのは楽しかったよ。セット作りの利点は、壁の位置も備品の配置も、キャンバス地に自由に絵を描くように自由にコントロールできることだね」。
リッカーは、特にマグロウヒル社のインテリア作りを楽しんだ。アーヴィングが権力や金を目の当たりにして、彼の大胆な計画が現実になっていく舞台を一から作り上げた。1970年代のオフィスは、光沢があって明るく広い。パソコンがない代わりにタイプライターが並ぶ発行所の様子にも驚かされる。
また、ビルの外観も変更した。1971年、マグロウヒル社のオフィスは42番街のクラシカルなアールデコ調の高層ビルの上層階にあった。しかし、そこでの撮影は物資の運搬などの関係でできなかった。マグロウヒル社は事件後まもなくロックフェラーセンターに移るため、アーヴィングがヘリコプターで到着するはずのヒューズを待つ場面(現実にはなかったシーン)など重要なシーンの撮影はロックフェラーセンターで行った。リッカーは、できる限り本物の感触を加えようとした。例えば、アーヴィングの自宅のシーンにはアーヴィングの本物の絵画を使う権利を得た。
ハルストレムにとって、リッカーのセットは、彼が求める柔軟性と現実感を備えていた。監督は言う。「彼の作るインテリアは非常に趣があって感心したよ。それでいて派手さはなくシンプルで、とても現実感がある。彼の眼力は鋭いよ。繊細で独創的なディテールで1970年代を再現してくれた」。
衣装のデヴィッド・ロビンソンも、1970年代の細部の再現にひと役買っている。ロビンソンは、コメディーのヒット作『ズーランダー』(01)からタマラ・ジェンキンスのインディー作品『マイ・ライフ・マイ・ファミリー』(07)まで、幅広い作品を手掛けている。 ロビンソンは本作の製作に是非加わりたいと考え、監督との初めてのミーティングまでに、膨大なリサーチを済ませていた。「リサーチ資料を大量に持ち込んだから、監督も簡単に断れなかったんだ」と彼は笑う。「登場人物をリアルに造形したいと思った。監督は、観客に一連の事件を目撃したように感じてもらいたいが、デザインの要素が目立たないようにしたいと言っていた」。
ロビンソンは、1970年代の出版業界人の衣装に熱心に取り組んだ。「1970年代というと、普通はベルボトムのパンツや幅広ネクタイやペイズリー柄なんかを思い浮かべるが、出版業界にはまったく違うファッションのルールがある。1971年のニューヨーク・タイムズに載っている出版社幹部の写真を見ると、1960年代のブルックスブラザーズのスーツに細いネクタイ、ボタンダウンのシャツを着ている。だから、映画では、そういうファッションと、折り襟が広く襟先の長いシャツを着た流行の最先端を行くおしゃれな若い編集者を混在させた」。
ロビンソンはギアに、ボタンダウンとカーディガンという名門私立校風のファッションを提案した。本物のアーヴィングの写真が主な資料だ。「監督と相談して、アーヴィングが実際に着用していたネクタイやスーツをヒントに衣装を作った」。
衣装担当として最もやりがいがあったのは、豪勢な“黒と白の舞踏会”の衣装デザインだった。トルーマン・カポーティが1966年にワシントン・ポストの編集長キャサリン・グラハムの功績をたたえて開催した舞踏会を参考にした。キャンディス・バーゲン、ノーマン・メイラー、フランク・シナトラ、ミア・ファローら厳選された著名人が参加したことで有名な舞踏会だ。 実際にはこのパーティーにアーヴィングは招待されなかったが、映画では、うっとりさせるような美しさや権力の中で、アーヴィングが自分の運命を決定づけるきっかけとなる場面となっている。
ロビンソンは言う。「衣装の観点からは、多くのパターンが考えられる。前衛的な人もいれば、逆毛やウエスト位置の高いドレスなどケネディ時代のファッションのままという人もいる。キャサリン・グラハム、キャンディス・バーゲン、ミア・ファローら舞踏会に参加した著名人の衣装やマスクも再現した」。ロビンソンが一番楽しんだのは、編集者ホープ・デイヴィスの衣装デザインだろう。「彼女の衣装は、あの年のイヴ・サン=ローランを再現した感じだね。彼女のイメージにもぴったり合ってる。ホープはそれを着こなすことができたんだ」。ジュリー・デルピーの衣装にも頭を悩ませた。「ニーナが舞踏会で着るドレスは、お姫様風だと思った。ジュリーも喜んでくれて、とてもよく似合っていた。とても堂々として気品があったよ」
ハルストレムにとって、衣装やその他のデザインの要素は、現実の権力の世界とアーヴィングが創造した空想の世界の境界をあいまいにするのに、重要な役割を果たした。「自由な雰囲気とキャストとスタッフの意欲的な仕事が際立っていた。この映画は、アーヴィングの作り話の本質は残しつつ、芸術的な自由を存分に活用している」と監督は締めくくった。

<ウォーターゲート事件との関係性>

『ザ・ホークス〜ハワード・ヒューズを売った男〜』では、アーヴィングの大胆な嘘とともに、アメリカ史上最大規模の権力と腐敗のスキャンダルも描かれている。最終的にニクソン政権を失脚に追いこみ、アメリカの政治を永久的に変えることとなった、ウォーターゲートホテルにある民主党全国委員会本部に対する不幸で違法な盗聴事件である。
ウォーターゲート事件の裏で、アーヴィングは無意識にではあっても何らかの役割を果たしたのだろうか。プロデューサーのマウラーが発掘したかなりの数の証拠からは、彼の関与がうかがえる。ウォーターゲート事件の上院特別委員会の公聴会、FBIの資料、ニクソン政権の元メンバーの回顧録などの資料によれば、ニクソンは1972年6月以前に、アーヴィングの未発表作のゲラ刷りを読んだか、要旨を手に入れている。そして、ヒューズが便宜の見返りにニクソンの兄弟に対して行った違法な融資について、驚くほど正確な情報、だからこそトップシークレットである情報が強調されているという事実に不安を募らせた。プロデューサーのレスリー・ホールランは言う。「アーヴィングの作り話が、民主党全国委員会とヒューズの関係を恐れるニクソンをあおった可能性が高いことを発見して、僕らは驚くと同時に興味を持った」
間もなく出版されるアーヴィングの本が到着したのは、ネバタ州での核実験に対する政府を相手取った訴訟や不満のプレッシャーが高まる中で、権力を持つヒューズが政権を転覆させようと画策することをニクソンが恐れるに足る十分な理由がある時期と重なった。さらに火に油を注いだのは、“鉛管工ら”が最初にウォーターゲートホテルに侵入したときに発見した、民主党全国委員会委員長ローレンス・オブライエンがヒューズに雇われていたという事実だった。ウォーターゲートホテルへの2度目の侵入を命じたニクソンが、多くのパズルの断片のそれぞれをどう受け止めたかは誰にも分からないが、間もなく出版されるアーヴィングの著作で暴露される内容が、それに関係することは明らかだった。
例えば、元大統領法律顧問ジョン・ディーンは、著書「陰謀の報酬」の中でこう語っている。「ロバート・ベネットが私に会いに来た。彼は、司法省でアーヴィングを調査することを求めたが、私は、ホールドマン(大統領首席補佐官)がアーヴィングの原稿に書かれている内容を知りたがっていたことを思い出した。そして、ホワイトハウスのスタッフが出版社から原稿の写しを手に入れた」ディーンは、元主席法律顧問チャールズ・コルソンの言葉も引用している:FBIとCIAの元職員であるロバート・メイヒューが、アーヴィングに情報を流しているヒューズの組織の主要人物であったことは、誰もが知っていた。私が見たところ、ホールドマンはそのことが露見するのを恐れていた。もう1つのヒューズのスキャンダルだ。
情報自由法に基づいて入手したFBIの資料から、 FBIのフーバー長官がホールドマンにアーヴィング問題に関する報告書を送ったことが確認できる。このことは、ニクソンの政治顧問チャールズ・“ベベ”・レボゾの以下の証言など、ウォーターゲート事件の上院特別委員会での証言から確証が得られる。「最大の問題は、大統領がヒューズから金を受け取ったことが暴露されることだった。私は、大統領とヒューズの関係についてほんのわずかでも触れるリスクを冒したくなかった」。
広く評価されているマイケル・ドロズニンの著書「Citizen Hughes: The Power, The Money and The Madness」は、ニクソンが、スキャンダルの情報がヒューズの内部組織から民主党員に流れていることを懸念していたと主張している。これはアーヴィングの本に書かれていた違法融資の記述に通じる。ニクソン元大統領は、著書「ニクソン回顧録」で、「ヒューズの組織が関与している可能性があるという新たな情報があった。奇妙な同盟関係の話があった」と記している。
アーヴィングの物語の現実世界における大きな皮肉の1つは、実際にはなかった自分とヒューズとの関係に基づく奇妙な同盟関係を無意識に作り上げ、自分自身がその中心にいると気づいた事だ。

C R E D I T
出演:リチャード・ギア『HACHI 約束の犬』『シカゴ』 アルフレッド・モリナ『ダ・ヴィンチ・コード』『スパイーダマン2』
マーシャ・ゲイ・ハーデン『イントゥ・ザ・ワイルド』『ミスティック・リバー』
ホープ・デイヴィス『脳内ニューヨーク』『アメリカン・スプレンダー』
ジュリー・デルピー『パリ、恋人たちの2日間』『ビフォア・サンセット』 スタンリー・トゥッチ 『バーレスク』『ラブリーボーン』
監督:ラッセ・ハルストレム 『HACHI約束の犬』『ショコラ』『サイダーハウス・ルール』
脚本:ウィリアム・ウィーラー 原作:クリフォード・アーヴィング 「THE HOAX」(ザ・ホークス)
撮影:オリヴァー・ステイプルトン 『ウォーター・ホース』『サイダーハウス・ルール』
音楽:カーター・バーウェル 『トワイライト~初恋~』『ノーカントリー』
衣装:デヴィッド・C・ロビンソン 『ズーランダー』『ジョー・ブラックをよろしく』
編集:アンドリュー・モンドシェイン 『ショコラ』『シックスセンス』
美術:マーク・リッカー 『ジュリー&ジュリア』『私がクマにキレた理由(わけ)』
アメリカ/2006年/116分/英語  原題:THE HOAX 配給:ファインフィルムズ
(c)2006 Hoax Distribution LLC All Rights Reserved.
http://www.finefilms.co.jp/hoax/

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2011/04/18/16:08 | トラックバック (0)
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