フレンチ・フィーメイル・ニューウェーブ
ミア・ハンセン=ラブ監督 ジュリー・デルピー監督 エリーズ・ジラール監督「グッバイ・ファーストラブ」「スカイラブ」「ベルヴィル・トーキョー」
2013年3月30日(土)より、渋谷シアター・イメージフォーラム
にて6週間限定ロードショー!後、全国順次公開
http://mermaidfilms.co.jp/ffnw/
1950年代後半から1960年代の初め、フランスではジャン=リュック・ゴダール、フランソワ・トリュフォー、ジャック・リヴェット、クロード・シャブロル、エリック・ロメールら数多くの映画作家たちが今までの映画とはうって変わった新しい作品を作りだしました。彼らはヌーヴェル・ヴァーグ(新しい波)と呼ばれ、映画の歴史に大きな足跡を残しました。それから半世紀、今またフランス映画の世界に新しい動きが生まれています。ここ10年で20 人以上もの女性監督が誕生し、よく語られる“女性映画”の枠を大きく超えた作品を発表しているのです。
イギリスの「ガーディアン」紙(2011年3月24日付)ではこれらの動きをFRANCE`s FEMALE NEW WAVEと名付けて紹介し、フランスの権威ある映画雑誌「カイエ・ドュ・シネマ」2012年9月号でも表紙を含め大々的な巻頭特集が組まれています。彼女たちの作品には初恋、男女のすれ違い、結婚生活の不和、家族とのふれあいといった自分にとって身近な題材を繊細な演出で表現したものが多く、それゆえに多くの女性たちから熱烈な支持を受けています。ある時は女優として、またある時は監督として、お互いの作品を自由気ままに行き来する柔らかい連帯こそ彼女たちの強み。何かと言えば従党を組んでしまいがちな男性作家に対する強烈なアンチテーゼがそこには含まれているのかもしれません。
映画史上初の女性監督アリス・ギイ(パリ生まれ。1873~1968)を筆頭にアニエス・ヴァルダやクレール・ドゥニを慕う彼女たちには、フランス女性監督の確かなDNAが引き継がれているのです。
グッバイ・ファーストラブ ( 2011年/110分/カラー/35㎜ )
監督・脚本:ミア・ハンセン=ラブ/撮影:ステファーヌ・フォンテーヌ/
出演:ローラ・クレトン、セバスティアン・ウルゼンドフスキー
オリヴィエ・アサイヤス監督の『8月の終わり、9月の初め』(1998年)で女優デビューを飾り、フランスの権威ある映画雑誌「カイエ・デュ・シネマ」で批評活動を展開したのち映画作家となったミア・ハンセン=ラブ。さかのぼること半世紀、ゴダール、トリュフォー、リヴェット、シャブロル、ロメールらヌーヴェル・ヴァーグの作家たちの登場を彷彿とさせるようなキャリアを経て監督となった彼女の長編三作目が『グッバイ・ファーストラブ』です。自身が10 代の頃経験した初恋をモチーフに、心と体が微妙なバランスで揺れ動く多感な少女が大人への階段を登り始める瞬間を、季節の移り変わりのなかで美しくとらえた本作。前二作『すべてが許される』(2007年)、『あの夏の子供たち』(2009年)と共通のテーマを持つこの映画は、監督自らが語るように“喪失や別離をどう乗り越えるか”を主題にしたみずみずしくもほろ苦い青春映画です。
主演のふたりローラ・クレトン、セバスティアン・ウルゼンドフスキーは2000年代にスクリーン・デビューを果たした若手の成長株。ヒロイン、カミーユが大人の女へと成長をとげる手助けをする中年の建築家ロレンツに、シェークスピア、ブレヒト、チェーホフ等の舞台劇で活躍し、『あの夏の子供たち』にも出演したベテラン、マーニュ・ハーバート・ブレックが渋い演技で脇を固めています。また主人公が建築家を目指す後半では、バウハウスの教授たちが住んでいた世界文化遺産のマイスターハウスやデンマークのカストラップにある公共水泳施設、フランスのヴァル=ドワーズ県エンクールにあるサナトリウムなど、モダニズム建築の数々が背景に使用され、前半の風光明媚な南仏の風景と見事なコントラストを構成。スターを投用しないキャスティング、野外ロケ中心の撮影などヌーヴェル・ヴァーグの作家たちが好んだ手法で描かれた淡い初恋の物語は、フランス女性監督きっての理論派ミア・ハンセン=ラブの代表作と言っても過言ではありません。
また本作のフランス公開は、故エリック・ロメールとバルベ・シュロデールが創立した映画製作会社フィルム・デュ・ロザンジュの配給で行われた。
スカイラブ ( 2011年/113分/カラー/デジタル )
監督・脚本・出演:ジュリー・デルピー/撮影:リュボミール・バクシェフ/
出演:ジュリー・デルピー、ベルナデット・ラフォン、エマニュエル・リヴァ
©Paolo Woods
1979年のブルターニュ地方を舞台にしたちょっとおかしな大家族の物語。祖母の誕生日に集った親戚達の繰り広げる人間模様が少女の視点を通して描かれた陽気な群像劇は、監督のジュリーの子供時代の想い出をベースにしたもの。1970年代のファッションや音楽、印象的なエピソードの積み重ね、緻密なキャラクター造形による本作は、群像劇の巨匠ロバート・アルトマンの作品を想起させる意欲作。
<STORY> パリ行きの列車に乗り込む家族連れ。四人一緒に座る席を確保しようと母親アルベルティーヌは他の乗客と大もめ。やっと座席を確保した一家。アルベルティーヌは車窓の風景をぼんやりみながら、はるか昔のヴァカンスの記憶を思い起こしていた。
197×年の夏、アルベルティーヌは11 歳。俳優の両親と共に夏休みを過ごすため列車に乗っていた。ブルターニュ地方に住む父方のおばあさん、アマンディーヌの所へ行くのだ。親戚もたくさん来るらしい。おばあさんの誕生日もついでに祝うのだ。家につくと、いとこのロベールが待っていた。アルベルティーヌは彼と気が合った。年の割にませていたロベールはHな話題も豊富。アルベルティーヌはおばあさんに自分で描いた絵をプレゼント。やがて一族は庭に出て昼食。ジョニー・アリディーやレオ・フェレら人気歌手の話題で盛り上がる女性たち。サッカーに興じる男性たち。その後、年寄りを家に残して車で海水浴に。父とアルベルティーヌが砂浜を散歩しているとヌーディストたちの集まりに遭遇。アルベルティーヌはそこで出会った父の友人シャンタルの息子マチューにほのかな恋心を抱く。DJをしている彼から、今夜のディスコ・パーティーに来ないかと誘われた彼女は、いとこたちと共にパーティーへ繰り出すのだった。この日、夜中になれば空から宇宙実験室スカイラブが落ちてくるかもしれなかった。しかしそんなこわい話はどこ吹く風。アルベルティーヌの忙しい夏はまたたく間に過ぎていった。
ベルヴィル・トーキョー ( 2011年/75分/カラー/デジタル )
監督・脚本:エリーズ・ジラール/撮影:レナート・ベルタ/
出演:ヴァレリー・ドンゼッリ、ジェレミー・エルカイム
アニエス・ヴァルダの代表作『5時から7時までのクレオ』(1962年)を修士論文のテーマに選びソルボンヌ大学で修士号を取得したエリーズ・ジラールは、自他共に認める“シネフィル”です。彼女は卒業後、演劇の道に進み映画でいくつかの脇役を経験し、アメリカのクラシック作品をリバイバル上映するパリの名画座〈シネマ・アクション〉系列館で10年以上広報の仕事をつとめるという異色の経歴をもっています。やがて自分が働いていた映画館をテーマにしたドキュメンタリーを監督した後、本作『ベルヴィル・トーキョー』で長編デビューを果たしました。実際のカップルに夫婦役を演じさせ、現代的でリアルな恋の終わりを描いたこの作品は、妊娠時期をシングルで過ごし情緒不安定な女と、父親になることをなかなか受けいれられない男のすれ違いを巧みな演出で表現しています。また、ルキノ・ヴィスコンティの『イノセント』(1976年)やアメリカ映画のクラシック作品についての目配せがセリフの随所に登場するなど、シネフィル的完成度の高い作品のなかに、妊娠する女という全く相容れそうもない物語をミックスさせたその語り口は、絶妙の一言です。
主演のカップル役は、今フランス映画界で話題騒然のふたり、ヴァレリー・ドンゼッリとジェレミー・エルカイム。難病の子供をもった若い夫婦の日常を斬新な演出で描いた『わたしたちの宣戦布告』(2011年)で監督・主演二役を兼ねたドンゼッリが、本作ではうって変わった妊婦役を情感豊かに演じているのが注目。そして秋から冬へと移り変わるパリの街を硬質な映像美でとらえたのはゴダール、リヴェット、シャブロル、ロメールらヌーヴェル・ヴァーグの監督からオリヴェイラまで、作家主義的シネアストの映画に欠かせない名キャメラマン、レナート・ベルタ。音楽にヴァレリー・ルメルシェ監督・主演の『カドリーユ』(1997年)やシリル・コラール監督の『野性の夜に』(1992年)でユニークなスコアを提供したベルトラン・ビュルガラ。自分自身の経験をモチーフにベテランスタッフの力を借りて作られたこの映画は、フランス人女性監督のみずみずしいデビュー作として心に残るでしょう。
2013年3月30日(土)より、渋谷シアター・イメージフォーラム
にて6週間限定ロードショー!後、全国順次公開
- 監督:ヴァレリー・ドンゼッリ
- 出演:ヴァレリー・ドンゼッリ, ジェレミー・エルカイム
- 発売日:2013/07/05
- ▶Amazon で詳細を見る
- 監督:ミア・ハンセン=ラブ
- 出演:キアラ・カゼッリ, ルイ=ドード・ランクザン, アリス・ド・ランクザン, アリス・ゴーティエ, マネル・ドリス
- 発売日:2011/04/28
- おすすめ度:
- ▶Amazon で詳細を見る
主なキャスト / スタッフ
特集上映情報総合トップページ
- 各シアター情報トップページ
- | ラピュタ阿佐ヶ谷
- | 新文芸坐
- | シネマヴェーラ
- | アテネ・フランセ文化センター
- | 国立映画アーカイブ(元フィルムセンター)
- | 神保町シアター
- | 池袋シネマ・ロサ
- | 上映情報 PickUp