『ハイヒール革命！』
第25回レインボー・リール東京・舞台挨拶レポート 【2/3】(取材：深谷直子)

2016年9月17日(土)、ヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル池袋ほか全国順次公開

古波津陽監督

『築城せよ！』（09）などの長編映画のほか、TVドラマやドキュメンタリー、MVなど様々な映像作品を手掛ける古波津陽監督は、「LGBTという重いテーマの映画を撮る中で今までの作品との違いを感じたか？」という質問に、「今回は全部が違っていて、そもそもドキュメンタリーとドラマを混ぜるということも異色でしたが、テーマとしてはLGBTを描こうというよりは、『真境名ナツキさんという人の個性がどこから来るのか？』ということを掘り下げることしか最初から考えていなくて、ドラマになろうとドキュメンタリーになろうとずっとそこは一貫していました。僕の中では、自分が基準で生きていますから『自分が普通』とどこかで思っていますけど、でも撮っている間に『“普通”って何なんだろうな？』というのをすごく考えるようになって、お客さんの“普通”という概念が壊れていくような映画になればいいなと思いながら作っていました」と答えた。

さらに映画としての本作の特筆すべき点は、単なる成長物語にはなっていないところ。波乱万丈の思春期を経て、よきパートナーと出会い、自然体での生活を送る現在の真境名の姿も映画は捉えるが、幸せを掴んでよかったな……、と思ったのは束の間、家計も家事も彼に頼って言いたい放題の真境名の行動は、互いの愛情があるとしても度を越したものと感じられて、観る立場としてはザワザワさせられる。
「真境名をどう演出したか？」と質問された古波津監督も、「ナツキさんはご自分としてそのまま出ているので役者としてという認識はないんだけど、ただ1本の映画の中での振り幅としては、本当に可愛くキメているときのナツキちゃんと、超ズボラなときのナツキちゃんとの振り幅は半端じゃないなと。これはすごいものを見ているな、と思いながら撮っていました」と、その部分での驚きを明かしていた。それに対して真境名は、「ちゃんとキメていかなきゃみたいなことを最初は思っていたんですけど、だんだん素の私を見せたいみたいなことになったので、『どうしよう？　もういいや！』って思ったらあんな無様な姿を晒すことになってしまいました」と苦笑い。
考えてみれば「マイノリティ」と呼ばれる人の人生が忍耐だらけのものだろうということも、また映画が特別に優れた人や苦労している人を被写体にするものだということも、思い込みであり偏見である。美点もあれば欠点もある、そして生きているうちにどんどん変わっていく一人の普通の人を描いた本作は、多くの人に普遍的な思いを抱かせるはずだ。

また、濱田への演出についても同様に尋ねられた監督は、「濱田くんは女の子役として現場にいらっしゃるわけじゃないですか。かつらだし、最初は僕自身も『がんばって女の子になっているんだな』というのを感じるんですけど、あるところから無理してスイッチをオンにしなくても完全に女の子でいられる段階に入ったみたいで、女の子たちと休み時間にバレーボールをしていると、どこに濱田くんがいるのか分からないぐらいキャピキャピしていて自然に溶け込んでいて『ああ、彼は行けるな』と思いましたね」と俳優としての資質を絶賛し、会場から大きな拍手が上がった。真境名が「目覚めなかった？　大丈夫？」と興味深そうに問いかけると、濱田は「まだギリギリ大丈夫」と答えてノリのよさも披露した。

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