――初めての主演映画ということでも今までにない体験をされていると思いますが。

松浦　そうですね、舞台挨拶とかも初めてですし。

――みなさん連日劇場に足を運んで、本当に熱心ですね。しかもお客様たちからすでにとても愛される作品になって。

松浦　ひとりでも多くのお客さんに観てもらいたいですし、映画は観てもらってなんぼだと思っていますし、スケジュールが合う限りはできるだけ劇場に出向きたいなと思っています。今別作品も動いているので、それを終えてから夜8時に劇場に入って、というのは結構大変だなあって思っているところなんですけど、ただ、元気をもらっています。来てくださったお客さんのあの顔を見たら、いやあ、嬉しいですよ……。そういうのがすごく力になっていたりするので、スケジュールが合う限りは来てやるぞ、って思っています。

――この映画のどんなところがお客様の共感を呼んでいるのだと思いますか？

松浦　監督含め全員がそのときの等身大をぶつけてやったというところだと思います。もちろんドラマや脚本も素晴らしいですけど、言いようのないものを画から感じてくれているんじゃないかと。僕も観ていて恥ずかしいお芝居の部分はたくさんありますけど、でも等身大の何かをぶつけられている感は、画からも演出からも役者からもすごく感じます。

――本当に等身大。すごくリアルなんですよね。

松浦　なんかこわいのは、中には「本当にダメンズなんですね」と言ってくる人とかがいて、「いや、映画ですから」ってすごい言っているんですけど（苦笑）。知り合いとかにも「松浦さんってこういう人なんですね」って言われて、僕の日常を見ている感覚になっているようで、それって嬉しいことなんですけど、複雑でもあって。梅田さんのファンは増えているんですけど、僕は映画を観て混乱する人が多いみたいで「こういう一面があるとは思わなかったです」って。

――えっ、そんなに！？　森本のぶさんも、映画を観た人から「騙されるんじゃないか？」って本気で警戒されたようですよね。

松浦　そう、観ているうちに「ドキュメンタリーを観ているのかな？」みたいな不思議な感覚に陥るんですよ。僕も自分で自分を盗み見しているような変な感じになってくるんです。「実話を元にしている」って言ってるし、佳織パートは違うんだけど誤解されそうだ（苦笑）。

――役者さん自身が戸惑うほどリアルだっていうのすごいですね（笑）。でも本当にすごく自然でサスペンスがあって、ダルデンヌ兄弟の映画みたいだなと。

松浦　そうですよね。嬉しいです。僕もダルデンヌ兄弟が大好きで、そういうところでも春本監督と合ったんですよね。

――春本監督との出会いもハネケでしたし、松浦さんもかなり映画がお好きなんですね。他にはどんな作品がお好きなんですか？

松浦　いろいろ観るんですけど、僕が役者を目指すきっかけになったのは韓国映画の『オアシス』（02）です。福岡でサラリーマンをやりながらCMに出始めたころ、母親が「こういう仕事をやっていきたいならこれを観なさい」ってDVDを送ってきて。障害者とヤクザの恋愛ものなんですが、冒頭を観て苦手だと思って観るのをやめてしまったんですよ。でも1週間ぐらい経って「1回観てみるか」って観て、そうしたら……。僕は最初主人公の女性を本当に障害がある人が演じていると思っていたんですよ。そのときは役者なんて全然興味なかったし。でも途中で「自分が健常者だったらこんなデートをする」みたいな幻想シーンがあって、「ええ！これ女優さんなの！？」と。手品みたいな衝撃を受けて、ボロボロ泣けてきて、「お芝居って何？」って、そこから舞台とか映画を観るようになりました。

――おお。入り口がいきなりそういう作品だったんですね。

松浦　そうです、母親にも感謝ですね。