松浦 慎一郎 (俳優) 映画『かぞくへ』について【6/6】
2018年3月16日(金)まで20:55~ユーロスペースにて上映中、3月17日(土)18:00よりユーロライブにて一夜限りの追加上映決定。(チケット受付は3階ユーロスペースにて)、横浜シネマリンでも上映中。
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――お母様もかなり映画がお好きなんですね。
松浦 いや全然。『オアシス』を薦めたことすら忘れていましたから。ドキュメンタリーの仕事があって五島に帰ったときにその話をして、母親にも言ったら「ええ? そんなもの送ったかねえ。あれ面白かったかねえ?」って。何だこの人は、って。
――(笑)。
松浦 そのぐらいですかね。五島列島には映画館がなくて、映画に触れる機会がなかったんです。そして父親がすごく厳しくて、テレビドラマを見せてくれなかったんです。小・中・高と「9時以降テレビは見るな」って。ただ、映画は月に1回か2回、土曜日とかにレンタルビデオ店から好きなの借りて観ていいぞって、それがすごく楽しみだったんです。クラーク・ケントっていう名前のレンタルショップで、お酒とか本とかも扱っている片隅にビデオのレンタルコーナーがあるという小さい店なんですけど、いつも「テレビ見ないで勉強しろ」って言っている厳しい父から「今日はクラーク・ケント行くか?」って言われると「やったー!」って弟と二人ですごいテンション上がって。
――それもすごくいい体験ですね。こんなに情報があふれている時代に1本1本がすごく貴重なものになりますね。
松浦 はい。それで映画館には……、僕はいじめられっ子だったんですけど、中1のときにいじめを題材にした論文を書いて、それが文化放送局賞というのをいただき、授賞式のために父親と長崎市に行ったことがあったんです。で、昼間時間があったので「何したいや?」って言われて「映画館に行ってみたい」って言って。『学校の怪談』(95)がやっていたのでそれを観ようって、長崎の映画館に初めて入って。あのドキドキが忘れられないですね。夏だったんですけどクーラーが効いていてヒヤッとしてて、ザワザワしていたのに暗くなったらシーンとして、「えっ、何? この神聖な感じ」って。で予告が始まって、『学校の怪談』が始まって、「うわー、すげえ」って。その次は中学を卒業して、卒業旅行じゃないですけど友達同士で日帰りで長崎の本土に行ったときに『もののけ姫』(97)を観ました。人が多すぎて通路の階段に座って観ていたのを覚えています。最初に蜘蛛みたいなのがガーッと動く、あの動きにシビれて。「映画館すげえ。こんなにたくさんの人たちがひとつのものを観るために集まって、すげえ空気」って。
――それも幸せな体験ですね。今の子たちは映画とそんな出会い方はできないでしょうね。
松浦 パソコンでも観られますもんね。だからこそこういう空間は必要だと思います。パソコンじゃ味わえないですから、ひとつのものを共有するっていうあの空気は。いやー、シビれましたね。だから五島上映も楽しくて。
――あ、『かぞくへ』を五島で上映してきたんですか。
松浦 はい、ユーロスペースでの公開の前の週に先行上映会をやったんです。映画館じゃなくて鯨賓館というホールで、そこに340人ぐらい、立ち見が出るぐらい入って。テスト期間中だったので高校生だとかの若い子が来られなくてご年配ばかりで、みんな映画を観る習慣がないから、旭が騙されるところで「慎ちゃん、騙されちゃいかん」とか言ったり、おじいちゃんが「こら~~!」って叫んだり。佳織に怒られるシーンでは「はっきりせえ」とか言われたり、会長のシーンでは笑いが起きたり。もうよく笑うんですよね。僕が怒鳴るシーンでも、おじいちゃんおばあちゃんだから達観していて「怒り過ぎだろう」って笑ってて(笑)。すごいなと思いました。翌日も、両親とコーヒーを飲みに行ったら喫茶店が満席で、みんなが映画の話をしているんですよ! 「あれは別れた方がいい」とか「いや私はあの女性の気持ちわかるばい」とか。次にご飯を食べに入った店でも「映画観たよ」とか「彼女さんかわいそうよ」とか、行くとこ行くとこで。よかったなあと思いましたね、島で話題がないから、映画が活力になっていて。これがテレビとかでは味わえない映画の力だなって。僕が中学生のときに感じたものを五島でみんなに感じてもらえてすごく嬉しかったです。これがもっと続いてほしいなと思いますね。五島にも映画が根付いて、ゆくゆくは映画館ができればいいなあと。
――本当ですね。すごくいいお話をありがとうございました。『かぞくへ』という映画がすごい力を持っているんだと思いますけど、この作品が多くの人に届き、さらにいろんな映画を劇場で観るきっかけになってくれたらいいですね。五島でも各地でも。
松浦 映画館でしか味わえない感覚が広がってくれたらいいなと思いますね。特に若い人に観てもらいたいです。知り合いとかに声をかけると結構「DVDは出ていないんですか?」って訊かれちゃうんですよね。そこでイラッとするわけじゃなく「映画館でぜひ観てください」って言っています。その体験の素晴らしさを知ってもらうのが今の僕の仕事かな、って思っています。
( 2018年3月6日 渋谷・ユーロスペースで 取材:深谷直子 )
出演:松浦慎一郎,梅田誠弘,遠藤祐美,三溝浩二,おのさなえ,下垣まみ,瀧マキ,森本のぶ
監督・脚本・編集:春本雄二郎
撮影:野口健司 照明:中西克之 録音・整音:小黒健太郎 制作:福田智穂 助監督:浅見佳史
音楽:高木聡 プロデューサー:深谷好隆,春本雄二郎,南 陽 海外セールス:植山英美(ARTicleFilms)
配給:『かぞくへ』製作委員会 配給協力:コトプロダクション ©『かぞくへ』製作委員会
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