佐藤 寿保 (監督) 映画『華魂 幻影』について【2/5】
2016年4月30日(土)より、新宿K’s Cinemaにて公開
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――映画館の猥雑な雰囲気や、そこに集まる人々の濃密な人間関係には懐かしさを感じました。
佐藤 今回のテーマは「愛の激情」ですからね(笑)。いわゆる薄っぺらな“愛してる”どうのこうのといった世界観だけではなく、映画へのオマージュみたいなものもあるし、老若男女が抱えている問題から愛がにじみ出てくる。それぞれの愛が集束し、最後は噴出して爽快感で終わるという。
――オマージュしている映画が意外と王道的な古き良き作品ばかりで熱くなりますね。劇中劇のポスターは『風と共に去りぬ』(39)そのままですし(笑)、“オードリー”や“ボギー”という名前も出てきますし、ダイナマイトが出てくるのは『気狂いピエロ』(65)かな?と。
佐藤 ああ、そうですね。それと自分の映画でも結構ダイナマイトというのは使っていたりして。
――なるほど。他にも監督の過去の作品からの引用のようなものはあるんですか?
佐藤 劇中劇のタイトルが『激愛』というのは、俺のピンク映画のデビュー作が『激愛!ロリータ密猟』(85)だったので、実はそこから取ったりしていますね。
――ああ、あと、主人公の沢村が昔書いた脚本のタイトルが『銀幕の恋人たち』でしたが、監督のフィルモグラフィの最初がこのタイトルの作品でした。
佐藤 そうです。学生時代に撮った8mm映画なんですけど、そこから持ってきて。その映画も映画の中の少女に恋してしまうような男の話だったので、今回の映画とちょっとダブる部分があったりしてね。10代の後半のころに撮った映画なんだけど、変わらぬものがあるなあと。
――主人公の沢村も中学生時代から映画監督を目指していたという設定ですね。でも影があって、いじめを受けてもいたようですが。
佐藤 まあそういうことですね。沢村は今は映写マンをやっているけど、元々は撮ることを目指していて、それはカメラを介在させることによってしかコミュニケートできない、一方的に見ることが社会との関わりであるというキャラクターにしようと考えてそうしました。決して器用ではなく暗闇の中で映写マンをやっている。子供のころからまわりになじめずいじめられたり、疎外感を感じている性格にしようと思いました。
――いまおかしんじさんとの脚本作りはどのように進めていくんですか?
佐藤 元々ピンクというのは、シナリオライターに「こういうのを書いてくれ」と依頼してそれをそのまま撮る、というやり方ではなく、そこに直しを入れたりアイディアを出し合って加味していくような感じなんですよ。だから自分の脚本作りは常に共同作業で、どんどんアイディアをぶち込んでいく感じです。例えば劇中劇のヘリコプター、……ありますよね?ヘリコプターみたいな描写が(笑)。
――ヘリコプター? ああ(笑)!
佐藤 ははは。まあそこはあんまり、観ていない人のために伏せておいて……。ああいう馬鹿馬鹿しいことが、シナリオを詰めて行く中でどんどん出てくるんですよね。あそこまで飛んじゃってもいいだろうってね。
――あれを映像化するのもすごいですよね。“ヘリコプター”はどうやって撮っているんですか?
佐藤 アナログですよ。CGは一切使いません。血糊とかにしても一発勝負というか、そういったところで面白味みたいなものが出るんじゃないかなと。特殊造形の松井(祐一)さんに前作からそういうのを作ってもらっています。劇中劇に出ていた役者も、川瀬(陽太)にしろ愛奏にしろ、あの寒い中必死でやってくれました。劇中劇の撮影は3月の非常に寒い時期だったんだけど、途中で嵐になっちゃったんだよね。映画の内容も“嵐を呼ぶ男”なんだけどさ。ははははは。
――(笑)。本当にすごい天気でしたね。撮影場所はどこなんですか?
佐藤 千葉の屠殺場の廃墟です。鉤フックとかああいうのも元からぶら下がっているんですよね。古い建物だから嵐が来るとトタンの“カタカタカタ……”っていうのがちょうどいいところで鳴ったりしてね。花粉ではなくして雨の飛沫が飛ぶというのも華魂のイメージとしていいなと。そういう計算どおりに行かないことも映像の中に取り込んでいくっていうか。
出演:大西信満 イオリ 川瀬陽太 愛奏 吉澤健 真理アンヌ 三上寛 他
監督・原案:佐藤寿保 プロデューサー:小林良二 脚本:いまおかしんじ 音楽:大友良英
共同研究:東京工芸大学 制作・配給・宣伝:渋谷プロダクション 製作:華魂プロジェクト
© 華魂プロジェクト
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