金子　宮台さんは日本の状況がこれからどうなればいいと思いますか？

宮台　僕たちの遺伝的なベースってみんな同じだから、育ち上がりのプロセスに問題があって、それは単純に損得、僕はそれを「クズ」って呼んでいますけど、損得を超える感情の働きを知覚できなかったり湧いてこなかったりする人たちがすごく多い。親も損得親でカースト的な教室とかも損得系で、そこで承認を求めて右往左往するという環境を変えなければどうにもならないし、それを変えられないんだったら、学校だろうが会社だろうがなりすますか適応するかしかない。クズに適応したらお前もクズになるぞ、ここはクズの巣窟だけど、一応クズを通過しなきゃならないことになっているからうまくなりすませと。で、ミイラ取りがミイラにならないためにはやっぱり仲間が大切で、仲間を支えるのはアニミズムだと。いろんな神話、民話、映画、小説等をシェアすることで、みんなで間違わないで仲間の基盤が保てると思うんですよ。別に東大に入っても芸大に入ってもいいけど、そのための競争にマジガチでコミットした段階でそいつはクズってことですね。

金子　映画批評はまた再開するんですか？

宮台　そうですね、「マル激トーク・オン・ディマンド」というインターネット番組で2ヶ月に1回ぐらい映画について集中的に話す機会があるので、そこでまとめて話しているんですけど。語るべき映画が非常にたくさん出てきた。休んでいる理由はただひとつ、逆説を乗り越えるためにロジックとか表現法とか工夫しなきゃいけなくて、ちょっとお休みして勉強しようと。喩、たとえ話っていう喩を使って伝えられるとわかってきたので、そういうことをやっていきたい。金子監督は今後どうするんですか？

金子　今回の特集上映が終わったら新作の準備に入ります。『アルビノの木』は山の話でしたが、自分自身は東京生まれの東京育ちで、生まれ育った東京という街を掘り下げる話をやりたいなと思います。東京はフラットなスペースに見えるけど、アスファルトを剥がすと下には縄文の遺跡もあれば、江戸時代の遺跡もあれば、戦争の時の大空襲で亡くなった人の骨も出てくれば……と、実は東京という土地にもレイヤーがすごくあるので、そこに目をつけた作品を作りたい。

宮台　いいですね。僕は屋上が大好きで、屋上というのは、避雷針に見られているとか赤色点滅灯に見られているとか、屋上でエッチするのが好きだったんですけど「いつも避雷針に見られているね」みたいな（笑）。都会だって人だけじゃなくていろんなものが見ているし、自然の中にいないと僕たちは言葉の奴隷状態から逃れられないかというとそんなことはなくて。ただ、監督が今おっしゃったような、僕なら「弱い場所」と言ったりしますけど、屋上とか非常階段とか古い街の隅っことか、そういう綻びている場所はだんだん少なくなっていて。それをどうやって乗り越えればいいのか？とか、綻びている場所がまったくないように見えている場所で抽象的な意味での綻びを見出したらいいのか？とか考えているので、楽しみにしています。