『サーミの血』宮台真司(社会学者)× 榎本憲男(小説家・映画監督)トークイベントレポート

映画『サーミの血』トークイベントレポート【4/7】
宮台真司(社会学者)× 榎本憲男(小説家・映画監督)

新宿武蔵野館、アップリンク渋谷にて絶賛上映中!ほか全国順次公開

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榎本憲男榎本憲男

榎本 これはでも、結構面倒くさい話をしていますよね。法に頼らざる得ないわれわれは悲しい、逆に言えば法に頼らずに生きるためにはものすごい「バーチュー」が必要だという話ですよね。でも感情の劣化は止められないと。これはどうすんだよ?という話ですね(苦笑)。

宮台 そこは多分こういうことだと思う。マクロには定住社会がやめられないから、定住社会に適合する人間がどんどん出てくる状況もやめられないし、それゆえに不幸になるやつがどんどん出てくる状況もやめられない。しかし今言われたバーチュー、僕の言葉だと、僕の著書に『社会という荒野を生きる。』(15)というのがありますけれども、この定住社会をまさに「荒野」として、定住社会自体がある種適合したふりをしてやり過ごすべき荒野であって、それを乗り切りながら守るべきものは「仲間」。仲間というのがバーチュー、つまり損得勘定ではないもので結び付いた存在です。そういう感じだと思うんですね。

榎本 仲間の範囲というのがすごく問題で。誰を仲間だと認めるのかということで、「お前仲間じゃない」と言うとすごいバッシングで差別的な言葉になってしまう。心が貧しかったり余裕がなかったら、誰も仲間だと思っていないやつがいっぱいいますよ。結構面倒くさい問題ですよね。

宮台 面倒くさいけど乗り切らなきゃいけない問題で。

榎本 宮台さんもそういうときにバーチュー、よき心にアクセスしようとしますよね。一方で「よき心はもういいよ、設計、仕組みで回収しちゃえ」と、例えばストーカー問題があって、ストーカーをやっている人間に「お前それはおかしいだろう?」と良心に訴えても無理だったら、彼女の30メートル以内に近付いたら電流が流れるシステムとかを使えばいいんですけど、ここにはよき心が一切ない。

宮台 うん、それしかないんですよ。

榎本 でも今われわれが住んでいる近代社会は一歩一歩そちらに向かっていませんか?

『サーミの血』場面3宮台 そうです。で、それは仕方ないんです。アメリカでサイコパスをどうやって社会の中に包含すればよいのか?というときに、サイコパスには共感能力、あるいは人を殺しちゃいけないっていう発想がないので、そういう人間とは取引しかない。つまり「お前が誰かを殺して死ぬか、あるいはお前が死なないためには殺さないか、どっちかだ」という二者択一を迫ると。で、社会はそういうふうになっていくわけだけど、そういう社会の変化はしょうがないと僕は思う。そのしょうがなさに適応して、命を落としたくないから人を殺さない、とかになるのは馬鹿げた選択だと思います。バーチュー、内から湧き上がる力と言うと、ちょっと抽象的なのでわかりにくいと思うけど、例えば僕は最近立て続けにある相談を受けて、それは携帯、スマホの盗み見に関するものなんですけど。昔は彼氏の携帯のロックを解除して見たら他の女とやり取りしていて「何やってるのよ!」というものだったけど、今はなんかエロ動画とかを見ていて、それを見たら彼氏がペドファイル(児童性愛者)だったと。

榎本 おお。熱い展開ですね(笑)。

宮台 そう、熱い展開なんですよ。親から相談を受けることもあるし当事者から相談を受けることもあります。で、ちょっと日本映画批判をしますけど、日本映画の少女漫画検索をすると出てくる、何?あのクズみたいなやつ。リアルな世界ではこれが起こっているんだよ。彼氏のスマホを見たらペドだったと。日本映画を観て何か処方箋ありますか? ないでしょう。クズだからだよ、見たいものしか見ていないからだよ。見たくないものを見たときにどう乗り越えるかというふうに、いわゆる平常時の損得を越えた、意味のある考えが必要になるんです。僕のその相談に対する答えはいつも同じ。「許せ」と。なぜかと言うと、男のスマホやパソコンを見たらだいたい同じ、見れば女はある種のフェチぶりに腰を抜かしますよ(笑)。昔からそうでしたからね。今は暴露されるようになってしまったから動転しているけど、昔からそうだったんだから愛しているのなら許してやれよと。男は「これは妄想だけの世界で、現実の世界ではやりません」と言うけど、女は「現実の世界でやるかどうかじゃなくて、お前キモイんだよ!」と言いたくなる。でもそれを言うなら男はみんなキモイんだよ、と、そういう話です(笑)。

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サーミの血
監督・脚本:アマンダ・シェーネル
音楽:クリスチャン・エイドネス・アナスン
出演:レーネ=セシリア・スパルロク、ミーア=エリーカ・スパルロク、マイ=ドリス・リンピ、
ユリウス・フレイシャンデル、オッレ・サッリ、ハンナ・アルストロム
2016 年/スウェーデン、ノルウェー、デンマーク/108 分/南サーミ語、スウェーデン語/
原題:Sameblod/DCP/シネマスコ―プ
後援:スウェーデン大使館、ノルウェー王国大使館 配給・宣伝:アップリンク
© 2016 NORDISK FILM PRODUCTION

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2017/10/01/21:34 | トラックバック (0)
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