インタビュー
小沼雄一

小沼 雄一(映画監督)
1965年生まれ。法政大学経営学部卒業後、映画を志し、映画監督今村昌平が創設した日本映画学校に入学(第七期映像科)。1995年、卒業制作として監督した映画「チャンス・コール」(16mm作品)が今村昌平賞を受賞し、文芸坐で劇場公開される。卒業後、「マトリの女」(池田敏春監督)、「卍」(服部光則監督)「Heavenz」「零(ゼロ)」(井出良英監督)「人間の屑」(中嶋竹彦監督)「私立探偵濱マイク(テレビシリーズ)」(緒方明監督・行定勲監督・竹内スグル監督)等、映画やVシネマなどの助監督として現場経験を重ねる。2003年、「自殺マニュアル2~中級編~」で監督デビュー。さらに2004年、早くも監督第2作目「キル・鬼ごっこ」を完成させる。
また、本業の傍らパソコンソフトを趣味で制作し、シェアウェア作家としての一面も見せる。特にエディタソフト「O's Editor2」はプロのシナリオライターにも好評を博し、業界標準として認知されている。
公式ホームページ「O's Page 」(http://ospage.com)は、自ら編集・更新している。

『自殺マニュアル2中級編』(公式HP)は、近年オリジナルビデオ市場でブームの様相を呈している「自殺系ホラー」の一種として制作され、 看板に偽りナシの自殺場面の連続をまがまがしく描き出しながらも、一本筋の通った正統的な恋愛映画の顔を併せ持つ異色作である。
低予算OV作品ゆえの苛酷な制約の下で「自分の作品」を作り上げた小沼雄一監督(38歳)にお話をうかがった。

 

小沼監督1――『自殺マニュアル2』が制作されるに至った経緯を教えてください。

小沼 ぶっちゃけて言うと園子温監督の 『自殺サークル(02)』以降、「自殺系ホラー」が売れていたんで、そこを狙った企画です。鶴見済さんの『完全自殺マニュアル』 (太田出版)を参照するという形で、版元に了解を得て制作されました。パート1 はビデオ発売のみの予定だったんですが、 評判がよく劇場公開となりました。自分はパート1 では助監督をしていたんですが、パート2 を制作するにあたってプロデューサーからお声をかけていただいた、という感じです。

――いわばシリーズの一編ということになりますが、非常に作家性の強い作品に仕上がっている印象があります。シリーズものとしての制約はなかったのですか?

小沼 『自殺マニュアル』という黒いDVDが登場するということ、主人公は鑑識であるということ、 恋人が新興宗教みたいな団体に入ってしまうということ、そして最後に主人公が自殺する、という四つが、 脚本が書かれる前から制作サイドのいわば決定事項のようなものとしてありました

――主人公の自殺、という設定はリスキーなのでは?

小沼 制作サイドとしては、“自殺モノ” というジャンルに則っていればなんとか商売になるだろう、という思惑があったと思います。監督としてのリスクはむしろ、 自殺という題材自体の難しさにありました。

――といいますと?

小沼 自分は、 自殺とは自己対話だと思っています。普通、ドラマというものは二人以上の人物がやり合うことでストーリーが成立するのですが、 自殺することが決定している人物を主人公にするということは、一人の中の戦い、一人の中の煩悶になるわけです。 これはすごく映画にし辛いというのが、後々、身に沁みて分かったことです。それに、どうにか主人公を最期には自殺させなければいけない、 というのは苛酷な枷でした。これが実は一番苦しかったですね(笑)。

<身近な人の死が、作品に反映されている>

 

監督は『人間の屑(00)』の撮影現場に助監督としてついていた2000 年にご尊父を腎臓癌で亡くされた。臨終を看取った心象は、 監督自身のサイト「O’s Page 」内にある『人間の屑』撮影日誌に詳しい。

小沼 病室のベッドでオヤジがどんどん死んでいく光景を見守っていると、“何も通じない”という思いを痛感しました。 死んでゆくオヤジと生きている自分とのあいだには物凄く大きな壁がある。それが自殺する者と自殺しない者とのあいだにそびえる、 とてつもない大きな壁、というイメージに投影されていったと思います。その壁ってなんだろう、それを乗り越えること、 突き破るということはどうすればできるんだろう、ということはそれ以来、ずっと命題として自分の中にありました。 オヤジがなんのためらいもなく、自分を置いてきぼりにして死んでいくという感じ、それが作品のラストに大きく反映されてしまったんじゃないかと思います。 それと、たとえばメグミ(安藤希)や女子高生の遺体が解剖台に横たわっている場面なんかは、すごく撮りやすかった。 それはやっぱり、自分がオヤジの遺体を見つめたときのイメージが重なっていると思います。

作品のラストで、 主人公(斉藤陽一郎)は恋人メグミの自殺の引き金を引いたのが、自殺を幇助する邪悪なカウンセリンググループであり、 その黒幕が彼の親しい知人だったことを知る。しかし知人の元へ辿り着いた時にはもう、すべてが手遅れであり、 主人公は彼に手を下すことすら許されない。
――主人公と黒幕との対決、という展開を期待した観客もいたのではないかと思うのですが。

小沼監督2小沼 まあ、元々自殺っていうテーマなんで、 制作サイドとしては自殺さえしてくれればそんなにエンターテイメントしなくてもいい、というのはありました。それに、 自分としては自殺というテーマをちゃんとやろう、真面目にやろう、という気持ちがあったんです。 パート1はどちらかといえば娯楽風だったんですが、オヤジのこともあって、あんまりテーマとしてふざけられないという部分はあったんで。 最後は“こいつ(主人公)だったらどうする?”と考えた結果、ただそれだけですね。

――メグミはリストカットを繰り返しますが、その理由はほとんど説明されません。

小沼 脚本を作る段階で、 先述したようなたくさんのモチーフが決められているという事情がありました。そこに中心人物の背景、 たとえば彼女はなぜ自殺しようとするのか、家族構成、今どんな暮らし振りなのか、働いているのかいないのか、 といったことを説明していくと、それだけで80分が終わってしまう。それが自殺の背景を説明しなかった一番の理由です。一方で、 今回のお話には人物の履歴書は要らない、とも思っていました。自分はもう自殺するしか道が残されていない、と思っている女性と、 その女性を愛してしまった男性、というシチュエーション。そこだけに焦点を当てるように頑張ろうと思っていました」

――メグミ役の安藤希さん、良かったですねえ。

小沼 彼女が主演の『陰陽師-妖魔討伐姫-』というVシネマで助監督をしていて、 最近の若い女優さん、というよりも、ややアイドル的な存在の若手女優さんの中では、 真摯に演技に取り組んでいるという印象がありました。すごく真面目で一生懸命なんで、 監督になったら彼女を主役にしたいなあとは思っていました。今回の作品でも彼女は本当に良かったと思います。

――終盤、ビデオで主人公に「ありがとう」と遺言を残す場面はとても胸に迫りました。

小沼 あれは初日に撮ったんですよ。スケジュール上、その日しかなくて――。 結構心配だったんです、いきなりですから

小沼 初め、 テストをした時は本番より少し良くなかった。それで、台詞を言うまでにきっかり15秒間間を空けてくれと頼みました。それは結構長いです。 普通のお芝居ではありえないくらいの間です。安藤さんにはそれだけは守ってくれと言って、他の、 たとえば表情とか台詞の抑揚なんかに関しては一切指示は出しませんでした。彼女はそうしたことはきっちりする方で、 本番では正確に15秒間自分の中で計ってくれて、それでやっとあの言葉が漏れ出してきて――これはもう一発OKです。 その時は思わず彼女の元に駆け寄って、“今の芝居は本当に良かった”と言ってしまいましたね。本当はそういうの嫌いなんですけどね(笑)。 それが初日のラストカットだったんで、ああ、これでいけるかな、と。

――斉藤陽一郎さん、DVD特典のインタビューを見ていると意外に暗いですね。

小沼 斉藤君はちょっと不思議な人で、自分で自分を制御できてない役者さん、 というイメージがあります。彼は初日から、本番で自分がOK、と言っても“監督、大丈夫なんすかね?”と毎回、 不安そうに聞いてくるんです(笑)。つねに不安がってるというか。そういう意味では安藤さんと対照的ですよね。 安藤さんは現場に入る前に“これ”と決めたプランがあって、こちらがダメと言ったらその都度修正していくタイプです。 斉藤君はテイクを重ねるたびに芝居を微妙に変えていく。色んなパターンを演じることで、 監督がイメージする芝居を探っていくというか。初日は正直言って、“作品に入っていけてないな”という感じがあったんですが、 撮影二日目にメグミのアパートのシーンはまとめて撮った時に――。

――えっ、メグミのアパートのシーンって結構ありますよね?  それを全て一日で?

小沼 アパートの場面は全部一日で撮ってます。 この作品の撮影日数は全部で六日間ですから。斉藤君がこの作品で役に入っていけたのはこの二日目ですね。 安藤さんとの芝居をアパートの部屋で積み重ねていく過程で、どんどん良くなっていった。

仕事で遅くなった主人公がメグミのアパートへ赴くと、彼女は 「あなたがのんびりしている間に私は薬を三回も飲んだのよ!」などと不条理なことを言って、孤独と甘えとが混ざりあった、 矛盾にみちた怒りをぶちまける。それを見た主人公は、カッターを手にして自らの手首を傷つけてみせる。 メグミはすぐに止めに入り、二人は激しく揉みあう。そこには行き場を失ってしまった若い男女の、 なんともやりきれない生の在りようが諦観を帯びて映し出されている。

小沼 あの場面は作品の中で一番の大芝居で、 これは撮影に入る前からワンカットで撮ろうと決めていました。テストもしなかったです。軽く役者さんに段取りだけ説明して、 感情も入れてくれるなと言いました。撮影スタッフのために大体の動きを決めて、ライティングが決まったら、あとはもう本番です。

――演技指導はしなかったんですか?

小沼 二人には“本気で憎み合って、本気で愛し合って下さい”とだけ言いました。 言って、すぐに“じゃあ、本番”と。――あれが一発でOKできたのは、本当にデビュー作のマジックというか――。 自分もこれまで助監督として新人監督についたりはしてきたんですが、割とデビュー作ってうまくいっちゃうんですよね。 なんかツキがまわってくるというか。 今回はプロデューサーのおかげでキャスト陣が演技的にしっかりとした人が集まってくれましたし、スタッフもベテランが多く、 条件が整っていたということあると思いますけど。

――デビュー作には作家の個性がすべて出るといいます。あの場面を見ていて、“この監督は本当はこういう人間ドラマをやりたいんじゃないか”と感じました。

小沼 感情をぶつけ合うという行為に限らず、 たとえば何もしないで二人が並んで座っているだけでも、その二人のあいだにはちゃんと感情が通っているというか、 それは河原で二人が赤いボールを蹴り合うシーンにもつながるんですけど、“人と人のあいだが嘘じゃない”という部分、 それはやりたいですね。

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2005/04/24/07:00 | トラックバック (0)
小沼 雄一(映画監督) ,インタビュー
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