インタビュー
小沼雄一

低予算映画での演出論
――それにしても、撮影日数が6日間というのは驚きです。

小沼 たとえば、レイトショーで一週間限定の劇場公開、 といった感じの作品としては割と標準的な感じですね。最低の現場ではないですが、タイトではありました。 もっと大変な現場はいくらでも経験したことがあるんで(笑)。自分は早く撮るというのはそれほど苦じゃない。むしろ、 現場では短気で、ダラダラやりたくないほうなんで、カット割りもクランクイン前にほぼ決めてます。現場では決めた通りに撮る、 というのが自分のスタイルです。

――撮影前に全部決めてしまうんですか?

小沼 全部決めます。ロケハンが終わって、 美術打ち合わせも終えて、キャスティングも決まって、クランクインの三、四日前に、家で“よし、やるぞ”と決めて取り掛かると、 大体四時間くらいで終わっちゃう。勢いでガーッとやった方が間違いがないというか。自分はデビュー作以前には、『チャンスコール』 脚本(※95年、監督:小沼雄一、脚本:伊丹あき。日本映画学校での卒業制作作品。 本作で今村昌平賞を受賞し、 一般に劇場公開された)しか撮っていないんですが、その頃から“初めに考えたことが最も正解に近い” というジンクスがあって、 『自殺マニュアル2』でもカット割は一発で決めちゃいました。撮ったカットはほぼ全部使ってます。 カットしたのは多分一つか二つくらいですよ。

『自殺マニュアル2中級編』を見てまず気付くのは、簡潔な映像へのこだわりである。色調は沈んだトーンで統一されており、構図も“ここぞ” というポイントをきっちり押さえており、無駄な説明カットも少ない。その鮮やかな手腕のおかげで、 これがビデオ撮影された作品だということをいつしか忘れてしまう。
――ビデオ作品を撮影する際に気をつけていることはありますか?

小沼 とにかく、色。 色に関しては細心の注意を払おうと思ったんです。そもそも自分の嫌いな映画は色に無頓着だということがあったんですが、 いわゆる低予算の映画で一番厳しいのは美術なんですよ。予算の少なさのしわ寄せが最初にくる。だから、 予算が厳しい中で画面の質を高める戦略としては、色に気をつけることが一番コストパフォーマンスが高い。

――具体的には?

小沼 まず色調のメインは黒とベージュにしようと。具体的にはルイス・ブニュエルの『昼顔(67)』の色の感じです。撮影前にスタッフに『昼顔』 の写真を配って、こういう感じを目指してほしいということは説明しました。だから衣装的にも、 メグミの衣装とかメグミのアパートに関しては黒とベージュで統一されています。もちろん、他の画面までその色でいくわけにはいかないんで、 あとは極力、色を取り除こうと思って、赤とか青とか黄色とかの原色類を、現場の飾り、小道具、衣装、 そういうものから一切合財取り除きました。

小沼 象徴的なのは鑑識の着ている制服です。 あれは紺色で統一された古いやつなんです。今の鑑識が着ている制服にはわきの下に黄色い線が入ってるし、背中にも“警視庁” って黄色い文字で書いてあったりするんで、それだけは絶対避けたかった。あと本物の鑑識の腕章は小豆色なんです。それも嫌だったんで、 ウソついて紺色にしちゃいました。そんな感じで、なんとか画面が安っぽくならないように地道に頑張ると、 逆に色が際立つような下地が出来たんですね。そこで、赤を印象的に使うことが可能になりました。 土手道を歩きながら二人が蹴り合う赤いボール、それから解剖室の床に落ちる肉片の赤とか、メグミが死んだ後の橋の場面に映る、 丸の内線の車体の赤いラインとか。全体的な黒いトーンに対照的な色として赤が際立つようになったんで、 色の全体的なコントロールはよくできたほうだと思っています。

――サイズの切り方が特殊ですよね。

小沼 わざと特殊にしたんです。 別にヘンな構図が好きというわけではないんですが、今回の作品の主題である“死”のイメージを映像的に表現するとき、誰の目線でもない、 “死の目線”みたいな感じにしたかった。いわゆる“客観的”すら超えた感じというか。 たとえば前半に観覧車を上から下へとパンダウンするショットがあるんですが、キャメラマンに頼んで、 バーを握る手をぱっと手を離してもらって、キャメラ自身の重みで自由落下するようにした(笑)。それでつまり “人間ではないものの見た見た目”ということにしたかったんですよ。

――キャメラマンの岡雅一さんはどんな方ですか。

小沼 ミスが少ない。絶対に狙いを外さないと言うか。 最近で言えば原組(原一男)のドキュメンタリーではない、新作映画の撮影を担当しています。先述したように、 サイズに関しては自分はけっこうヘンな要求をするんですが、広い心で受けとめてくれるというか、キャパシティが広いです。 心だけでなく技術のキャパもというか。それと、手持ちがうまいです。これはもう、はっきりとうまい。 どんな被写体を追っても焦点がぶれない。目がいいんですね。

――作品を撮影している時、自分の映画的記憶への言及というか、オマージュをしようとかって考えますか?

小沼 オマージュなんかやってる場合じゃないですよ(笑)。 自殺というテーマを自分の中でどう消化するかということだけで精一杯です。ワンカットワンカット全部意味があるわけですから、 “このシーンは、あの監督の作品このカットにしよう”なんて考える余裕はなかったですね。それに、 自殺というテーマを扱った映画ってそれほど数が多くないので、だぶらせられないという事情もありました。

新作『キル・鬼ごっこ』について
――2月27日にリリースされる監督第二作『キル・鬼ごっこ』には、 孤島に閉じ込められて殺し合いをする少年少女、彼らを監視する国家権力等々、はっきりと『バトル・ロワイヤル』 という作品が前提として存在しています。

小沼 これも最初から、若者が島に閉じ込められるということと、最後に鬼を出してくれ、 ということが制作サイドの決定事項としてありました。お話を頂いた時点で『バトルロワイヤル2』は見ていなかったんですが、 とにかく一作目の『バトルロワイヤル』の真似だけはしたくないという気持ちはありましたね。自分の解釈では、 あの映画は完全に大人の映画であって、登場人物に子供は一人として出ていないんじゃないかと。 子供たちの言っていることもやっていることも、全部大人のそれなんですよ。 大人が子供たちにエールを送るために作った大人のための映画というか。殺し合いですから、今回もやはりテーマは“死” ということになるんですが、17 歳の少年少女が“死ぬ”ということに直面する状況を、 なるべく彼らの立場に立ってやろうということは思っていました

―― 結果的に物語は悲惨な結末を迎えます。『自殺マニュアル2』『キル・鬼ごっこ』と小沼監督の作品を観ていくと、 どうも若者というものは挫折する存在である、という世界観がくっきり出ているように思いましたが――。 てるてる坊主

小沼 いや、若者は挫折してナンボでしょ(笑)。まあ、 今回は特に青春映画を撮るつもりではいたんです。自分自身の人生が最後まで見えちゃう瞬間、それが青春というか、 青春の終わりだと思うんです。それに直面するというのは、単純に言うと“自分を知る”ということです。今回の作品では、 自分がDNAに異常がある“欠陥人間”だと知ったときに彼らはどうするだろう、ということ、その選択を17 歳という立場から描きたかった

――監督自身、挫折したり、自分自身に限界を感じた経験は?

小沼 最初に思った限界は、うーん…… 大学卒業後、家業のガソリンスタンドを継ごうと思って、しばらく他所のガソリンスタンドで店員やってたんですが、 自分にはこれは無理だと思った瞬間とかかな……。

――ラップ、チャンバラ、ダンスの場面が唐突に挿入されてびっくりしたのですが……。

小沼 それはまあ、 きちんと説明しておく必要があると思います(笑)。三つともプロデューサーが言い出したことではあるんですが、 ラップとチャンバラに関してはサービスカットとして割り切りました。ただし、ラストのダンスシーンに関しては、 自分は絶対アリだと思ってます。自分は大学時代に社交ダンスをやっていたこともあって、ダンスとは何だろう、 ということはかねがね考えていたんです。自分の中では、単純に言うと、人が絶望したとき、すべてを失ったとき、 希望の最後の一滴すらなくなってしまったときに人間がすること、それがダンスだ、というイメージがあって――。たとえば、男と女がいて、 もう自分たちは完全に愛し合ってない、ということが確認できたときに、どちからでもいいんですけれども、“シャル・ウィ・ダンス?” というのが自分の中でのダンスのイメージです。

――ダンスといえば、人気ダンスユニットの「DIAMOND☆DOGS」が出演、振り付けと大きくフィーチャーされています。

小沼  「彼らはキャスティングの途中で決まりました。それでプロデューサーに誘われて彼らのダンスを見に行ったんですが、これが、 もう滅茶苦茶うまかった! 彼らのダンスは本気でうまい。帰り道、プロデューサーがダンスシーンをどこかに入れたらどうか、 みたいなことをちらっと言って、それで自分が“アッ”と思って、最後に死体が踊りだすっていうのはアリだなあって。 ラップとチャンバラの唐突感は否めないんですが、ダンスに関しては自分としては唐突感はないです。最後にダンスを入れるっていうのは、 自分の中ではとてもいいことだと思った。

――主役の倉貫匡弘君はいい顔をしていますね。ちょっとオーランド・ブルームに似ています。

小沼 撮影途中でそれは気付きました(笑)。とても真面目でひた向きな人ですよ。

――アクション映画界のカリスマ的存在である風間健さんが出演していますが。

小沼 風間さんは自分にとって未知数だったんですが、 今回のホンを読んで思うところがあったようです。欠陥遺伝子を持った子供、という存在が、実際にいるかどうかではなくて、 “その感じが分かる”と仰ってくれました。おかげで、ただ単にステロタイプな悪役ではなくて、 ちょっと差別された子供たちの心情にシンクロしてしまっている、という感じが出たので、それは良かったと思っています。

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2005/04/24/07:02 | トラックバック (0)
小沼 雄一(映画監督) ,インタビュー
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