インタビュー
小沼雄一

小沼 雄一(映画監督)
1965年生まれ。法政大学経営学部卒業後、映画を志し、映画監督今村昌平が創設した日本映画学校に入学(第七期映像科)。1995年、卒業制作として監督した映画「チャンス・コール」(16mm作品)が今村昌平賞を受賞し、文芸坐で劇場公開される。卒業後、「マトリの女」(池田敏春監督)、「卍」(服部光則監督)「Heavenz」「零(ゼロ)」(井出良英監督)「人間の屑」(中嶋竹彦監督)「私立探偵濱マイク(テレビシリーズ)」(緒方明監督・行定勲監督・竹内スグル監督)等、映画やVシネマなどの助監督として現場経験を重ねる。2003年、「自殺マニュアル2~中級編~」で監督デビュー。さらに2004年、早くも監督第2作目「キル・鬼ごっこ」を完成させる。
また、本業の傍らパソコンソフトを趣味で制作し、シェアウェア作家としての一面も見せる。特にエディタソフト「O's Editor2」はプロのシナリオライターにも好評を博し、業界標準として認知されている。
公式ホームページ「O's Page 」(http://ospage.com)は、自ら編集・更新している。

ネット配信を前提とした二本の映画、『ニューハーフ・ダンク』(公開終了)、『ロザリオの雫』(11月12日より黄金町シネマジャック&ベティhttp://www.jackandbetty.net/index.htmlでロードショー)を作り上げた小沼監督。この二本は小沼監督にとって初の海外ロケ&インターネット配信の作品だ。未体験の作品作りに挑戦した小沼監督に話を伺った。

初めてのネット配信映画&海外ロケ

小沼雄一1――まずは今回の作品を撮ることになったいきさつからお伺いしたいのですが。

小沼 ライブドアがネット上で配信する映画を5本撮るという企画がまずあって、そのうち3本を先輩の監督が撮ることになっていた。それで残りの2本をやってくれないかという話を、その先輩監督からいただきました。


――ネット配信を前提とした映画作りは初めてだと思うのですが、何か意識したことは?

小沼 パソコンで見るのだからアップを増やしたほうが親切なのかな、とは思ったんですけど、劇場にかける作品でもあるし、あまり気にするのはやめようと。ただ、ネット配信は何話かに分けて配信するので、1本の映画をぶつ切りにしなきゃいけなかった。それは初めての経験でしたね。1話15分未満にして7話分に分けなきゃいけないという。


――2本ともオリジナルストーリーですが、脚本作りは自由に?

小沼 フィリピンで撮るということも含めて、製作サイドから大雑把な括りは提示されました。オカマがバスケットをやるというコメディ(『ニューハーフ~』)と、もう一本はまったく逆に、入管職員の男と東南アジアから人身売買されてきた女との悲恋(『ロザリオの雫』)にして欲しいと。その括りをクリアしてストーリーは割と自由に作りました。


――フィリピンを舞台にするというのは、何か理由が?

小沼 まあ……一番大きいのは制作費が安くすむってことでしょう(笑)。与えられた撮影期間は当初4日半だったんですが、さすがにそれは無理で最終的に5日半かかりました。かなり大変でしたね。


――日本人スタッフは?

小沼 メインのスタッフと助監督だけですね。ほかはすべてフィリピンの方たちです。


――外国人スタッフとの共同作業は初めてだと思うのですが、何か苦労した点は?

小沼 それはまったくなかった。とにかくフィリピンの人たちは明るくて前向きなんで、非常にやりやすかったです。助監督たちは仲良くなってキツいスケジュールの合間を見ては呑みに行ったりしていましたし。機会があればまたやってみたいです。


『ニューハーフ・ダンク』はドタバタコメディ映画だ。フィリピンで撮影中の、とある話題の映画を撮影中に買い付けてしまえと日本の映画会社の社員が現地に赴くが、その買い付け金を盗まれてしまう。途方にくれた彼は出会ったオカマに恋をしながら、協力してもらって何とか金を取り戻そうと奮闘する。その頃、撮影中の映画ではヒロインのオカマのキャスティングに難航していた……。この二つの話を軸にハチャメチャなストーリーが展開する。


――オカマがバスケットをする、というとタイ映画の『アタック・ナンバーハーフ』を思い出しますが、コメディというジャンルを撮られるのは初めてですよね。やってみたかったジャンルですか?

小沼 いや、考えたこともなかったです。実生活でもコメディ的な人間だとは思ってないですし、狙って笑いをとるということをするのは初めてのような気がします。そうとう悩みました。


――悩んだと言いますとどういった点で?

小沼 ……(しばし悩み)。いえもう単純に、狙って人を笑わせるというのはこんなにも難しいことなのかと。自分にお笑いの要素がないのは自覚していたんですが。


――細かいギャグもかなり挿入されていてそんなことないと思いますけど。

小沼 ……。(宙を見つめ無言。いまだ悩んでらっしゃるようだ)


――『アタック・ナンバーハーフ』のようにオカマのキャラクターで笑いをバンバンとるというような場面はないですよね。

小沼 ……(再びしばし悩んで)。オカマを分かりやすいベタな、浮世離れした存在として描くということに興味がなかったんですね。


――オカマをプッシュするといよりはハチャメチャなストーリー展開で引っ張っていこうと。

小沼 ……(再び宙を見つめ唸り)とにかく……単純に人を笑わせるということに向き合ってみると本当に難しくて……。結果的には役者さんに負って頂くところが多かったですね……。特に主演の田中哲司さんに関しては任せきっていました。


――田中哲司さんは楽しそうに演じてらっしゃるように見えました。ご本人のキャラクターもあるのかも知れませんが。

小沼 そう見えていれば嬉しいですね。いやもう本当にお任せしてしまったので。


――フィリピンの役者さんに関しては?

小沼 ある程度はお芝居をつけさせて頂きました。ですが自分は英語がほとんどダメなもので身振り手振りで実際に動いたりして。普段は絶対にしなような顔をしたり動きをしたり……。まあ、それが現場で案外受けたりして、そういう雰囲気とか、あとはフィリピンの方たちが本当に現場で明るいので、そういった空気感は伝えていこうと思いました。


――フィリピンの役者さんたちはどうやって探したんですか?

小沼 オーディションです。ヒロインのミッシェル役に関しては30~40人に会いましたが、結果的にはロケハンで訪れたゲイバーで働いていた素人さんに決まりました(笑)。


――ピンときた?

小沼 彼女……というか彼が一番キレイだったんで。


――本物の女の人だと思っていました。素人さんということは随分お芝居をつけるのも苦労されたんじゃないですか?

小沼 軽く舞台の経験とかはあるみたいなんですけどね。とにかく素直で、むしろ変な日本人の監督が一生懸命おかしな動きをして説明してるんで、それを楽しんでくれていたのかもしれないですね。彼女……彼は非常に働き者で朝までゲイバーで働いてそのまま撮影現場に来るなんてこともありました。


――その他の役者さん達はプロの方なんですか?

小沼 オカマのバスケットチームのうちあと二人は同じお店で働いていた方です。あと、劇中の監督役の方も普段は助監督をやってる方ですね。今回の作品でもフィリピンの撮影チームを取り仕切ってくれていた方です。『地獄の黙示録』とか『ハンバーガー・ヒル』といった作品も現地スタッフとして関わっていた方で、外国人と仕事をするのも慣れているようで今回もとても助かりました。


――監督役の方は非常に良い味を出されていたと思いました。その監督とスタッフたちがお店で食事をしていて踊り出すという場面は印象的でした。

小沼 あの場面は100%彼らに任せたらああなりました。さっきから任せっきりですが……。最初は別の歌を歌って踊っていたんですが、その歌はフィリピンの大ヒット曲で結果的に曲が使用できなくて今の歌になっています。


――あの監督役の方に小沼監督の苦悩が陽性に反応されたんでしょうか(笑)。

小沼 ……どうでしょう。特に意識はしていませんが。


――いえ、かなり楽しいコメディリリーフの役柄になっていたものですから。

小沼 まあ面白がって頂ければ結果オーライなんですけど。


――その他に短い撮影期間で苦労されたことはありますか?

小沼 バスケットのシーンですね。1日しかありませんでしたから。100カットは撮ったんですが編集してみると足りなかった。それこそコメディに向き合ったという苦労以外に苦労したのはそれくらいです。


――皆さんバスケがうまいですね。

小沼 フィリンピンはバスケットが盛んなんです。国技と言っていいくらいですね。とにかく街なかに限らず、山奥でも必ずバスケットのリングがあっていつでもできるようになっています。今回のスタッフの中にもアルバイトでバスケットの審判をしている人もいました。


――そうとう悩まれて撮られた小沼監督ですが、この作品でぜひ見て欲しいという見所があれば。

小沼 それはやっぱり空気感です。コメディという自分の中では考えたこともなかったジャンルをフィリピンという土地で、常に明るい人たちに囲まれてやれたということが良かったのかと今となっては思っていたりもして……。


――その空気感はバッチリ伝わっていると思います。南国の陽気なムードとトボケた味わいのある作品だと思いました。

小沼 そう言って頂けると心底ホッとしますね。


最後までコメディというジャンルに真摯に取り組み悩まれたようであった小沼監督だが、この作品においては言葉も通じない役者さんに身振り手振りでコメディ的なお芝居をつけたという小沼監督と役者さんたちのやりとりが妙なトボケた味としてフィルムに焼き付けられていたのではないかと思ってしまった。そういう意味では奇跡的な作品なのかもしれない!?まあ、とりあえず観客としては笑っていればいいだけのことだ。最後に、またコメディに挑戦したいですかと聞いたところ、小沼監督は困ったような笑顔を浮かべていたが、是非とも観てみたいところだ。

『ロザリオの雫』について

小沼雄一2――『ロザリオの雫』は『ニューハーフ~』とは打って変わって悲痛なトーンです。

小沼 自分のせいで誰かを窮地に追いやるみたいな話は、これまで漠然とやりたいなと思っていて、それとオファーにあった「入管職員の男と東南アジアから人身売買されてきた女の悲恋」という要素を合わせた感じです。ただ、ラストシーンに向けて作っていったので、男とヒロインの関係がきちんと描ききれなかった、という反省はありますね。


――『ニューハーフ・ダンク』においてもそうですが、『ロザリオ~』ではカトリックというモチーフが前面に押し出されます。監督ご自身に接点は?

小沼 うちは仏教だし、接点みたいなものはなかったんですけれども、以前『濱マイク』シリーズの助監督をやっていた時に、柄本明扮する神父さんが出てくるという作品があって、その取材でカトリックの教会を訪ねたことがあった。そしたらその神父さんがいきなり迷彩服かなんか着て出てきて(笑)。それはまあ単にその人の趣味なんですけど、見ず知らずの飛び込みの男に、非常に親切に丁寧にカトリックのことを説明してくれて。その方の印象が非常に大きかったので、いい印象は持っていました。それにフィリピンは国民の9割がカトリックで、町が教会を中心に作られてる感じなんです。あと、まあカール・ドライヤーも好きだし……(笑)。


――入管の牢屋みたいなところはロケセットですか?

小沼 いや、セットです。主人公の上司役の方が役者のほかに解体業の社長をやってらして、その方が持っている倉庫に、舞台関係の大道具さんたちが集まって作ってくれた。この映画には久保一郎さんという、『入国警備官物語――偽造旅券の謎』(現代人文社)という本を書いた方がアドバイザーでついているんですが、「このまんまだ」っておっしゃってくれました。


――相変わらず暴力描写がノリノリに見えたんですが……。

小沼 あれはプロデューサーの要求です(笑)。あと、役者さんも乗っちゃって。


――鑑賞後の印象としては、かなり重いですね。

小沼 あまり音楽がなかったこともあるかもしれません。今回は音楽を2作品とも、今年映画学校を卒業したばかりの浜崎君につけてもらいました。『ニューハーフ~』の場合はダビングまで5日間しかないって時にやっと音楽をやってくださる方が見つかったという……。彼は3日で10曲作れるって言うんですよ。それで本当に3日で10曲作ってもらった(笑)。


――これからやってみたい企画は?

小沼 子ども映画ですね。以前、仲根かすみのDVDを撮った時にちょっと子どもを使ったら面白くて。予想を超える演技をするんですよね。たとえば、『友だちのうちはどこ?』みたいな……。


――『お引越し』とか?

小沼 うーん……。


――『動くな、死ね、蘇れ!』とか?

小沼 そうくるか(笑)。いや、子どもに見せられるようなものですよ(笑)。


――それはご自身にお子さんが生まれたことと関係が?

小沼 それはあるでしょうね。娘に何か伝えなきゃ、という使命感はあります。子どもたちが楽しんで見られるような映画をやりたいという。


――ありがとうございました。



なお『ニューハーフ・ダンク』および『ロザリオの雫』の配信予定は情報が入りしだい追って報告します。こうご期待!


(11月4日。監督宅にて) 聞き手:百恵紳之助、撮影:膳場岳人

2005/11/08/17:18 | トラックバック (2)
小沼 雄一(映画監督) ,インタビュー
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