『ホーリー・モーターズ』先行特別上映会&トークショーレポート

『ホーリー・モーターズ』先行特別上映会&トークショーレポート http://www.holymotors.jp/

2013年4月、ユーロスペースほかにて公開 全国順次ロードショー

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『ホーリー・モーターズ』場面3 レオス・カラックス監督3レオス・カラックス監督佐々木 カラックス監督はこの作品で冒頭のシーンに出演していますが、意図は何でしょう。

カラックス この映画について最初に僕の頭の中にあった映像は、今僕が見ているような映像だ。すなわち観客を正面から見ているところなんだ。闇の中に観客たちがいて、その人たちを正面から見る。しかし観客は眠っているのか死んでいるのか分からない。そこで眠っていた男が目覚めて、そのような状態の観客を発見するというシーンを思い付き、シナリオを書くときに仮の役名として「レオス・カラックス」と書いた。あとで検討すればいいと思いながらね。一方この映画を作っているときには、ミシェル・ピコリが演じている人物を自分が演じてもいいのではないかと思ったこともあるんだ。だがそうすると観ている人にその人物が誰か分からなくなってしまうと思った。あの人物は明らかに映画作家ではない。プロデューサーなのかマフィアなのか、あるいは内務省の人間で、監視カメラの責任者なのかもしれない。僕が演じると混乱を招くと思い、その人物ではなく、第1部の登場人物を自分が飼っている犬とともに演じることにした。

佐々木 この作品は最初に話したように映画についての映画であるのと同時に、演じること、演技に関する映画となっているとも思います。監督は演じるということをどのようにお考えですか?

カラックス 撮影をするときは何かの思想があって映画を作り出すのではなく、ある種の映像とある種の感情があって、その調和関係を見付けていくことで映画が出来上がっていくんだ。最初その感情は漠然としたもので、編集をしているときにそれにはっきりと気付くときもある。この映画の基盤には二つの感情があった。その二つの感情とは互いに相反する感情と言ってもいいのだが、まず一つは自分であることの疲労という感情だ。人は人生で自分自身を抜け出すことができない、いつも自分でしかあり得ない。自分であり続けるために狂ってしまうような、そのような疲労感だ。もう一つの感情とは、一つの必然であり夢でもあるのだが、自分自身を新たに創り出すということの必要性、自分自身を創り出したいという気持ちだ。この映画の中には「Revivre(再び生きる)」という歌が挿入されている。再生することの必要というものが二つめの感情なんだ。しかし自分を新しく創り出すことは、かなりの力と幸運がないとなかなかできない。もちろん俳優たちはこのような感情を表現できるだろうが、僕は先ほど言ったように俳優には関心はない。僕が関心を持つのは我々自身だ。

佐々木 とても興味深いお話になってきたのですが、もう時間が迫ってきましたので最後の質問をしたいと思います。先ほどから『ホーリー・モーターズ』について、映画と芸術、もしくは実人生という観点からお話しいただいていますが、一方で映画は紛れもないフィクションであるとも言っていいと思います。この映画の中でオスカーは何度も死んでいますが次のシーンにまた登場し、1本の映画の中で一人の登場人物が何度も死んで、生き還っているのか死んでいなかったのかは分かりませんけれど、続いていくということが起きています。映画の中ではたくさん人が死にますが、その「死ぬ」というのは観客の全員が知っているように常に嘘でありフィクションです。フィクションが今持っている役割を監督はどのように捉えていらっしゃいますか?

『ホーリー・モーターズ』 『ホーリー・モーターズ』場面1 『ホーリー・モーターズ』場面2カラックス 映画の美、詩的な部分は、映画が純粋なフィクションではないところ、映画の中にあるドキュメンタリー的な部分から来ているのだと思う。この映画のドキュメンタリー的な部分、それはドニ・ラヴァンがそこに存在しているということだ。ドニ・ラヴァンは私が創り出した存在ではない。彼にかつらをつけたりメイクをしたり目の色を白にしたりすることはできるが、その下には必ずドニ・ラヴァンがいる。美しい女性が出てきても、それは僕たちが創り出したものではない。一方で映画はバーチャルなものを目指すこともある。例えばモーションキャプチャーにはドキュメンタリーの要素はもう存在しない。人間は消えてしまい、その動きだけがコンピューターで捉えられているからだ。僕はそれも面白いものだと思うし探求はしているが、別の方向に行っていて、それは映画ではもはやなくなっている。最初に登場したモノクロの連続写真のフィルム、これはむしろ身体をモーションキャプチャーとして捉えたものだと言っていいだろう。なぜ人間の体に白いマーカーを付けてコンピューター処理するということを発明するまでこんなに長いこと待たなければならなかったのだろう? 19世紀にすでにモーションキャプチャーはあったのに。あのモノクロの映画では、人間が走りボールを投げる。ドキュメンタリーとフィクションの間で。マレーは既にモーションキャプチャーのように人間の身体の動きを捉えていたんだ。「モーション」という言葉は「エモーション」とかなり近い言葉だ。だから映画において、ドキュメンタリーを出発点としてこうやってフィクションに到達する、という動きが存在しているんだ。

佐々木 これからもっと深いテーマに入っていきそうなところですが、時間が来てしまいました。今日はありがとうございました。

カラックス じゃあ煙草を吸いに行くよ(笑)。

(2013年1月27日 渋谷・ユーロスペースで 取材:深谷直子)

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<STORY> 人生から人生へと旅を続けるオスカー氏の1日。彼は運転手のセリーヌだけを友に、メイク道具を満載した、舞台裏のようなリムジンで、パリの街を移動する。それぞれの場所で、ある時は大企業の社長、またある時は殺人者、物乞い、怪物、そして父親へと変身する。オスカー氏はそれらの人物なりきり、役を演じることを楽しんでいるように見えるが、カメラはいったいどこに?そして彼の家、家族、そして休息の場所はいったいどこにあるのだろうか?

CREDIT
ホーリー・モーターズ 2012年/フランス・ドイツ/フランス語/115分/DCP/カラー
監督・脚本:レオス・カラックス(Leos Carax)
撮影:キャロリーヌ・シャンプティエ、イヴ・カープ
出演:ドニ・ラヴァン、エディット・スコブ、エヴァ・メンデス、カイリー・ミノーグ、ミッシェル・ピコリ
提供:ユーロスペース、キングレコード 配給:ユーロスペース ©Pierre Grise Productions
公式

2013年4月、ユーロスペースほかにて公開 全国順次ロードショー

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2013/02/10/19:11 | トラックバック (0)
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