話題作チェック
(2009 / 日本 / 佐山もえみ)
“かつて14才だった人たち”のための物語

寺本 麻衣子

『14才のハラワタ』1トコトコ、テトテト、ブカブカ。
「14才のハラワタ」(09)を見終わって心に残ったのは、ハラワタなんていうドロドロした言葉とは裏腹の、ゆったりとしてあたたかい、それでいてちょっと変わったリズムだった。
14才の内臓か過激な実態でも見られるかと期待している人には申し訳ないが、この映画にそういうものは出てこない。確かに14才のハラワタ=心の内を少し覗くことはできるけれど、その描き方は生々しくも赤裸々でもなく、さりげないのだ。独特の“ハラワタ的”世界の中で、14才の心に何が吸い込まれていくのかを見せてくれる「14才のハラワタ」。これは今14才の人たちだけでなく、かつて14才だった人たちのための物語でもある。

主人公・原田ワタル(長野レイナ)、14才。略してハラワタ。髪は寝癖がついたまま、制服のブラウスはシワシワ、リボンもクシャクシャ、でも靴はピカピカ。クラスでは地味で目立たず、存在を忘れられることもあるけれど、独自のポジションをキープしている。人からどう見られているかとか、人と比べて自分がどうかなんて気にしない。成績を競うクラスメイトを眺めつつ屋上で昼寝して、塾ではいじめられっ子と仲良くなり、家ではお父さんの靴墨の匂いとお母さんと食べるご飯が好き。いつもマイペースに生きている。
とはいえ、彼女が周りの人と無関係に生きているわけではない。少し距離を置いているけれど、ハラワタは両親と塾や学校で出会うみんなが大好きだ。そして彼女は、みんなのことを受け入れる。クラスメイトの思惑を知っても、なんとなく微妙な空気を両親に感じても、まずは「……」と彼らを見つめてハラワタなりに何かを読み取り、「うんうん」と肯定する。これも彼女なりのやり方だ。
毎日を自分の歩幅で歩いていくハラワタを見ていると、だんだん羨ましく思えてくる。強さと表現するには格好良すぎるほど自然に、彼女はどんな時も揺るがない“自分”を持っているのだ。世間の基準をうかがいながら“自分”の位置を決めていると、分かっていても他人のスピードに巻き込まれたり、ないかを見失ってしまいそうになったりする。それは成績や見た目でクラスでの立ち位置を考える14才だけの話ではない。ハラワタの姿を見ていると、少しスピードを緩めて「あれ? 私の“自分”って何だっけ」と考えたくなってしまう。ヨレヨレのハラワタの格好の中で唯一ピカピカ光るの靴みたいに、たったひとつでも大事な自分だけのものを見つけたくなるのだ。

『14才のハラワタ』2そんなハラワタは毎日の中で、周りの人が見せる意外な姿に何気なくも遭遇していく。いきがっているクラスメイトがふと見せた純な心。強いと思っていた母親が抱えていた弱さ。ちょっとだらしなく見える塾長の真剣な気持ち。いじめられっ子が秘めている思いがけない強さ……どれも、その人の心の奥が見えた瞬間だ。彼女は誰もに普段見せない姿があることを知り、そのハラワタに少しずつ大好きな人たちが懸命に生きている瞬間を吸い込んでいく。多分このプロセスが、彼女にとっての大人への一歩なのだろう。その瞬間を見つけた時、彼女はニコッと笑う。口数が少なく感情の起伏に乏しいハラワタの笑顔は、大切な一瞬を眩しくしてみせる。
この映画を見る人の多くが、“かつて14才だった人”だと思う。だからこの映画を、「こんなこともあったなあ」と懐かしく見るのも勿論アリだ。私も、自分自身クラスでの立場が微妙だったことや、ちょっと不思議な雰囲気のハラワタ的なクラスメイトがいたことを思い出した。そして、14才は14才なりに周囲を見ていることも。大人から見れば14才は子どもだけれど、ハラワタのように色々なことを見て知っている。でもこの物語は、“あの頃”の懐かしさだけに頼っていない。
ハラワタは、皆の大事な瞬間に真正面から立ち会わない。いつも後ろから或いは横にいて、そして少し離れたところから見ている。その気付かれず干渉し過ぎない距離感が“ハラワタ的”だ。加えて、俯瞰の画がなく天上からの神様的視点が存在しないこの映画の中で、地上のハラワタがみんなを代わりに見守っているようでもある。そんなハラワタの視線は、誰かが自分のことを「……」と見ていて、「うんうん」と肯定してくれているのかも知れないと思わせる。その時この映画は、“あの頃”を思い出すための物語だけでなく、かつて14才だった私たちの“今”の物語にもなるのだ。<ハラワタを通じて見る世界>と同時に<ハラワタに見られている人の物語>でもあることに、この映画の膨らみがある。

『14才のハラワタ』3監督は19才の学生、佐山もえみ。映画には時折ぎこちない間を感じるところや、普段は人を見る立場のハラワタが実は友達から見られていたことを知るシーンではハラワタの感情がもっと見たかったなど、惜しく思う部分はいくつかある。けれど映画全体に好感を持ってしまうのは、独自の世界が60分の中できちんと表現されていることと、「映画としてどう見せるか」へのこだわりと心配りを感じるからだ。
監督が構築してみせた世界はまさに“ハラワタ的”といえるものなのだが、それは例えば人と人との距離感や、随所に手触りや歩幅を感じる素朴さにある。主人公なのに大方受け身で、第三者的な立場にもなれるハラワタ。精神的にも物理的にも少し離れたところから周囲を見つめる彼女の距離感が、物語にウエット過ぎずドライ過ぎない独特の雰囲気を醸し出している。またパラパラ漫画や授業の宿題、塾に貼ってあるイラストなど映画全体に散りばめられた<絵>や、母親の部屋に時々転がっている謎めいた<風船>、ハラワタと父親の関係を見せる<靴>など、行き届き過ぎているくらい小道具を細やかに使って物語を進めていて、しかもその一つひとつが手のあたたかさを感じさせ“ハラワタ的”世界を形づくるのだ。ハラワタが靴を描いた自分の絵に雪を加える、ハラワタの思いが滲むちょっと泣かせるエピソードがあるが、映画に登場した小道具どうしが上手く活かされていることに感心させられたし、母親やクラスメイトがその絵の意味を知らないことも“ハラワタ的”だった。
音楽の選び方も上手い。リコーダー、鍵盤ハーモニカ、ギターにウクレレ。栗コーダーカルテットのメンバー関島岳郎による音楽は、演奏する人の息づかいや指づかいを感じる素朴さとテンポで、“ハラワタ的”世界をより強力にする。テトテトブカブカと奏でられる素朴な調べにのせて、トコトコと歩くハラワタ。この組み合わせは完璧だ。
そのほか家族どうしをつなぐ<玄関>の使い方など、言葉による説明ではなく見せることで物語を展開しようとする意欲もかいたい。「19才にしては上手くできている」などと、野暮なことはいいたくない作品だ。

見たこと知ったことを、自分なりに吸収していくハラワタ。けれどハラワタはやっぱりハラワタだ。家族の大きな出来事を経験した後、「何してる時が一番楽しい?」と聞かれて、彼女はいう。「寝てる時とご飯を食べてる時かな」
相変わらずの答えを返しながらも、彼女は変わっていた。それは誰も気付かないくらい小さな変化だけれど、映画を見ている人には分かる。ラストシーンでは今度は観客自身が、彼女の大切な瞬間を見つめることになるのだ。
そんな“ハラワタ的”体験をした帰り道には、心の中にテトテトブカブカとあたたかいリズムが響いていて、歩く早さはトコトコと少しゆっくりになっているかも知れない。それはきっと、ハラワタがかつて14才だった人たちにさりげない変化と力をくれた証拠なのだ。

(2009.8.21)

14才のハラワタ 2009年 日本
監督・脚本:佐山もえみ 撮影:西岡ほさな 美術:大橋麻実 音楽:関島岳郎(「栗コーダーカルテット」他)
出演:長野レイナ、水嶋瑞希、五十嵐令子、武田勝斗、池上幸平、橘ゆかり、大家由祐子、松田洋治 他
製作:トリウッドスタジオプロジェクト(短編映画館トリウッド/専門学校東京ビジュアルアーツ)
公式

10月17日(土)より、下北沢トリウッドにてロードショー!

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2009/09/30/17:59 | BBS | トラックバック (0)
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