インタビュー
レイモン・ドゥパルドン監督

レイモン・ドゥパルドン (監督)

映画『モダン・ライフ』について

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6月26日(土)より、渋谷シアター・イメージフォーラムほかロードショー

6月26日(土)より公開されるドキュメンタリー映画『モダン・ライフ』は、南仏・セヴェンヌ村で暮らす人々に密着し、彼らの暮らしや肉声を通して「人間本来の生活」を問いかける作品だ。仏ドキュメンタリー界でも巨匠として知られるレイモン・ドゥパルドン監督が、本作について特別インタビューに応じてくれた。(取材・文:佐藤久理子)

レイモン・ドゥパルドン(監督)
1942年フランスのヴィルフランシュ=シュール=ソーヌ生まれ。パリ在住。映像作家、写真家・国際ジャーナリストの顔をもつフランスの著名な写真家の1人である。12歳の誕生日に初めてカメラを手にし、60年代は兵役でアルジェリア、ベトナム、レバノン、サハラ等の戦場へ赴く。また同時にフランソワ・トリュフォー監督の撮影現場でも働く。1966年に数人の写真家と共にエージェンシーGammaを設立。1973年にアメリカ海外記者クラブとライフ社が創設したロバート・キャパ賞を受賞。1979年からマグナム・フォトの会員となる。1963年から映画製作もはじめておりドキュメンタリー作品で高い評価を得ている。代表作に、山形ドキュメンタリー映画祭で市長賞を受賞した『アフリカ、痛みはいかがですか?』(1996)、カンヌ国際映画祭60回を記念して制作された短編集『それぞれのシネマ』(2007)内の一遍「夏の映画館」などがある。また、フランスのカルティエ現代美術財団の大規模な展覧会にはたびたび参加しており、「夜」展(1996年)、「愛」展(1997年)、「砂漠」展(2000年)、「ヤノマミ、森の精霊」展(2003年)などがある。2004年には同財団で初の個展も開催された。
なお、『モダン・ライフ』で描かれたテーマは、もともと農村の出身である監督が10年来のライフワークとして撮影を続けているもので、『Profils paysans: l'approche(農民の横顔:接近)』(2001)、『Profils paysans: le quotidien(農民の横顔:日常)』(2005)と続くシリーズの3作目にあたる。『モダン・ライフ』では仏最高の映画賞とされるルイ・デリュック賞を受賞。デジタル撮影が主流の時代に、撮影はすべて35mmシネマスコープサイズで行われ、ほんとうの「人間と自然の関係の豊かさ」をフィルムにおさめた。自他ともに認める親日家でもあり、過去には東京オリンピックなども取材。ルイ・ヴィトンが2009年に発行した東京のガイドマップには「私が愛してやまない街、東京」と題したコラムを寄稿した。

『モダン・ライフ』1 『モダン・ライフ』2
――写真をやっていらした監督が、映画を始めたきっかけはどのようなものだったのでしょうか。

レイモン・ドゥパルドン監督2ドゥパルドン じつはもともと映画をやりたいと思っていたのですが、結局写真から始めることになったのです。というのも、写真の世界の方が入りやすいからです。それに比べて映画はまず映画学校に行き、基礎を学んだりと、もっと道程が決められています。わたしはまず兄のカメラを借りて写真を撮り始めました。でもそのあいだも映画のことがずっとどこか頭のなかにあったのです。

――写真家としてキャリアを重ねて来たドゥパルドン監督にとって、映画(動画)とスチール(静止画)の違いはどのようなものですか。

ドゥパルドン 優れた写真家というのは必ずしも優れた映画監督ではありません。写真と映画は一見とても近いように思えますが、似て非なるものです。映画と写真に流れる時間は異なるものだからです。もし写真を撮るようにムービー・カメラを使うなら、結果は惨憺たるものでしょう。映画は写真と比べて物語、意味を持たなければなりません。
映画を始めた当時はよく、お前はどっちがやりたいのかと訊かれたものですが、現代では両方やることは当たり前になっていますね。わたしは現在3つのエージェンシーに入っていて、映画と写真の割合はちょうど半々ぐらいです。でも写真家の知り合いは大勢いますが、映画監督は少ない。もう亡くなってしまったジャン・ルーシュ、フレデリック・ワイズマン、何人かのフィクションの監督……。ですから自分の家族はいまだに写真家たちだと思っています。

――あなたは固定カメラで長回しを多用しますが、その理由は何ですか。

『モダン・ライフ』ドゥパルドン 彼らが喋る瞬間を待っているからです。たとえば亡くなったマルセル・プリヴァは、わたしが出会った中でももっともガードの固い人物でした。当初テレビ局は2年間彼を追って、そのあいだに彼の人生のすべてを話してもらうことを望んでいました。でもそんなことが無理なのは、わたしにはわかっていました。彼らが喋る瞬間を予知することは、写真では学べないことでした。映画を撮るようになって自然に学んだのです。たぶんわたしの性格が学ばせたのかもしれません。わたしはしばしば砂漠や田舎に行って撮影をしましたが、そういう場所では絵になるようなものはないからです。そんなとき、そこで写すべきものを自分で発見しなければなりません。たとえばわたしは砂丘の写真をよく撮っていた植田正治の写真が好きですが、砂丘は我々に見るべきものを教えてくれます。彼は、『写真のなかでもっとも大切なのは背景、デコールだ』と語っていましたが、これはとても面白い意見だと思います。
田舎の人たちを撮影するとき、もっとも難しいことはまず彼らの信頼を得るということです。何年もかけてその場所に通わなければなりません。彼らは写真も、写真に撮られるのも好きじゃない。テレビさえ見ない。そんな彼らの信頼を得るためには、じっくりと時間をかけ、あせって事を進めないことです。彼らから『会えてうれしいよ』と言われるようにならなければならないのです。彼らの生活にこちらが侵入するような場合は好かれません。でも一度受け入れられたら、その後も彼らはあなたのことを歓待してくれるでしょう。

――それにしても、なぜそこまで農民に興味を持ったのでしょう? 日本の農民たちもいま同じような状況にいますが、現代のグローバリズムから切り捨てられて行く彼らの存在を訴えたかったのですか。

レイモン・ドゥパルドン監督3ドゥパルドン そうですね、たしかに当初のわたしの興味は、農民たち自身ではなく、農家は生き残れるのかという社会的なテーマにありました。日本の状況はわたしにはよくわからないのですが、農家は今後も続くのかそれとも都会人にとってのセカンドハウスのような場所になってしまうのか、という点に興味があったのです。それで当初は一本の映画を作るだけのつもりでいました。十年かけて一本の映画を撮ればいいと。でも十年は長すぎるとテレビ局から反対された。でもわたしはそれぐらいの時をかけてこそ農家の変化がわかると思ったのです。1900年には何千という農家がありましたが、近年はそれが減る一方でした。しかし、最近は特に女性が農業に興味を示していることなどもあり、少し状況は変わって来ています。60年代は女性が街に行ってしまって、農家は人出が減ってしまったものでした。たとえば映画に出て来るポール・アルゴはいまだ独身ですが、彼の世代は女性がいなくなってしまったからです。農家では、15キロ以内に女性がいなかったらもう結婚できないのです。街に探しに行ったりすることはありませんから。わたしの両親は農民だったので、もしわたしが農業を継いでいたら、いまごろはポール・アルゴのようになっていたと思いますよ。彼は『奥さんがいたら皿洗いには重宝するね』なんて言っていますが(笑)、夜は孤独だと思います。わたしが見かねて彼にテレビをあげたのです。かつてポールに両親のことを訊いたら、彼は突然泣き出しました。『パパは死に、ママも死んだ』と。その短い一言は驚くべきものでした。彼はいつふたりが死んだのかすら、もうはっきり覚えていませんでした。時間の観念がなくなっているのです。ポールのような人は現在、そう多くはいませんが、彼らはとても孤独でいながら芯が強く、心惹かれる存在です。ですから、彼らと長く付き合い続けるうちに、わたし自身どんどん農民という存在に魅せられて行ったのです。

――編集についてお訊きしたいのですが、これだけ長い撮影期間を経て、多くの素材があるなかで、どういった意図で編集をされたのでしょうか。

『モダン・ライフ』2ドゥパルドン でも『モダン・ライフ』では、カットしたシーンは少ないですよ。彼らのところには何度も出掛けていますが、実際にはそれほど多くカメラを回しているわけではないのです。映画で使っているシーンはわたし自身がとても強い印象を受けたところです。たとえばわたしをお茶に招待してくれたシャライ夫妻の場面。夫人がお茶をわたしたちに勧める様子は、日本の夫人がお客さんにお茶を出すような感じで、普遍的な雰囲気がありますね。夫人んはとても感じが良く、一方旦那の方は不平家だけど、根は優しい。このふたりがとても素晴らしく、わたしはぜひ映画に取り入れたかったのです。わたしがカメラを回しながら、『おふたりはいつ結婚したのですか』と訊くと、夫人が『わからないわ』と応えました。ふたりの関係性が伺える、とても印象的な応えでした。彼らは子供時代からの幼なじみですから結婚した年など忘れて当然なのでしょうね。わたしにとってあのシーンはノスタルジーなどではなく、何かしらとてもモダーンなものを含んでいます。質素な生活で自分たちは多くのものを持たない、けれどこの地球に対して、彼らはとても気にかけているのです。

――ドキュメンタリーを35ミリのシネマ・スコープで撮影することは現在では特殊にも思えますが、当初からデジタル・ビデオカメラやハイヴィジョン・カメラを使うことは選択肢になかったのでしょうか。

ドゥパルドン 法廷にカメラを持ち込んで、実際の裁判を写した『The 10th District Court: Moments of Trials』(2004)という作品を撮ったとき、悲惨な光景に悲惨さを加えるようなことだけは避けたいと思いました。つまりできるだけ映像のクオリティを保ちたかったのです。幸いテレビ局が投資してくれたおかげで潤沢な資金ができたので、わたしは35ミリのカメラを使おうと決めました。今回の農民シリーズもそうです。せっかく資金があるのなら、それを反映した映画にしたかった。多くの映画の問題は、予算があるのにそれが作品に表れるような映画になっていないことです。お金がいったいどこに消えるのでしょうね(笑)。
レイモン・ドゥパルドン監督2『モダン・ライフ』の場合は、とても芝居に近いとも感じました。というのも、まるで芝居の舞台のように、農家、キッチン、家畜小屋等、撮影するのがいつも同じ場所だからです。
最初農民たちは愛想が良くありませんでした。『なぜあなたは若くもないのに写真をやっているのか?』などと言われました。興味深いことに彼らにとって、カメラマンとは若い人の職業なのです。最初はライカを持って彼らのところに行きました。でも連射されるのを彼らは好みません。それでマミヤなど大型のカメラを持って行くようになりました。そういうカメラは準備に時間がかかります。そうすると今度彼らは、『そのカメラはなんだ。なんでデジタルを使っていないのか』と言いました。わたしをちょっとばかにしながらね。古いカメラで、あなたも年寄りで、その上写真もヘタじゃないか、と(笑)。でもそうやって少しずつ距離が縮まって行きました。彼らはそのようにして徐々に親近感を抱いて行くのです。ある農家で、去勢されたとても大きな年寄りの雄牛がいました。わたしはどうしてもその牛と飼い主の写真がとりたくて、主人に写真を撮らせて欲しいと頼みました。11月半ばのことでした。主人がよし、とOKを出してくれたのは、なんと5ヶ月後でしたよ。ジュリエット・ビノシュのようなスターでもそんなに待たせられませんよ(笑)。でもわたしは「わかりました」と答えました。彼らの時間に合わせたわけです。彼らの時間は都市の時間の感覚とは異なるのです。

――ハイビジョンやビデオカメラには興味がないのですか。

ドゥパルドン いえ、そんなことはありません。でもわたしが気に入っているのはアートン(※カメラのブランド)で撮影した後、デジタルに落とすという手法です。でも知り合いの技師から、1、2年すればデジタルできみも撮れるようなカメラができるよ、と言われました。モダン・ライフは35ミリで撮ったあと、デジタルに変換しています。最良の方法を考えたとき、2つのパーフォレーションのカメラを使うことを勧められました。このカメラは最近ではグザヴィエ・ボーヴォワが新作(『男たちと神々』)で使っていますが、わたしの作品がプロトタイプとなったのです。オーストラリアで生まれたもので、4つのパーフォレーションのカメラに比べて倍の時間撮影することができるため経済的でもあるし、長く撮影できることはプロの俳優ではない農民を撮影する上でも、とても便利でした。

(2010年5月26日 パリ郊外の監督オフィスにて 取材・文:佐藤久理子)
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モダン・ライフ 2008 フランス
監督・撮影:レイモン・ドゥパルドン
製作・録音:クローディーヌ・ヌーガレ 音楽:ガブリエル・フォーレ「パヴァーヌ」「エレジー(作品24)」
編集:サイモン・ジャケ 提供:新日本映画社 配給:エスパース・サロウ 協力:マグナム・フォト東京支社
原題「LA VIE MODERNE」(ラ・ヴィ・モデルヌ)
2008年/フランス/90分/35㎜/カラー/シネマスコープ/ドルビーSRD/日本語字幕:丸山垂穂
(c)Palmeraie et desert - France 2 cinema 2008 photographs (c)Raymond Depardon / Magnum Photos
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6月26日(土)より、渋谷シアター・イメージフォーラムほかロードショー

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2010/06/24/19:35 | BBS | トラックバック (0)
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