初めての料理は、ママのためにつくる最後のディナー。
アメリカ中のオーブンが、七面鳥を焼くためにフル稼働する日、感謝祭。
ニューヨークで黒人のボーイフレンドと暮らすエイプリルにとって、その日は特別な日だった。
初めて自分のアパートに家族を招待するのだ。ファッションから生き方まで自由奔放なエイプリルは、
典型的な中流家庭の家族に何かと反発してきた。しかし、特に仲の悪い母親が、
ガンで余命あとわずかと知った彼女は、母の大好物である七面鳥のローストを作ろうと決意する。
ところが、オーブンの故障を幕開けに思わぬハプニングが続出する。一方、両親と祖母、
妹と弟を乗せた車も、エイプリルとの散々な思い出が蘇るたびに減速、
なかなかニューヨークにたどり着けない……。
いつしか人生のどこかで心がはぐれてしまった娘と母。憎みあって、何年も会わなくても、
母親の病を知ったときにあふれ出る思い。失われた時間、
壊れてしまった家族の絆を取りもどそうとするエイプリルの祈りは、母親にとどくのだろうか。
『エイプリルの七面鳥』は、ピリッと辛いユーモアと、ほろ苦い涙をちりばめながら、
家族の愛と再生をあざやかに描きだした。
オーブンを探してアパート中を駆け回るエイプリルは、
助けてくれる人々に家族とのワケありの思い出を話す。また、車の中の家族たちも、
繰り返しエイプリルに関するロクでもない記憶を語り合う。私たちは、思わず吹き出すエピソードや、
ジーンと泣かせる話に、「ある、ある、うちにもそんな話」と頷きながら、
いつの間にか自分の家族を重ねている。そして、
ウンザリするような思い出さえも大切に抱きしめている自分に驚き、やがて気づくのだ。家族とは、
血のつながりではなく、思い出のつながりなのだということに。思い出のかけらを持ち寄れば、
きっと出来上がる小さなしあわせ。それがあれば、
いつか必ず訪れる永遠の別れにも耐えることができるのかもしれない。
『エイプリルの七面鳥』は、観終わった私たちに、二つのレシピをプレゼントしてくれる。
“感謝祭のディナー”と“小さなしあわせ”の作り方を。
『アバウト・ア・ボーイ』の脚本家ピーター・
ヘッジズが初監督作で引き出したパトリシア・
クラークソンの圧倒的演技
2003年から04年にかけての全米の賞レースでは、“パトリシア・クラークソン・ブーム”
が沸き起こった。アカデミー賞最優秀助演女優賞、ゴールデン・
グローブ賞最優秀助演女優賞ノミネートを始め、ナショナル・ボード・オブ・
レビュー賞最優秀助演女優賞など数々の賞を受賞、『エデンより彼方に』『ドッグヴィル』
などですでに実力は十分認められていたが、エイプリルの母親ジョーイを演じた本作が、
彼女の代表作になることは間違いない。
娘との不和と自身の死という困難を独特のユーモアでかわしながらも、
最後にはすべてを受け入れるジョーイ。そこには悪い母親、
良き妻といった型にはまったキャラクターではなく、一瞬一瞬に命を刻もうとする生身の人間がいる。
世の中に媚びず、自分の信じるファッション、ライフスタイルを貫くヒロイン、エイプリルには
『アイス・ストーム』『ワンダー・ボーイズ』のケイティ・ホームズ。エイプリルが、
人種も年齢も異なるアパートの住民たちと交流し、
他者を受け入れる優しさに目覚めていく過程を見事に演じている。
観客もこのアパートの住人の一人となり、エイプリルの七面鳥が無事焼きあがるよう、
応援せずにはいられない。
その他、味わい深いキャストを揃えることに成功、
「初めて監督する人間にとっては誰をパーティに招待するかですべてが決まる。
招待リストが素晴らしければ、パーティはうまくいく」と語るのは、これが監督デビュー作のピーター・
ヘッジズ。レオナルド・ディカプリオが一躍その名を知られた『ギルバート・グレイプ』、ヒュー・
グラントの大ヒット作『アバウト・ア・ボーイ』の脚本家として知られている。本作でも、
もちろん自ら脚本を担当、生と死をまっすぐに見詰める瞳と、
危機を乗り越えるユーモアを忘れない心をあわせもつ作品に仕上げ、
最近亡くしたという自身の母親に捧げた。
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