
硝子のジョニー 野獣のように見えて(1962年・日活) | |
■スタッフ 監督:蔵原惟繕 脚本:山田信夫 音楽:黛敏郎 |
■キャスト 宍戸錠 アイ・ジョージ 芦川いづみ 平田大三郎 南田洋子 ほか |
逃げまくる男たちと追いかける一人の女。そんな映画。「行かないでぇ! 独りにしないでぇ!」
と、芦川いづみが全編を通して叫びながら涙をすするのがかなり異色。
その芦川は稚内の寒村の長女。貧しさゆえに本土のスネークヘッド=アイ・ジョージに売り渡される。アイがまるで『青春残酷物語』
の川津佑介ばりにいきなりシャツを脱いで海に飛込むから何者かと思う。そんなアイから芦川は護送中に逃亡し、
函館のドヤ街で宍戸錠と知り合う。こいつがまたとんでもないロクデナシで、競輪に熱を上げて料理人を辞めて山師のその日暮し。
アイの追跡から逃れるために芦川は宍戸に身を寄せるが、彼は弟分の競輪選手・
平田大三郎と小樽での一攫千金を当て込んで芦川のもとをトンズラしてしまう。
「行かないでぇ! 私を独りにしないでぇ!」と涙をすする芦川。しかし、
宍戸も道中で彼が目を離した隙に平田が恋人の和田悦子と駆け落ちしてしまい、失意の果てに函館に舞い戻って彼の情婦・南田洋子のママに、
「俺を見捨てないでくれ!」とすがりつく有り様。 平田は平田で結局、
和田に逃げられて途方に暮れてブラブラしているところを宍戸に見つかり、
「俺が悪かったんです! 見捨てないでください!」と宍戸に土下座する始末。こうなるともう出来の悪い喜劇だ。
なんの因果か、宍戸に逃げられた芦川は、彼女の刺客であるはずのアイに身を寄せることに。しかしアイは、
かつて彼のもとから行方を暗ました桂木洋子が小樽に棲息していることを聞き付け、芦川を捨てて飛び出していく。またしても芦川は、
「行かないでぇ! 独りにしないでぇ!」
結局、桂木が何者なのか、物語に急展開をもたらすこともなく尻切れトンボ。
芦川は不幸な境遇から自分を救い出してくれる「誰か」を待ち焦がれている。それが宍戸錠なのかアイ・ジョージなのか、芦川はその「誰か」
を「ジョニー」と呼んでいる。「ゴドーを待ちながら」ならぬ「ジョニーを待ちながら」というわけだ。アイの主題歌がそれを象徴する。
しかし結局、「ジョニー」は現れず、ぼろ切れのようになって稚内に舞い戻った芦川は大海原に身を投げる。
虫の知らせを受けたならず者二人は稚内へ急行。
「みふね、俺を捨てないでくれぇ!」と大海原に絶叫して膝から崩れ落ちて終わる。不条理劇といえばたしかにそうかもしれないが、
蔵原ならではの爽快感がなく、釈然としない後味。
南田洋子がいい。女のくたびれた色気をやらせたら彼女の右に出る者はいないのでは?
芦川いづみが白痴をやるのは、やはりちょっと違和感がある。いくらあばずれな役どころでも彼女の場合、
知性に裏付けられてこそ初めて本来の魅力が引き立つのでは。浅丘ルリ子の『女体』(増村保蔵監督・69年日活)も若尾文子の
『砂糖菓子が壊れるとき』(今井正監督・67年大映)も同じ意味でしくじっている。
馬鹿な女の役はホンマモンのバカオンナにやらせるのが一番かも。
TRACKBACK URL: