今やブロードウェイ・ミュージカルの金字塔の一つとなった「RENT」は、オフ・ ブロードウェイでの公開直前に襲った作者ジョナサン・ラーソンの急逝によって、名実共に「魂」 の入った作品となったのは間違いないところだろう。ジョナサンの遺志を伝えたいという、キャストやスタッフ達の熱意が、 作品の持つポテンシャルを最大限に引き出すことに繋がったことは想像するに難くない。その意味で、 今回の映画化にあたって1996年の初演当時のオリジナルメンバーを殆どそのままキャスティングしたクリス・コロンバスの選択は、 正鵠を射たものだったと言える。なぜなら、それは劇中で映像作家志望のマークが仲間達の姿を記録していたのと同じく、 この作品に初演当時の空気を伝える記録映画的な意味合いを添えることとなり、 単純な映画化以上の作品たらしめることに成功しているからである。言うなれば、 本作はミュージカルという一回性の芸術をフィルムに焼き付けた記念碑――10年という時を越えて実現した文字通り記念碑的作品なのである。
毎月の家賃(=RENT)も払えない貧しい芸術家志望の青年とその友人達の姿を群像劇風に描いた本作だが、
実は物語自体にそれほど新味があるわけではない。エイズやドラッグ、同性愛といった現代的な要素を中心に据えているとはいえ、
寧ろ物語のアウトラインそのものはこれまでに散々描かれてきたものとすら言える。しかも、
本作の現代性を担保するものの一つであるエイズ問題も、初演時と現在とでは取り巻く環境が一変していることと相俟って、
当時ほどの切実さを感じられないのも否定できない。
また、本作の特徴の一つは、社会に対するラディカルな問題意識と世紀末という時代感覚を物語の核にすることで、新世紀への希望を力強く、
高らかに謳い上げてみせている点にある。勿論、愛別離苦といった現実問題と絡めた物語でもあり、本作に込められたメッセージの多くは、
今現在でも遜色なく通用するものとなってはいるとはいえ、やはり「新世紀への眼差し」を基幹に据えているという点で、
どこか遅きに失した観が拭えないのも事実だろう。
しかし、それでも本作には観客を引き摺り込んでしまう瞬間が確かに存在する。
それも一箇所ならず何箇所も。それは物語に普遍性があるというだけではなく、やはり「歌」そのものの力によるものと言うほかないだろう。
歌が物語に支えられることで、その歌詞をより深く味わうことができるというミュージカルならではの幸福な体験を、
本作でもきっちりと堪能させてもらうことができるのである。
恋の始まりを予感させる戯れを「蝋燭」で、或いは移り気な恋人の行動を「タンゴ」で比喩するといった割とベタな歌詞から、
押韻をふんだんに盛り込んだ愉快痛快な「ラ・ヴィ・ボエーム」、そして切々と歌い上げられる数々のバラードと、
シンプルなだけにリリックの魅力がよく伝わってくる歌が揃っているのがこの作品の最大の魅力だろう。また、ロックとR&
Bを中心にした楽曲群も馴染みやすく、PV感覚ですんなりと作品世界に入り込めるのも嬉しい。
恐らくこの作品に対する評価の分水嶺は、ラストを含めた数々の突っ込みどころをどこまで許容できるか、 この一点に尽きるのではないかと思う。作品に分かちがたく含まれた濃厚な虚構性に一々反応してしまう人にとっては、 本作はどこまでいっても酷く退屈な嘘っぽい物語にしかなりえないだろう。しかし、逆にそうした虚構性を乗り越えることができるのであれば、 或いは無視することができるのであれば、 本作は52万5600分のうちの135分を費やすに足るだけの価値ある気づきと学びを得られる作品となるに違いない。
(2006.5.2)
主なキャスト / スタッフ
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RENT E 映画まみれ
『RENT』 (‘05/アメリカ) 監督: クリス・コロンバス こうみえて(どうみえて?)も実は結構ミュージカル好きだったりする。 ...
Tracked on 2006/05/05(金)00:38:45
RENT E 映画まみれ
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RENT/レント E Pocket Warmer
邦題:レント 原題:RENT 監督:クリス・コロンバス 出演:ロザリオ・ドーソ
Tracked on 2006/05/08(月)22:07:12
レント E ジャスの部屋 -いん ぶろぐ-
映画「レント」の感想です
Tracked on 2006/05/17(水)16:04:46
『RENT レント』・試写会 E しましまシネマライフ!
今日は某映画関連サイトで当選した 『RENT レント』の試写会に行ってきた。 《私のお気に入り度:
Tracked on 2006/06/02(金)16:41:01