
設定などは先述の通りだが、『Firefly』の面白い点は基本的にウェスタンであることだ。未開の地を行く幌馬車=スペースシップが出会うさまざまな出来事を描いているのだ。この点は『スタートレック』シリーズとも同じとも言える。ジョス・ウィードンが「恋愛しないハン・ソロのストーリーを作りたかった」と言っているのも大きなポイントだ。ウィードンいわく「『スター・ウォーズ』は大好きだけど、ハン・ソロとレイアの恋愛はいらないし、もっとハン・ソロの活躍が見たかった」のが『Firefly』を作る、大きなきっかけだったという。ハン・ソロのキャラは主人公のマルの「伝説的な英雄ながら、当時の輝きはなく、今はしがない海賊船のリーダー。ただ、ここぞという時には頼りになる人物」という設定に大きく投影されている(しかも、マルはハン・ソロのように皮肉屋である)。また、「同盟」の設定も『スター・ウォーズ』の「帝国」の設定に似ている。
これらの設定に加えて、中国趣味が多く導入されていることも『Firefly』を興味深いものにしている。このことはジョス・ウィードンの奥さんが中国に住んでいたこともあって、ジョス・ウィードンが中国に興味を持ち、現在の中国の経済的パワーから考えても、未来では中国の要素が多く浸透しているだろうとのことからだという。アメリカ人的観点なのか、中国だけでなく、アジア全体ととらえているのかインド的や日本的な要素も導入されている。インド的な要素では同盟の提督の館の内装、日本的な要素ではカタカナやアニメ(「マラセタ!」というお菓子のアニメ風のCMの登場、また紙幣には「銀行」と書いてある)、刀での闘いなどである。
『スター・ウォーズ』だけでなく、さまざまな過去のSFの有名な作品のエッセンスが凝縮されているのも『Fiirefly』の大きな魅力になっている。異星人の食人部族「リーヴァース」は「エイリアン」でもあり「プレデター」である(ルックスはかなり「プレデター」である)。主人公を補佐する、強い女性キャラクターはジェームズ・キャメロン作品のようであり、スペースオペラ的な船団の設定は『スター・ウォーズ』というより、『宇宙空母ギャラクティカ』の影響も見てとれる・・・・・とSFファンなら楽しめること請け合いである。
後述するが、しかも映画『Serenity』には『マトリックス』や『最終兵器彼女』(?)の要素や、911以降のアメリカ人らしい意識である「テロを生むのは、強大な国家が知らず知らずのうちに他国に対して、その意識を育ててしまっている」ことも入っているのも見逃せない。「911以降」と書いたが、ベトナム戦争やFBI・CIAという組織があることからも分かる国家的な謀いなどの要素も巧みに盛り込まれている。「優れた作品というのは現代を映す鏡である」という言葉があるが、まさにその言葉が匹敵するテレンシリーズである。
このような現代的な要素を含みながら『Firefly』及び『Serenity』は本質的に楽しめる、高水準のSF作品でもあることが何よりも素晴らしい。クリエイターのジョス・ウィードン自身が今やりたいことが詰まった渾身の作品であることも、これらの要素からも伝わってくるだろう。
主なキャスト / スタッフ
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