テレビシリーズ『Firefly』と映画版『Serenity』の大きな違いはサイモン・グラウ演じるリバーのキャラクターが大きく変わり、出演シーンも大幅に増えてキーのキャラクターになっていることである。このことはサイモン・グラウもとても驚いたらしく、「テレビシリーズでは少ししか出てこないリバーが、映画ではもう少し出てくればいいな程度に思っていたの。だから、映画版の脚本を読んだときは、自分の演じるリバーが映画の中心になっていることにショックを受けたけど、とても興奮したし、ジョス・ウィードンがわたしのことを信頼してくれていることが何よりもとても嬉しかった」と語っている。それまでサイモン・グラウは、『Firefly』のレギュラー以外では、いくつかのテレビドラマの小さなゲスト役、及び映画では2004年のティーンコメディの『Sleepover』の端役に出た程度だった。
映画はテレビシリーズの続きで、冒頭で兄のサイモンが同盟側に補われているリバーの救出劇が描かれる。そして、リバーが何かに怯えていて、危機に陥るとスィッチが入ったように別人になり、超人的な活躍をすることが映画のストーリーのキーになっている。
テレビシリーズの映画化の際のアメリカ映画の良い例で、基になったテレビシリーズを見ていなくて、いきなり映画から観た場合でも設定やキャラクターの関係がすぐに分かるように作られている。具体的には『Serenity』号のクルーの人間関係、同盟の設定、リーヴァースとは何であるかなどである。
映画ならではの大規模なSFXやアクションシーンを盛り込みながら、リバーの飛躍的な能力の発達の解明が描かれている。そこには驚くようなことがあるのだが、同盟軍やリーヴァースとの死闘、マルの元恋人と同盟の提督との三角関係や、カイリーとリバーの恋愛関係も描かれる。クライマックスのリーヴァースとの死闘シーンは、リーヴァースのしぶとさと食人なので、良質なゾンビ映画を想起させる大アクションシーンである。しかも、追いつめられた限定空間で闘う設定は『エイリアン2』や『要塞警察』をも想起させる。
リバーの活躍で興味深いのは幼いルックスの少女が『マトリックス』ばりのアクションを展開するのが、日本のアニメの影響を濃厚に感じさせることである。しかも黒のタンクトップという「萌え」る服装である(笑)。突然、スイッチが入ったように最強の武器になるところは、ジョス・ウィードンが知っているか分からないが『最終兵器彼女』を強く想起させた。また、弓などの武器や細かいガジェットも凝っていて見逃せない。
テレビシリーズからの基本設定及び最終話の展開を受け継ぎながら、映画ならではの展開及び、「この人がここで登場するんだ」、「この人物がここで死んでしまうのか」などの予測的な展開で映画ならではの楽しみがある。そして、テレビシリーズを見ていたファンには、より楽しめる映画になっている。日本での映画のソフトリリース(現在も映画会社に公開を働きかけているが)及びテレビシリーズのリリースがいつになるかもまだ分からないが、どんな形であれ、映画、テレビシリーズとも是非見てもらいたい作品である。
(文:わたなべりんたろう)
主なキャスト / スタッフ
TRACKBACK URL: