「三姉妹~雲南の子」/ワン・ビン(王兵)監督

ワン・ビン(王兵) (監督)
映画「三姉妹~雲南の子」について

公式

2013年5月25日(土)より、
シアター・イメージフォーラム
ほか全国順次ロードショー
同劇場にて5月11日(土)~5月24日(金)までワン・ビン監督傑作選上映
上映スケジュール(PDF)

新作『三姉妹~雲南の子』を携え来日したワン・ビン監督を囲んでの合同インタビューが4月9日に行われ、筆者も末席を汚させていただいた。ワン・ビン監督は実に物腰穏やかで、些かも周囲を圧することなく粛々と質問に応じる姿が強く印象に残った。ワン・ビン作品の至大さとは、斯様に粛々と重ねられた手仕事の成果なのかと感じ入った。いつもながら、機会を与えてくださった諸兄に感謝します。(取材:後河大貴)

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ワン・ビン(王兵)監督3――『鉄西区』冒頭の長大な長回しでありますとか、『鳳鳴(フォンミン)-中国の記憶』の和鳳鳴を撮る上での限定的なカメラアングルでありますとか、王兵監督の作品はフォルムの特異性が印象的です。一方、『三姉妹~雲南の子』は全編にわたって非常にスタティックなカメラワークでありながら、視覚的な語り口の巧みさに瞠目しました。前作で劇映画に挑戦されたことが、ドキュメンタリーの方法論に変化をもたらしたということがあるんでしょうか。

ワン・ビン  仰る意味はよくわかります。私は、これまでに多くのドキュメンタリーを撮ってきました。前作では『無言歌』という劇映画を撮ったわけですけど、今現在に至るまで、私は劇映画とドキュメンタリーの境界は非常に曖昧になってきていると感じています。劇映画を撮る際の問題点として一番大事なのは、それらが虚構であるにもかかわらず、あたかも真実であるかの如き物語を組み立ててみせるということですね。これが一番難しいことですけども。一方、ドキュメンタリーは目の前にある事実を記録として撮っていくわけです。それが本当の意味で映画として成立するような、いい作品にするということ。ここがまた、ドキュメンタリーの最も困難な点であるわけですよね。つまり、その両方の要素を巧く混ぜ合わせることが重要なのですが、それは編集の段階が大きく作用してくるのです。今回もそうでしたけども、ドキュメントではあるのですが、劇映画の物語的な手法を編集で取り入れていくということ。それが重要です。

――デジタルカメラの技術的革新に伴ってドキュメンタリーの多元化・個人化が昂進し、ドメスティックな空間に踏み込むことが容易になったことで表現領域が拡大されました。反面、撮影行為自体が露悪に転じることもまた容易になったのではと思います。王兵監督が撮影される際、心を砕いていらっしゃる点があれば、是非ご教示いただきたいのですが。

ワン・ビン  今仰ったように、カメラは軽くて使いやすいものになったわけですから、容易に人々の生活の中に入っていくことができるようになったわけです。確かにフィルムで映画を撮っていた時代と比較すると、被写体との密接さ、幅も広がっているわけですよね。デジタルカメラの良いところは、記録することの方法を変革することができたということで、そういう優れたところもあります。しかし、一方で、ズカズカと他人のプライヴェートな世界に踏み込んでしまうということに結びついてしまうこともあります。そこで必要なのが、道徳の線を引くということですね。自分個人が道徳的な線を意識して、被写体に対峙するということ。私は常に、その原則をもって撮っています。

――今現在、三姉妹はどうしているんでしょうか?また、完成した作品を、お見せになっているんですか?

ワン・ビン  撮影をした時から2012年から2年ほど経過していますので、映像の中の彼女たちからは、ずっと成長しているのではないかと思います。実はそれ以降、私は会っていないので、今現在どういう風に彼女たちが生きているかのかはわからないんですけども、実は昨年12月に一度家に行ってみようと思い立ち、途中まで行ってみたんですね。しかし、山に登り始めて、2,300メートルぐらい登った地点で体調が思わしくなくなってきて、「やっぱり駄目だな」というふうに下山してしまったわけなんです。それで、町で自分が待っている間に友人に車で行って貰って、お父さんを町に連れてきて貰ったんです。そして、お父さんにだけこの映画(『三姉妹~雲南の子』)をパソコンで見て貰ったわけなんですね。それでその時、お正月が迫っていたので、三姉妹に洋服だとか、日用品だとか色々な物を買って、プレゼントに持って行って貰いました。

――(三姉妹の)お父さんは、作品をご覧になってどういった反応を示されたんですか?

ワン・ビン  ちょっと見て貰っただけなんですけども、あまり関心が無いような感じでした。その時、ちょうど私は、三姉妹を置いて出て行かざるを得なくなった奥さんのことを……つまり三姉妹の母親のことを聞いたものですから、どうも不安を覚えた感じで、落ち着きを無くした様子でしたね、その時は。

ワン・ビン(王兵)監督2――DVDやヴィデオでご覧になっている方はいらっしゃると思うのですが、自作が中国で劇場公開されない現状をどうお感じですか?また、今後中国で一般公開されるような作品を撮りたいという思いはおありになるのでしょうか?

ワン・ビン  もちろん、映画監督としては多くの人に作品を見て貰いたいという思いはあります。しかし、今の中国の現実では、私の映画は映画館で上映することはできないんですね。ただ、上映できるか否かにかかわらず、制作は継続していきたいと思っております。いつ上映できるような状況が到来するかはわかりませんけども、撮り続けていかねばならないとは思っています。ですから、とにかく今撮りたいものを撮るということだけが頭にあって、他の事は考えていません。時間も無駄にしたくないので、ただできることをやっていきたいと思っております。

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( 取材:後河大貴 )

三姉妹~雲南の子 フランス、香港 / 2012 / 153分/16:9/stereo
監督:ワン・ビン(王 兵)WANG BING
配給:ムヴィオラ ©ALBUM Productions, Chinese Shadows
2012年ベネチア映画祭オリゾンティ部門グランプリ
2012年ナント三大陸映画祭 グランプリ&観客賞 ダブル受賞

公式

2013年5月25日(土)より、
シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー
同劇場にて5月11日(土)~5月24日(金)までワン・ビン監督傑作選上映
上映スケジュール(PDF)

鉄西区 [DVD]
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無言歌(むごんか) Blu-ray
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  • 監督:ワン・ビン
  • 出演:ルウ・イエ, リェン・レンジュン, シュー・ツェンツー, ヤン・ハオユー, チョン・ジェンウー
  • 発売日:2012/10/27
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2013/05/11/18:56 | トラックバック (0)
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