――今回は小林さんはナレーションではなく、「ドキュメンタリードラマ」の主人公としての参加になりましたね。とても独特で面白い作品になりましたが、どうしてこのような手法を取られたのですか？

山田　ストレートドキュメンタリーは他にもあるので差別化を図りたいというのと、犬や猫のおかれた過酷な状況についての告発ものよりは、それを見た私自身の立場というか、取材してきた人間の揺れみたいなものを出したかったんです。何が正しいのかが途中で分からなくなったので、そういう主人公の揺れ、それは自分自身の揺れでもあるわけですが、そういうのを出したかったんです。

――小林さんがそれを見事に表現されていましたね。自然体の演技をされる方なので、ドキュメンタリーとドラマを融合させた作品が成立したのも小林さんだからだなと思いました。

山田　そうですね、本当にリアリティがあってよかったなと思います。でもこの方法がここまでうまく行くかどうかは正直分かっていなかったです。「とりあえずやってみよう」っていうことでやって、結果的に非常にすんなりドキュメンタリーと繋がっているように見えましたが。

――かなり難しいことをされているなと思います。200時間分の素材をまず一度編集してお話として組み立てて、そこにまた小林さんが出るドラマ部分を入れるという複雑なことをされているわけですよね。

山田　そうですね、まず、小林さんのシーンを撮って、編集をし直して、そのあと数ヶ月後にまた撮ったりしているんですよ。普通の映画だったら期間が決まっていて、その間に完成させなければいけないんですけど、これは自社製作で締切りが決まっていないからそこはもう自由にやりました。撮って編集して、足りないなと思ったらまた撮って、というすごく贅沢なやり方をしています。

――そういう綿密さが本当に映画に表れていますよね。ドキュメンタリーのすべてのシーンに小林さんが立ち会っているように思えました。

山田　そうですね、そうなったのでよかったです。

――取材対象の団体の方たちは、小林さんとの撮影にすんなり入っていかれたのですか？

山田　私はしょっちゅう「ちばわん」と「みなしご」に行っていたので、小林さんが撮影に参加することになったときには「小林聡美さんっていう有名人で女優さんが来るけれども、小林さんだと思わないでください。あれは私で、山田がまた来てちょろちょろ撮っているなと、いつもと同じ態度にしてください、特別扱いしないでください」っていうふうに言ったんですよ。そしたらみなさん「分かりました、じゃあ山田さんのときと同じにすればいいんですね」って言って、そうなっていました。不思議ですね。

――山田監督への信頼と小林さんのお人柄があってみなさんもそうできたのでしょうね。小林さんも「かなみ」役になり切っていましたね。かなみが撮影をしているシーンで、犬に飛び付かれて「メッ」という表情をするようなところはアドリブだと思うんですけど、本当にごく自然に取材者の顔になっていました。

山田　小林さんご自身が自然体の演技をされる方なので、そこは非常にありがたかったですね。だからこの主人公のキャラクターというのは、私のキャラが3分の1ぐらいと、小林さんのキャラが3分の1ぐらいと、久野かなみという架空の主人公が合わさっての存在にうまくなったなあと思っています。小林さん自身でももちろんないし、全部が私自身の投影でもないんです。新しいキャラクター像ができたなと思います。