山田あかね 監督 映画『犬に名前をつける日』について【5/6】
シネスイッチ銀座ほか全国順次公開中
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――上川隆也さんが演じるかなみの元夫とのシーンもあって、これはまた他の部分とは全然違うまったくのフィクションですが、どういう意図で入れたのですか?
山田 最初は彼女のバックボーンがないバージョンを作ってみたんです。で、そのときに、彼女は50歳ぐらいという設定になるわけですが、「この人は50年間どんな人生を送ってきたんだろう?」というのがちょっと気になったんですよ。そこがちょっと見たいなと。「犬が好きで映画を撮り始めた人なんだけど、どうやら今一人暮らしで、じゃあ結婚はしなかったんだろうか?」とか、ちょっと気になったのでそれを入れたいなと思ったんです。ただ、今結婚しているという設定にしちゃうと家に帰って旦那がいて、というふうに、話が複雑になる。それよりは前の旦那さんという設定だと、かつては恋愛したり結婚したりしていたという彼女の背景も見えてくるし、前の旦那さんとすごくいい感じで友情が繋がっているっていうキャラクターにできるなと思ったんです。しかもそれが上川さんみたいな爽やかで仕事熱心でイケメンで、みたいな、誰もが憧れるような旦那さんがいた人だったんだなあというふうにしたかったんです。
――(笑)。そうですよね。こういうシーンがあることでかなみにグッと親近感が湧きました。前の旦那さんは最初ドローンを操りながら登場しますが、これは監督にとって思い入れのある機材なのでしょうか?
山田 ああ、そうですね。この映画をメインで撮っているカメラマンは谷茂岡(稔)さんという大ベテランの方なんですけど、映画の意図に共感してくれて、本当に友情でいろいろ撮ってくれたんです。で、谷茂岡さんと地方ロケに行くと、朝早く起きて広場でドローンの練習をしているんですよ。「NHKスペシャル」とかをやっているような名前もあるし実力もある人なのに、暇を見付けては常に練習しているんです。私はその姿を見て「美しいな」と思ったんです。上川さんの役はそういうカメラマン像がいいなと、つまり、いくつになっても自分の状態に甘んじないで、新しい機材が来たら使いこなすために日々努力しているというキャラクターにしたいなと思ったんです。それは小林さんの役にも強く意識したことですね。ただ、ちょうどそのころ、ドローンが首相官邸に墜落したという事件があって、「こんなときに本当にドローンで撮る必要があるのか?」という意見もありました。ドローンの悪い面ばかりが言われていたんですよね。でもドローンというのは最新技術で、撮影チームにとっては今まで人間が撮れなかったものが撮れる素晴らしい発明なんですよ。なおかつ被災地に薬を届けたりもできる。そういうプラスの面があるのに「ドローンを使っている人は悪者」みたいな空気も嫌だなと思ったので、それは挑戦的に入れました。もちろん危険な面もあるので、使う人が丁寧に練習しておく必要があって、だから彼が練習しているシーンにしたんです。練習して志高く持って使えば、ドローンはすごくいい技術なんですよね。
――栃木にある、被災地から保護してきた犬たちのシェルターを上のほうから撮っている映像がありましたが、あれはドローンで撮っているんですか?
山田 そうです、ドローンで撮っています。だから映画を丁寧に観ていった人には、彼が出たあとにドローンの映像が入るから、「あれ?あのカメラマンが手伝ってくれたのかな」って思ってもらってもいいなあと、そういうこっそりした伏線を入れておきました。
――ええ、そういうことを感じましたね。前の旦那さんが出てくるシーンというのは短いですけど、大きな存在なんですね。とても素敵な役で、本当に仕事熱心で挑んでいる感じが出ていましたし、それでいてかなみのことも親身に考えているし。
山田 じゃあなんで別れたんだ?ってことですけどね(笑)。それを描こうと思ったら、もう1本撮らないといけないんで。
出演:小林聡美(『かもめ食堂』『プール』『マザーウォーター』『紙の月』ほか)、
上川隆也(『東京夜曲』『梟の城』『二流小説家 シリアリスト』ほか)、
渋谷昶子監督(カンヌ国際映画祭短編部門グランプリ『挑戦』)、
動物保護団体「ちばわん」「犬猫みなしご救援隊」
製作:スモールホープベイプロダクション
監督・脚本・プロデューサー:山田あかね(『すべては海になる』『むっちゃんの幸せ』)
構成:松谷光絵 撮影:谷茂岡稔 編集:大泉渉 ラインプロデューサー:竹内暢生
音楽:つじあやの 主題歌:「泣けてくる」ウルフルズ © スモールホープベイプロダクション
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