"http://intro.ne.jp/Images/announcement/SonyPic/SM3/SM3_main.jpg"
width="300" align="left" vspace="6" /> 語りにくい映画だ。
「面白い映画だった?」と問われれば「面白かった。しかし……」とその欠点をあげつらいたくなるし、「つまらなかっただろ?」と言われると、
「そうでもない。いい部分がたくさんあった」と答えたくなる。
つまらないと思った点はどこか。これは筆者がアメコミに疎く、原作に関する情報をまったく持っていないせいだろうが、
敵が複数いるというのがいきなり興ざめなのだ。『バットマン』シリーズがそうだった。悪党が鉢合わせして共通の敵を持ったことから肝胆相照らし、
「手を組もう」なんて場面があるだけでどうにも映画が安くなる気がして仕方がない。一対一の活劇という、
焦点が絞りきれたフォルムの美しさが好きなのだ。敵も味方も複数になると、どうしてもキャラクター描写に繊細さを欠き、主題も拡散してしまう。
本作も結局その悪しき慣習から逃れられていないというのが率直な感想だ。他にも、
メアリーおばさんを巻き込んだ垂直のビルでのオクトパスとのバトルや、暴走電車を食い止めようと、
キリストさながらにピーターが身を呈するアクションがないなど、大傑作だった前作との比較において分の劣る要素はきりがない。
筆者は映画のつまらない点をあげつらうのは酒場でやることだと思っているので、この辺でやめる。
"http://intro.ne.jp/Images/announcement/SonyPic/SM3/SM3_sub1.jpg"
width="280" align="right" vspace="6" /> では面白いと感じた部分はどこか。
それはもう凋落するヒロイン像である。スパイダーマンことピーター・パーカーは、ニューヨーク市民を救った数々の功績により名誉市民賞を受賞し、
いまや向かうところ敵ナシの大スターだ。一方その恋人であるMJは、か細い歌唱を批評家から酷評されて主演舞台を降板に追い込まれる。
ピーターは「人気者の辛さはよくわかる」などと的外れな慰めをするのだが、その様子は自己陶酔の醜さを漂わせてMJをげんなりさせる。
あまつさえ、彼女にとっては大切な思い出である69風のキス(他にどう表現しろと?)を、名誉市民賞受賞式の司会を務める女性
(ますます父親に似てきたブライス・ダラス・ハワード)に奪われ、その心はボロボロに傷ついてしまう。
思い返してみると、第一作でのMJは駆け出しながら、希望にあふれ、前途洋々の女優であった。
第二作ではブロードウェイの芝居で主演を張り、ピーターとも結ばれ、公私共に幸福の絶頂にあったのだ。
いまやピーターとMJの立場は完全に逆転した。これは『ニューヨーク・ニューヨーク』のライザ・ミネリとデニーロの関係だ。
しかも落ちぶれるのは女性のほうと来ているから救いようがない。いつの時代も、凋落する男には薄っすらとした落魄のロマンが漂い、
女には無惨の一語が付きまとう。
"http://intro.ne.jp/Images/announcement/SonyPic/SM3/SM3_sub2.jpg"
width="250" align="left" vspace="6" /> 気を取り直し、
歌を歌わせてくれるクラブでウェイトレスの仕事を始めたMJだが、ピーターはそこに女性を伴って現れ、MJのステージに乱入、
華麗なダンスを繰り広げて喝采を浴びる。そこには事情があって、折りしも宇宙から飛来した謎の物質により、
ピーターは自身の欲望と攻撃性を増殖してしまっていたのだ。だがそんな物質なぞなくても、
バカヤロウであるピーターはいつかそうした愚挙に手を染めたことだろう。
自分を貶めてまでも歌いたかったMJのステージを破壊したピーターの罪は重い。重すぎる。
MJの受難はそれにとどまらない。二人の共通の友人であるハリー(すばらしきジェームズ・フランコ)は父を殺したピーターを憎悪し、
一度は怪物ゴブリンと化してピーターを襲う。いったん記憶喪失で昔日の友情を取り戻すものの、記憶が蘇るや否や、
「ピーターを助けたければやつと別れろ」とMJを脅迫するのである。嫌々ながらピーターと別れ、そのピーターにクラブで嫌がらせをされ、
しまいには新しい敵、ヴェノムとサンドマンに拉致されて工事中の高層ビルに宙吊りにされてしまうMJ。畳みかけられる不幸に、
彼女はただうな垂れるほかないのである。もはや悲嘆の涙すらこぼれないのである。
"http://intro.ne.jp/Images/announcement/SonyPic/SM3/SM3_sub3.jpg"
width="280" align="right" vspace="6" /> 難病の娘を救うために犯罪行為に手を染めたサンドマンや、功名を焦るあまり捏造写真を作り、
それをピーターに見破られて職を失うエディ、ピーターに復讐するために先述したせこい手を使うハリーなど、
どうしようもない連中が賑やかにスクリーンを彩る映画だが、降りかかる不幸をしのぐ傘も無く、ひたすら受難に耐えるMJこそ、
本作の真の主役である。第二作のラストにおいて、可愛らしい笑顔でピーターを送り出していたMJ。むろん、その表情に『卒業』
のラストシーンにおけるダスティ・ホフマンのような一抹の不安はすでに過ぎっていた。しかし、
まさかここまで急転直下の運命を辿るとは誰一人予想していなかったに違いない。そう、あんなに愛し合った日々はもう二度と帰らない。
あの頃のみずみずしい幸福はもう二度と取り返すことが出来ないのである。たとえ正気に戻ったピーターが彼女の元へ戻ってきたとしても。
もちろん、必要な情報をワンショットに収めるサム・ライミの演出は相変わらず見事だし、イケイケのピーターが前髪をたらし、
街をリズミカルに闊歩するあたりのギャグはかなり可笑しい。今回も古き良き価値観を代表するメアリーおばさんの台詞はとてもよかった。
亡くなった夫、ベンがプロポーズをした際の思い出話など白眉だ。彼女が閉じていた目を開けたとき、目の前に振りかざされた指輪が
「太陽のように輝いていた」という台詞なんて、客の脳裏に忘れがたいイメージを残すだろう。MJにはいずれ再起のチャンスが与えられるだろう。
クズ人間のピーターも少しは大人になるだろう。メアリーおばさんはまだまだ口にするべき黄金色の台詞があるはずだ。
優れた人間ドラマの鉱脈はまだその全貌を見せてはいない。つまり、本作でもってシリーズ打ち止めなどとはぜったいに信じられないということだ。
(2007.5.14)
5月1日(火)より、日劇1ほか全国一斉、 世界最速ロードショー!
スパイダーマン3 2007年 アメリカ
監督:サム・ライミ
脚本:サム・ライミ,アイヴァン・ライミ,アルヴィン・サージェント
撮影:ビル・ポープ
出演:トビー・マグワイア,キルスティン・ダンスト,ジェームズ・フランコ
トーマス・ヘイデン・チャーチ,トファー・グレイス,ブライス・ダラス・ハワード
ジェームズ・クロムウェル,ローズマリー・ハリス,J・K・シモンズ 他
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
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主なキャスト / スタッフ
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【2007-64】スパイダーマン3(Spider-Man 3) E ダディャーナザン!ナズェミデルンディス!!
自分の中に在る<悪>に気づいた時・・・ <悪>と闘い続けられるのか──。
Tracked on 2007/06/06(水)22:06:32
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