松蔭浩之 (監督) × 中村真夕 (監督)
映画『PLAY ROOM』について【5/6】
2018年2018年12月8日(土)~21日(金)まで、シネマート新宿にてレイトショー公開
公式サイト 公式twitter (取材:わたなべりんたろう 協力:熊野雅恵)
わたなべ 真夕さんはどうですか? 今作を映画館に観にくるお客さんにこんなふうに観てほしいとかありますか?
中村 みんなの知らない若林さんの顔を観て欲しいというのは松蔭さんと同じです。それから、若林さんは男性のエロスの対象としてキャリアを積んでこられた方ですが、だからこそ唯一の女性監督として、そうではない若林美保の顔を観せたいという気持ちもありました。私自身が日本映画の世界にストレスを感じていることもあって、特に今の若手の監督の女性の描き方を見ていると女性の描かれ方が1パターンというか、はっきり言って「セックス用員に過ぎない」「セックスシーンを描くために出されている」という感じが多く、人間としてちゃんと描かれていないものが未だに多いと感じます。
松蔭 むしろ今はどんどんそっちの方に寄っているよね。
中村 「女性が人間として描かれていない」ということが、女性として観ていて複雑というか、あまり心地良く観ることができないので女性として何かやるのだったら若林さんを人間として描きたいという気持ちがありました。
わたなべ それが真夕さんの「女性の生きづらさ」というテーマだと思うし、この映画とずれていないですよね。
中村 海外の作品と比べると「日本の映画はこういう描き方なの……」という感じで驚きます。女性監督も増えてきましたが、メディアがアイドル的な感じに振ろうとしているような気がしていて「ちょっと違うな」と。日本社会では、いや世界でも言えることかもしれないですけれど「20代の頃はちやほやしてもらえるけど30いくつを過ぎるともう女じゃない」というか、そういうカルチャーがある気がして。
わたなべ 実際の世間ではそんなことはない思うのですが、今だにメディアがそう言ってしまっていますよね。
松蔭 人間としての哲学がないというか、成熟度がない。
中村 ロリコンカルチャーみたいなところはありますよね。それに乗っかってしまっているのが女性監督の売り方というのもあって少し悲しいです。そういう意味で若林さんは大人の女性でしっかり胸を張ってやっているので私が勇気付けられる。この年代で体を晒してというのはストリップ業界でもほぼない話だと思いますので。
松蔭 若林さんは未だに技を磨いていますから。サテンの布を体に巻いて登って行くというのもやっていましたよね。その技の練習をしようとする時が撮影が始まる時でテロリストが訓練をするというのに使えないかなと思って撮影しました。未だに新しいことにトライしている。
わたなべ 一見、無邪気な方に見えますけど内面は相当ハードで自身を律する方なのでしょうね。
中村 そういう意味では女性として希望をもらえる人です。日本の社会では「女性は若ければ若い程いい」という風潮があるし、特に見せる業界では20代がメインで30代になったらもう終わりというのがある。彼女はずっと現役で行きそうな気もするし、どんどん進化していくと思います。成熟していない日本社会の中で女性が成熟することができないでいる。そういう意味で若林さんは女性として勇気を貰える存在です。
松蔭 若林さんの姿勢は本当は当たり前のことなんだけどね。そう考えると会田のコメントは適切でしたね。「昭和」というところも入ってくるし「影のある大人の女」も。
わたなべ そうですね。
松蔭 自分の作品の話ですが散文詩のようにいくつかのナレーションが入ってくるのですが中盤以降長文になります。それはオリジナルの文章ではなくて元は漱石なのです。自分の授業の中で『草枕』の冒頭を現代語に訳すということをやっていますが、明治の時代ですら古語と呼ばれてしまう現代では「情に棹させば流される」という言葉に学生はピンと来ない。
その中である20代半ばの女子学生がブログに書くような言葉で『草枕』の冒頭の言葉を書き直したのですが、その言葉が最も優秀でした。それを映画の中でそのまま流しています。
わたなべ それは面白いですね。漱石は好きですが気が付きませんでした。
松蔭 あれは文学であり哲学です。「漱石が坂道を登りながらこう考えた」という内容ですが、映画では主人公はロケ地の市ヶ谷にある大日本印刷の新しく建設されているビルに向かって階段を上って、切ない表情をしながら頭の中では『草枕』を朗読している。最終的にどうなるかという話なのですが自分は哲学を入れたかった。映画の中に七面倒臭い言葉を入れたかったのです。
わたなべ 上手く映画になっていますね。内容というか言葉の響きが良かったです。
松蔭 ナレーションの声も良かったですね。自分の教え子の女性が担当していますが、まだ20歳そこそこで本を読むこととお酒を飲むこととタバコを吸うことが大好きで声がガラガラなんです。他の男子は彼女のことを怖がっていますが、その声を自分に貸して欲しいということでナレーションをやってもらいました。本人は表に出たがらないので顔出しもできませんが。
主演の俳優も教え子です。撮影のアシスタントとして現場に連れて行くと被写体の人が「あのアシスタントはイケメンね」と言って集中できなくなるぐらいのイケメンで。本人は顔に執着がないみたいでそこがいいのですが。
『などわ』 監督:ナリオ プロデューサー:川端直樹 原作:『などわ』イギリス人 ほか
『LION』 監督・脚本・撮影・編集:松蔭浩之 ほか
『クローンハート』 監督・脚本・編集:中村真夕 プロデューサー:ナリオ 撮影:木村和行 ほか
『熱海の路地の子』 監督・撮影・編集:佐々木誠 原作:帯谷有理『路地の子』 ほか
『Floating』 監督・脚本:福島拓哉 プロデューサー:本井貞成・岩本光弘・福島拓哉 ほか
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