チャリで寮と工場を往復する毎日。時給1260円、ボーナスもないし昇給もない。プリンタのインクにキャップをつけるだけの「ちょっと賢いオラウータンでもできる」単純作業。何人かの幼馴染と会う。希望のレコード会社に就職した友人は上へ上へと自らの目標を高く設定している。一方、地元の工場に正社員として働いてる別の友人は現状に満足して十年後、二十年後も変わらぬ安定を求めている。いずれも岩淵クンと埋められない溝が出来てて彼の孤独が浮き立つ。
給料19万は住居費などが天引きされて12万、さらに学生時代に作った借金返済に6万円。残りのわずか6万で生活する。だから別のハケン会社に登録して週末は都内にアルバイトに出かける。身体はクタクタだ。
仙台から出てきたのは東京に憧れたから。敷金礼金がなかったから寮のある職場を選んで埼玉の行田にある工場で働いているのだが、行田と東京が遠いことは来てからはじめて分かったようだ。東京はなんでもあるけどそれは富と時間のあるものだけが享受できるもので、岩淵クンが24時間マックで避難してる週末の大東京はますます遠い距離に存在するようでもある。
ロフト・プラスワンのイベントに参加して酔ったオヤジに絡まれる。無責任なパネラーから「働かないことこそ反社会的革命だ」と煽られる。関西テレビとNHKから取材を受ける。顔にかかるモザイク、加工される音声。「勝ち組」から「記号」としてさらし者にされる…。
クライマックス、何を思ったのか岩淵クンは下高井戸から平和島まで環七沿いに歩く。真夜中、冬の雨が降りそぼる二十キロのたったひとりの行軍。そんな意味のない行為は「自分探しの旅」なのだろう。クタクタの身体をさらに疲れさせて東京を実感しようとする。カメラを握る手が震えている。荒い息遣いだけが聞こえる。まさに「遭難」…。
朝になった。「海がみたい」と思って歩き始めたが結局海すら見れずにモノレールで帰ることになる。その日も行田の工場で朝から働かなければならない。何者でもない自分に打ちのめされる。
映画としてはナレーションで語りすぎけっして巧くない。むしろヘタクソ。それでも大いに身につまされたのだった。
……生きていかねば、と思う。
(2009.2.21)
監督・主演:岩淵弘樹 (c)2007.W-TV OFFICE
3月28日、ユーロスペースにてロードショーほか全国順次公開
遭難フリーター (著)岩淵 弘樹
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遭難フリーター劇場公開記念イベント~
「俺たちは誰の奴隷でもない!!」~開催決定!
映画監督モラトリアム突入中の監督・岩淵弘樹は、祝劇場公開に際しても尚、派遣労働者。非正規労働者自身が自らの言葉で、語り始めた時、いろいろと突っ込まれながらも、社会責任・自己責任、そんな言葉では片付けられない何かが見えてくる!
【出演】岩淵弘樹(『遭難フリーター』監督)/雨宮処凛 /土屋豊/湯浅誠/松本哉/他
日時2009年3月7日(土) OPEN 18:00 / START 19:00前売¥2,000/当日¥2,200(飲食代別)
共に『遭難フリーター』前売り券付
※『遭難フリーター』前売り券を提示すれば当日1000円で入場可!
店頭販売・ウェブ予約・電話・携帯予約にて受付中!
会場:阿佐ヶ谷ロフトA
主なキャスト / スタッフ
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