インタビュー
白石晃士監督×早坂伸撮影監督

白石晃士(監督)

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早坂 伸(撮影監督)

ヴィターリー・カネフスキー
特集上映に寄せて

公式
INTRO記事:「ヴィターリー・カネフスキー伝説の傑作3部作、リバイバル上映決定!」

2010年1月16日(土)より、ユーロスペースにてアンコール上映決定!

カネフスキー監督の特集上映が開催されている。単なるレビューや紹介文は出尽くしているので、映画製作の側の方々との談話形式がいいと思い、白石晃士監督と早坂伸撮影監督にお願いして行った。お二人ともカネフスキーが大好きなうえに、現在、精力的に作品を発表しているという共通点もある。白石監督は「オカルト」以降、より意欲的な作品を発表し、自主映画時代の商業映画版リメイクの「バチアタリ暴力人間」を完成させたばかりである。早坂さんは「リアル鬼ごっこ」、「呪怨 黒い少女」などの撮影以外にも、自主映画にもプロデュース的に積極的参加し、脚本の勉強もしていたという単なる撮影監督の枠にとどまらない活動をしている。こちらもカネフスキー監督は大好きな監督で日本で唯一ビデオ化されている「動くな、死ね、甦れ!」のビデオは発売日に定価で買った数少ないビデオであるので(他は「レザボア・ドッグス」のビデオぐらいだ)、カネフスキー作品の話しは盛り上がった。カネフスキー作品とは関係ないので割愛したが日本映画に関する話しも興味深いものがあった。

白石晃士(映画監督)
1973年福岡生まれ。石井聰亙監督『水の中の八月』の制作進行を経て監督した自主映画『暴力人間』がひろしま映像展で企画脚本賞と撮影賞を受賞、『風は吹くだろう』がPFF準グランプリを受賞。その後心霊ビデオの演出を経て多数のホラー映画を監督。今年公開されたPOVホラー『オカルト』が一部で熱狂的な支持を受け、残酷劇『グロテスク』がイギリスで上映・販売禁止となるなど、意欲的な作品を連発。新作は12年前の自主映画『暴力人間』をリメイクした破天荒な青春コメディ『バチアタリ暴力人間』で、すでに完成し公開待機中。

早坂伸(撮影監督)
1973年11月29日生まれ。宮城県出身。日本映画撮影監督協会(J.S.C.)所属。作品として、『青〜chong〜』(99年、李相日監督、PFFグランプリ他を受賞)、『青の瞬間(とき)』(01年、草野陽花監督)、『東京大学物語』(05年、江川達也監督)、『リアル鬼ごっこ』(07年、柴田一成監督)、『呪怨 黒い少女』(09年、安里麻里監督)、『結び目』(09年、小沼雄一監督)などがある。

『動くな、死ね、甦れ!』
動くな、死ね、甦れ!

わたなべ カネフスキー監督作品との出会いはどのようなものだったのでしょうか?

白石 地元の福岡で大学生かフリーターをしているときにシネテリエ天神という映画館で上映されたんです。そこで3作とも観ましたね。

早坂 ユーロスペースで特集上映された後に、もう一度リバイバルで短い期間だけど3作上映したことがあったんです。10年ぐらい前かな。日本映画学校の生徒だったんですけど、そのときに観ましたね。

わたなべ 今、シアターNの場所にユーロスペースがあった頃ですね。ちなみに、一人で観たのでしょうか?

白石 女の子と二人でしたね。

わたなべ それはデートで(笑)?

早坂 カネフスキー作品を観に誘ってデートはないでしょう(笑)! ぼくは一人でしたけど。

わたなべ いやいや、タランティーノみたいにデートに千葉ちゃん映画3本立てを誘ったのかもしれないし(笑)。

早坂 『トゥルー・ロマンス』かい(笑)。

わたなべ あれは実話の面もあるそうですから。

白石 まあ、それはね(笑)、映画サークルの後輩でしたよ。

わたなべ 了解です。3作をどの順番で観ましたか? こちらは『動くな、死ね、甦れ!』、『ひとりで生きる』、『ぼくら、20世紀の子供たち』でした。

白石 同じですね。

早坂 『動くな、死ね、甦れ!』、『ぼくら、20世紀の子供たち』ですね。今回見直して思い出しましたが『ひとりで生きる』は当時は未見でした。今回観て思ったのが、同じロシアの『フルスタリョフ、車を!』などのアレクセイ・ゲルマンに似ているところがあるなと。

早坂 (持参した初公開時のパンフレットを出して)このパンフレットにゲルマンがカネフスキーを見出した、とありますね。

白石晃士 監督
白石晃士 監督
わたなべ カネフスキー監督作品を観ようと思ったきっかけは何だったのでしょう? こちらはタイトルにインパクトがあったのと、いろいろな雑誌で見て「この映画は観るべきだな」と思っていたのがありました。

白石 やはりタイトルに魅かれてはありますね。後、スチル写真がかっこよかったんですよ。

わたなべ 当時、よく使われている汽車をバックに線路を歩っているスチルでしょうか?

白石 よく覚えていないんですが、そのスチルの少年の顔がいいなと思ったんです。ブルーハーツのヒロトに似ているなと。ヒロト似の件は当時のパンフレットでナンシー関さんも指摘していましたが。

早坂 ぼくはロシア映画が大好きだったんですよ。ソクーロフとかタルコフスキーとか。その流れで興味を持ちましたね。観たら、ソクーロフの『マリア』に似ていると思いました。

わたなべ こちらはタルコフスキーの『僕の村は戦場だった』を想起しましたね。少年が主人公というのもあるんですが、皮膚感覚で分かる描写が多くて。水の描写とか。

早坂 ロシア映画や東欧映画はすごく自分に合うんです。だから、カネフスキーを観に行ったというのもありますね。

わたなべ ロシア映画や東欧映画は好きですが、すごく合うものと「何だ、これ?」という作品もたまにあります。文化的に分からないところもあるのでしょうが、その異文化性が好きな理由で、実際にロシアに旅行も行ったことがあって、よりロシアの風土や文化は好きになりましたね。

早坂 今の言葉と逆なんですが、ロシアとか東欧って日本に近いものがあるじゃないですか? そこがいいんですよね。

わたなべ 『動くな、死ね、甦れ!』は日本人の捕虜が出てきて炭坑節も出てきますね。

早坂 そうそう、そういうのもあるじゃないですか。

白石 ぼくが育ったのは福岡の元炭鉱町なんですけど、『動くな、死ね、甦れ!』に出てくる長屋とか廃屋、町の景色とかが同じなんですよね。

早坂 『動くな、死ね、甦れ!』のポイントは89年の映画で、第二次世界大戦後をモノクロでこれだけ描ききっていることですね。これは凄い!

わたなべ いつ作られたか分からないような映画ですが89年なんですよね。当時は、どこから現れたかも謎のような映画でした。カンヌ映画祭ののカメラ・ドール(最優秀新人監督賞)を受賞していますが、その前のデビュー長編1作と短編はほぼ観ることが出来ない作品ですし。

『ひとりで生きる』
ひとりで生きる
白石 今、カネフスキーって何しているんですかね?

早坂 ドキュメンタリーを1本撮っているんですよね。

わたなべ そうですね。この3作の後に『KTO Bolche』という60分ほどのドキュメンタリーを撮っています。その後は行方不明だそうです。

白石 それは凄いな。

わたなべ この3作で燃え尽きてしまったのかもしれないですね。大傑作『動くな、死ね、甦れ!』だけでなく、他にも2本の素晴らしい作品を残しているだけでも凄いことですが。

早坂 自伝的な作品と主演俳優のドキュメンタリーですから、他に撮るべき題材がなくなっちゃったのかもしれない。

わたなべ 今回、観直してみてどうでしたか?

白石 これは凄まじいなと。映画監督が簡単に手の届かない「神の領域」に達していますね。彼岸というか。

早坂 ドキュメンタリーのようなリアルさが今見ても色褪せてなかったですね。

わたなべ 奇跡のような作品ですよね。妙に生々しい。

白石 後、どの作品にも共通するのはカネフスキー監督はキチガイ、障害者、ケツが好きなんだなと思いましたよ(笑)。

早坂 カネフスキーは相当性格悪いと思うな(笑)。

わたなべ 監督は性格が悪いほうが良い作品が撮れるともいいますからね。だから、今の日本の監督はダメだとの説もありますが(笑)。

早坂 そしてアクションが暴発的で予測できない。しかも狂っている。階段から降りるシーンとか危なすぎる(笑)。

わたなべ 繊細さと野卑さが絶妙なんですよね。

早坂伸 撮影監督
早坂伸 撮影監督
早坂 ユーモアもいいんですよ。トイレにイースト菌を入れるのはなるほど!と思いましたよ。『大人は判ってくれない』や『ドイツ零年』とか監督が自分の少年期を描いた作品はありますが、トリュフォーやロッセリーニは製作時期から少年期を描くまで、それほど年次がたっていないですけど、カネフスキーは54歳のときに40年以上前のことを描いている。相当作り込んでいるのに全くそう見えない。これは本当に凄い。レンフィルムの製作で、『動くな、死ね、甦れ!』は3:4、『ひとりで生きる』はヨーロピアンヴィスタの画面サイズ。『動くな、死ね、甦れ!』は驚異的に手持ちカメラが上手い! 『ひとりで生きる』はフィックスで『動くな、死ね、甦れ!』で印象的だったアップの画面がほとんどない。スモークを多用していてアンゲロプロスみたいでもある。フランス資本が入ってきているし、前作の成功で画面作りに欲が出たのかもしれない。

白石 あれ、スモークなんですか。

早坂 スモークですね。しかもかなり炊いている。

わたなべ 初見時からよく覚えているのは『動くな、死ね、甦れ!』で年上の犯罪集団に入ってから水辺を走って逃げるときの横移動のカメラ。とにかく鮮烈で。

早坂 とにかくアクションを随時入れてきますよね。しかも相当危ないことをやっている(笑)。『ひとりで生きる』でシャベルカーが近付いてくるシーンなんて、一見呑気に見えますが、相当近くまで来ていて危ない。

白石 あれは危ないですねえ。主人公を殴るシーンでも、明らかに本当に殴っている(笑)。走る電車に女性をつかまらせているシーンも相当危険ですよ。

わたなべ 「映画だから、ここまでやるんだ!」って素朴かつ力強い意識があったんでしょうね。

白石 今では、さすがにロシアでもそれはなさそうですが(笑)。後、女優の脱ぎっぷりもいいですね(笑)。収容所で娘が特赦になろうと妊娠を望んで男に体を開くシーンとか。

わたなべ 最後の発狂した母親とか。最近、映画で女優がめっきり脱がない日本でも見習ってほしいところですね(笑)。

白石 最後の発狂した母親は子供とかも一緒にいるシーンだから凄いよなあ。子供はトラウマにならないのか(笑)。

ぼくら、20世紀の子供たち
ぼくら、20世紀の子供たち
早坂 そのシーンはよく見ると、大写しになる前にまだ普通っぽい表情の母親役の方が写っていて、そこも好きなんですけどね(笑)。

白石 『ひとりで生きる』の老婆の小便シーンも凄いですよ。唐突に出てくる。

わたなべ ヴェンダースの『さすらい』の冒頭にも主人公が車から降りて、水辺で大をするシーンがあって驚くんですが、『ピンクフラミンゴ』のような扱いではなくて、日常の延長で何気なくていいんですよ(笑)。つかみとしてもいいんですけど。

早坂 ありましたね(笑)。

わたなべ ヨーロッパ映画には、そういうシーンを日常的に入れるのはあるのかも。映画の驚きとしても、アメリカ映画では禁じ手として以外は使えない手ですし。

白石 『ぼくら、20世紀の子供たち』はドキュメンタリーですけど、途中で主人公を演じていた少年が自然にフレームインしてくるんですよ。これもとてもいい。

早坂 あれは絶妙でしたねえ。

白石 その後にヒロインの子も出てくるんですが、主人公を演じていた少年が彼女が来るのを知らなかったみたいで表情がこれまたいいんですよ。彼女がいい感じの品のある女の子に育っていて、知的なことを言うんですよね。そうすると、彼も彼なりの言葉ですが、いいことを言うんですよ。あそこは良かった。

わたなべ 主人公の彼は、この3作のみの出演作でヒロインの子は今も女優として03年の『やさしい嘘』などの映画に出演し続けていますね。主人公の彼はもともと不良児でしたが、映画を観ても分かるように感受性豊かで、それゆえに自分を持て余していたのかもしれないですね。だから、彼女のような理解者が現れると言葉が出てくる。まとめるとお二人にとってカネフスキーとは何ですかね?

早坂 とにかくリアルさに尽きますね。

白石 繰り返しますが、監督として神の領域。彼岸です。

わたなべ 確かにカネフスキーを真似しようとしても出来ないかも。再現不可能な感じがありますね。「カネフスキーに似た」とか聞いたことないですし。ワン&オンリーなんでしょう。

白石 あれは出来ないですよ。モブシーンとかもものすごく上手いですし。後、とても好きなシーンがまだあって『動くな、死ね、甦れ!』でスケート靴を奪還した主人公の二人が嬉しさから笑っているシーンがあるんですが、そこに監督の笑い声もかぶっているんです(笑)。もしかしたら、後から入れたのかもしれないですけど、あのシーンは最高ですね。

文/構成:わたなべ りんたろう

動くな、死ね、甦れ!( 1989年/ソビエト/モノクロ )
ひとりで生きる( 1991年/フランス・ロシア合作/カラー )
ぼくら、20世紀の子供たち( 1993年/フランス/カラー )
公式 INTRO記事:「ヴィターリー・カネフスキー伝説の傑作3部作、リバイバル上映決定!」

2010年1月16日(土)より、ユーロスペースにてアンコール上映決定!

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2009/11/18/21:06 | トラックバック (1)
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