西暦3000年に王様が治める日本で、王様の命令で「佐藤」という苗字を持つ人間を殺す計画が実行されて、「佐藤」たちのサバイバル劇が展開されるのが原作の設定だったが、映画版ではパラレルワールドの設定に変えている。原作はもともと著者の山田悠介が20歳のときに自主出版したせいか表現や内容が非難されていたものではあるので(出し直した幻冬舎文庫版では修正されている)、「佐藤」殺しを生かすためのこの設定変えはいいと思う。
原作自体が「バトル・ロワイアル」を多分意識にしたと思われるので、映画がB級に徹しているのがまずは好感がもてる。「ターミネーター」のような殺人を犯す「鬼」の目線の描写、「ダイ・ハード」のような人の落下シーンなど、作り手が楽しんでいろいろとオマージュを捧げているのも好感だ(オチはサム・ライミの某作品だろう)。奇を衒ったことをせずにシャープな演出に徹しているのも潔い。予算的なこともあるのだろうが、チープな面に否定的な評価を下す向きもあるかもしれないが、今の日本映画の水準はクリアしているだろう。
90分強の作品だが、構成の基本である3幕ものを行っているのも好感を持った理由だ。意外と日本映画には、このことが出来ていない作品が多いが、第一幕で設定とキャラクター紹介をし、第二幕と第三幕のブレイクポイントでは「メインの仲間を失う」&「リアル鬼ごっこの全日程終了」を持ってきて第三幕につなげている。
ヒロインで出ている谷村美月のファンにも見逃せない作品になっている。病院に入院している設定で(精神的に壊れた設定)、いきなり柄本明演じる医者に胸に手をつっこまれたりするが、これは「ターミネーター2」のサラ・コナーの精神病院のシーンのオマージュだろう。パラレルワールドでは溌剌とした姿を見せてくれるうえに、手足をベッドの端に拘束されるシーンもある(笑)。最近、水着も含む写真集も出した谷村美月だが、そういうファンへの期待も応えているのだろう。関西のみで放送された山下敦弘監督のテレビ番組「谷村美月17歳、京都着。」もDVD化されて発売される。脚本は向井康介、撮影は近藤龍彦の大阪芸大時代からのスタッフなので、こちらも楽しみだ。
撮影では、リアル鬼ごっこでは巻き添えを恐れて人が出てこないので、街に無人状態を作るのは大変だったと思う(車止めだけでなく、早朝にも撮影したのだろうが)。屋上のシーンでは、さすがにカバーしきれなくて地上に走っている車が映ってしまっているのはしようがなかったのだろう。音楽もこのジャンル及び予算の映画にありがちなデジタル音でなく、生演奏らしい(シンセサイザーかもしれない)スコアを付けているのも好印象だ。音楽が誰かと思ったら、韓国映画の「殺人の追憶」もやっていた岩代太郎だった。アクション監督は「ペルソナ」でのアクション演出でも冴えを見せた谷垣健治。これらのスタッフの的確な使い方はプロデューサーとしても知られる柴田一成監督の腕だろう。芸大生の作品オムニバスの「夕映え少女」などもプロデュースしている柴田監督の今後には注目していきたい。
(2008.2.1)
リアル鬼ごっこ 2007年 日本
監督・脚本:柴田一成 撮影:早坂伸 音楽:岩代太郎 美術:大庭勇人
出演:石田卓也,大東俊介,松本莉緒,吹越満,柄本明
(c)2007「リアル鬼ごっこ」製作委員会
2008年2月2日、テアトル新宿他にて全国ロードショー
リアル鬼ごっこ
リアル鬼ごっこ (幻冬舎文庫)
花美月―谷村美月写真集 (大型本)
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