佐々木 芽生
(ドキュメンタリー映画作家)
映画「ハーブ&ドロシー」
について
2010年11月13日(土)より、シアター・イメージフォーラム他にてロードショー!!
ナショナルギャラリーに4000点あまりのアート作品を寄贈したのは、NYのアパートで慎ましく暮らす公務員のカップルだった……。現代のおとぎ話とでも言うべき驚きの物語を温かくおもしろく描いて国際的に高い評価を得てきたドキュメンタリーが、ついに日本で公開される。監督はNY在住の佐々木芽生さん。自分が感動したものを探って伝えたいという一心で映画を撮り上げた、その純粋さにも魅了されたのだった。(取材:「人の映画評<レビュー>を笑うな」編集部 文:深谷直子)
なお、このインタビューはフリーペーパー「人の映画評<レビュー>を笑うな」と提携している。近日発行予定のVol.4にも掲載される予定となっている。
佐々木 芽生
北海道札幌市生まれ。青山学院大学仏文科卒。1987年渡米。以来NY在住。1990年初め、ベルリンの壁が崩壊したのをきっかけに、激動の東欧へ単独で渡り、現地の様子を伝える写真とエッセイを『Yomiuri America』などで連載。これをきっかけにフリーのジャーナリストになる。1992年、NHKニューヨーク総局勤務。『おはよう日本』でNY金融情報を伝えるキャスター、世界各国から身近な話題を伝えるコーナー『ワールド・ナウ』NY担当レポーター、ニュース・ディレクターなどを務める。1996年に独立し、NHKスペシャル『世紀を越えて』『地球市場』『同時3点ドキュメント』などの大型シリーズを中心にテレビドキュメンタリーの取材、制作に携わる。2002年、映像制作プロダクション(株)ファイン・ライン・メディアをNYで設立。2008年、初の監督・プロデュース作品『Herb & Dorothy 』を発表し、全米各地の映画祭で最優秀ドキュメンタリー賞、観客賞を受賞。現在、続編の『Herb & Dorothy 50X50 』を製作する他、海洋資源問題をテーマとした長編ドキュメンタリーの企画を進めている。
――『ハーブ&ドロシー』は初めての監督作でありながら、映画祭で受賞を重ねるなど、高い評価を得る作品になりましたね。元々は短編を撮るおつもりだったとのことですが。
佐々木 コレクターとしての夫妻の生き方に衝撃を受け、とにかく撮ることにしたのですが、どういうものができるのか、よく分からないまま始めてしまったんですよ。自分でデジカメを持って二人を追いかけて行けばそれなりにショートドキュメンタリーができるのかなと思っていて、それがどんどん大きくなっていったんです。でもそんなに最初から撮らせてもらえたというわけではなくて。初めのうちは自分たちが撮られていいと思うところしか見せてくれないというソツのないところがあったんですよね。アーティストとのやり取りなんかとんでもないという感じで。それが一緒に過ごす時間が長くなり、食事をご一緒させてもらうことなどが度重なるうちに、最後は何でも撮らせてくれるようになったという感じですね。
――映画作りで大変だったことは?
佐々木 資金面でも大変でしたが、それよりも精神的なもののほうが大きいですね。自主製作の映画なので、誰かに納品しなきゃいけないというものではないじゃないですか。途中でやめても、ハービーたちお二人は残念がるだろうけど、それを除けば別に誰も困らない。そこでモチベーションを持ち続けて完成させるということは、本当に死に物狂いでした。映画を作ることはとにかく困難の連続なんですよ。次々に障害が飛び出してきて、最後まであきらめずに乗り越えられた人が映画を完成させられると思うんですよね。鍛えなければならない、強くならなきゃいけない、と自分に言い聞かせながらやっていきましたね。
あとは、これを撮らなきゃこの映画は成立しない、という要素が沢山あったわけですよね。例えば彼らのコレクションが4000点ある。その膨大なスケールのコレクションをどうやって表現するのか、と。ナショナルギャラリーに行って、倉庫に作品が並んでいるのを撮りたいっていうのが頭の中にはあっても、ナショナルギャラリーは絶対に許可してくれない。じゃあコレクションのボリュームをどう表現したらいいのか。それが見えなければまったくおもしろくないじゃないですか。そこで考えに考えて、クリエイティブな発想を強いられて、結果的にはなくてもできるという方法が見つかる。それがだんだん分かってくると、障害というのは自分を成長させるものであって、苦痛ではないと思えるようになりましたね。問題が出てきてもそれを逆に梃子にして、どんどん前に進んでいけるんだ、と。
――最初この映画のことを知ったときは、これは二人の成功物語なのかなと思っていたんですけど、映画を観たらそうではないと分かって。成功しているわけではなく、成功じゃない豊かさって何かってことだな、と。予想外の展開をおもしろく感じたのですが、映画の構成としては、最初はどんなふうにしようと考えていたんですか?
佐々木 何も考えていないです(笑)。二人の情熱を描きたいとは思いましたが、それをどう作れば表現できるかということはそのときには分からないんですね。でもフィーチャーのドキュメンタリー映画の作り方としては、とにかく撮るわけですよ。撮って撮って撮って、最後に撮った素材を編集室で全部見て、粘土の真四角な塊を削っていって形にしていくようなやり方なんです。120時間分ぐらいの素材をザクザクと編集して最初に観終わったときに、こういうストラクチャーかなと編集者と話して。いちばん問題だったのは、二人の物語を語るストーリーというのは、すでに起きていることを回想するような形になるんですよね。でもおじいちゃんおばあちゃんになったあの二人もビジュアル的にかわいらしいじゃないですか。だから今の彼らを現在進行形で撮った映像を交えながら、過去と現在を出たり入ったりするような感じで、過去の話なんだけど古臭く見えない、活き活きした感じを出したいなあと思いましたね。
あとは、軸になるのはナショナルギャラリーなんですね。ふたりがハネムーンでいちばん最初に行ったのがワシントンDCのナショナルギャラリーで、アートのことを何も知らなかったドロシーがそこで初めてアートレッスンを受けて。そのときに二人がとんでもない偉大なコレクターになるなんて予想もしなかったわけですよ。ナショナルギャラリーで二人の人生は始まり、ナショナルギャラリーに寄贈したところでクライマックスとなる。これを真ん中の柱にしていこうという大まかなストラクチャーはありました。
――スタッフはどうやって集められたんですか?
佐々木 カメラマンは紹介ですね。自主製作ということで、料金を格安にしてくれて、その都度時間が空いている人に頼んだので、結局1ダース以上のカメラマンと仕事しました(笑)。編集については、何名か紹介してもらって、30分ぐらいのトレーラーを見てもらい、その反応の仕方で作品に思い入れてくれる方ということと、あとは私との相性で選びました。編集と監督って、特にドキュメンタリーの場合、夫婦みたいなものなんです。今回編集をしてくれたバーナディンは、ものすごいベテランなんですが、控えめで、でもいろんなことをきちんと説明してくれて。私が素人考えでああしたい、こうしたいという大まかなアイディアを言うと、理解してすぐやってくれるという感じでした。私が考えていることを彼女も同じように考えているということもすごく多かったですね。だから大成功の結婚という感じで(笑)。あとは苦労したのは作曲家です。“クレイグスリスト”というNYでものすごく人気のあるネット上のコミュニティサイトで募ったところ何百という応募があって、音源を聴いて5人にまで絞って面接して決めたんですが、作曲家とのやり取りがいちばん苦労したことのひとつですね……。
――お話を伺っていると、本当にゼロからいろんなことを生みだしていったのが分かって、映画の夫婦にも勇気付けられますが監督にも勇気をいただけました。監督もお気に入りのスタッフだけを集めて製作していったような(一同笑)。
佐々木 そうですね、それのみなんですよ、多分。何の仕事でもそうだと思うんですが、チームワークと言うか、このプロジェクトを本当に理解してくれて、やりたいと思う人たちをどれだけ集められるかっていうところにかかっているのだと思います。レベルとしては上でなくても、この二人の話をぜひやりたいと思ってくれる人は一生懸命やってくれて、士気もあがり、コラボレーションがどんどん発展していって。そういうところがいちばん大事な部分だと思います。情熱を注ぐと言うよりは、ドツボにはまってしまってやらなきゃいけないという感じですが、今はドキュメンタリーを作ることは辛いながらもすごく楽しいですね。
(2010年8月27日 清澄白河・hane-caféで)
取材:「人の映画評<レビュー>を笑うな」編集部 文:深谷直子
監督・プロデユーサー:佐々木 芽生
エグゼクティブプロデューサー:カール・カッツ 編集:バーナディン・コーリッシュ 音楽:デヴィッド・マズリン
アソシエイトブプロデューサー:山崎健
撮影:アクセル・ボーマン,ラファエル・デ・ラ・ルス,エリック・シライ,イアン・サラディガ,モーガン・ファロン
出演アーティスト:クリストとジャンヌ=クロード,リチャード・タトル,チャック・クロース,ロバート・マンゴールド
配給:クレストインターナショナル (C)2008 Fine Line Media, Inc. All Rights Reserved.
2010年11月13日(土)より、
シアター・イメージフォーラム他にてロードショー!!
主なキャスト / スタッフ
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