第 20 回東京フィルメックス映画祭 観客賞 受賞
静かな雨
2020年2月7日(金)シネマート新宿他全国順次公開
たとえ記憶が消えてしまっても、
ふたりの世界は少しずつ重なりゆく
大学で生物考古学研究助手をしている行助(仲野太賀)は、パチンコ屋の駐車場でおいしそうなたいやき屋を見つける。そこは、こよみ(衛藤美彩)という、まっすぐな目をした可愛い女の子が一人で経営するたいやき屋だった。そこに通ううちにこよみと少しずつ親しくなり、言葉を交わすようになる。
だがある朝、こよみは交通事故で意識不明になってしまう。毎日病院に通う行助。そしてある日、奇跡的に意識を取り戻したこよみだが、事故の後遺症で記憶に障害があることがわかる。事故以前の記憶は残っているが、目覚めてからの記憶は一日経つと消えてしまうのだ。行助は記憶が刻まれなくなったこよみと、変わらずに接していこうとするが……。
静かで、美しく、切なくもいとおしいラブストーリー
モスクワ国際映画祭で二つの賞を受賞した『四月の永い夢』、『わたしは光をにぎっている』と活躍が目覚ましい中川龍太郎監督が、初めて原作の映画化に挑む。原作は 2016 年本屋大賞受賞作『羊と鋼の森』の著者・宮下奈都のデビュー作で 2004 年文學界新人賞佳作に選ばれた『静かな雨』(文春文庫刊)。音楽は、『おおかみこどもの雨と雪』、『未来のミライ』の高木正勝。W主演を務めるのは、『南瓜とマヨネーズ』等の話題作に出演する注目の実力派若手俳優、仲野太賀と、乃木坂46を卒業し、本作で女優として確かな一歩を踏み出した衛藤美彩。
映画『静かな雨』スペシャルライヴ&トーク イベント
オフィシャルレポート
【日程】1月19日(日)15:30〜16:30
【会場】代官山 蔦屋書店 3号館2階音楽フロア 代官山Session (渋谷区猿楽町17-5)
【登場】音楽:高木正勝(『未来のミライ』等)、監督:中川龍太郎(『四月の永い夢』等)
映画『静かな雨』トーク&ライヴイベント「音楽・高木正勝」×「監督・中川龍太郎」が19日、東京・代官山蔦屋書店で開催され、本作の音楽を担当した高木氏、メガホンをとった中川監督、プロデューサーの和田丈嗣氏が出席した。
本作は、足に麻痺があり、穏やかな“あきらめ”を秘めた若者・行助(仲野大賀)と、常連客に愛されるたいやき屋を営む、事故の後遺症によって新しい記憶を留めておけなくなったこよみ(衛藤美彩)の、切望と背中合わせの希望に彩られた日々を描いた、静かで美しく、切なくて愛おしいラブストーリー。
MCを務めた和田氏から、高木氏に音楽を依頼した理由を聞かれた中川監督は、宮下奈都氏が書いた原作を読んだ際に「世界観が美しいと思ったと同時に、映像的な作品という風には思えず、そこが難しい」と思ったことを明かし、「そんな中で思い付いたアイディアとして、これを1つのおとぎ話として作るということ、そして東京の多摩地域を舞台に作れば成立するかなと思って、もともと大ファンだった高木さんなら全編99分で1曲の作品として、一種の詩集みたいな感じで作れるんじゃないかと思い、和田さんに言った覚えがあります」と回顧。これに、アニメーションが本業という和田氏は「それを聞いたときに、中川さんは頭がおかしいんじゃないかなと思いました」とコメントして笑いを誘い、「高木さんといえば、細田守監督の映画を担当されている方で、アニメーション側から見ると気軽に頼める方ではない。でも中川さんは最初からずっとおっしゃっていましたね」と語った。
加えて中川監督は、演出をする際も高木氏の音楽を聞きながらイメージを膨らませて脚本を直し、撮影を行なっていたそうで「高木さんの音楽が持っている土着性であったり、精霊みたいな世界観が、この作品の抽象性みたいなものに合うんじゃないかなと思って、高木さんありきで考えた企画でもあったので、断られたらどうしようって思っていました」と当時の胸中を明かした。
そんな中川監督のラブコールを受けた高木氏は、オファーをもらった際に読んだ脚本から“若さ”を感じたそうで「大きなスーパーの前にあるお店で、アイドルをやられていたかわいらしい人がいて…という画を想像したので、音楽が伝わるかなって不安があって、そういうのは無理だよって思いました(笑)」と第一印象を振り返り、高木氏のコンサートに足を運んだ中川監督から「『この映画にピッタリだからお願いします』って言われて、“そう?”って思ったんですけど、(若いのに)昭和なことばかり言ってきて、お話ししてようやく“あれ、できそう!”って思いました」とオファーを受けたキッカケを明かした。
また、中川監督は“精霊”というコンセプトで高木氏に音楽制作をお願いしたそうで「ヒロインの衛藤美彩さん演じるこよみさんという女性は、原作の中でも抽象的な存在で、僕はそのまま撮るのではなく、どうすればいいか頭を悩ませたときに、自然があった多摩地区の木を切ってニュータウンを作ったことから、『もののけ姫』のこだまみたいな、失われた自然の精霊の子孫がこよみさんみたいなイメージを持って(映画を)作ったので」と目を輝かせながら話すと、高木氏は「打ち合わせがこれですよ(笑)。まあ、わかるんですけど…」と苦笑い。続けて中川監督は「1つ明確に思っていたのは、(視聴者が)その精霊の親玉みたいな眼差しのようなイメージがあって、カメラもほとんど手持ちで撮影していて、カメラの視点と高木さんの音楽が1つの登場人物として、2人を眼差している世界、いわば大気みたいな外野感を高木さんの音楽で作っていただきたいなと思ってお願いしました」と説明した。
一方、音楽が入る前の映像をスリランカに行く飛行機の中で見たという高木氏は「すごく集中して見られて“音楽いらんやん”って思いました」と当時の心境を告白し、「いい映画だなと思って、音楽をつけると意味が出るからいいのだろうかと。自分が監督なら音楽なしでいくかもというのが1番の感想でした」と吐露。続けて高木氏は「主人公の男性が足を引きずる音が1つの音楽になっていて、やたら主張してきて、かわいらしい女の子がたいやきを一丁焼きの古い機械で作って『ガチャガチャン』ってすごい音がするんですけど、それらは嘘がつけない音で、こっちが本筋なんだというのが見えてきて、これを音楽で消したくないというのが最初の思いでしたね」と語り、それらを一切邪魔しない音楽ならやりたいと思ったそうで「そんなもの普通は求められないじゃないですか。『ちゃんとメロディをつけてください』とか、『ちゃんと泣かせてください』とか、そういう注文が入ると嫌だなと思ったんですが、全編見ながら弾いてみたものを送ったら『これでいいです』って言われてよかったですね」と笑顔を見せた。
さらに、本作は4:3の画角で撮影されているが、その理由を問われた中川監督は「視野が狭い生き方というか、どうしても自分の身の回りしか見えないというのが1つのテーマでもあったので、見える範囲を広くするんじゃなくて、聞ける範囲を広くするみたいなことを含めて、この画角にしました」と答え、「想像力を信じない世界になっていて、(視野に入らない部分が)映像で映っちゃったら音を入れる人もプロだから、音を入れちゃうんですよね。でもそれって想像力も何もなくて、本当は1枚の絵や写真から自分の中で音楽が生まれて、物語が生まれてって経験って、誰しも小さい頃にあるような気がして、想像力を信じながら作ったほうがいいと思うので、(余計なものは)映さないほうがいいです。今は4Kとか映るものを多くしているけど、昔の映像のほうが映っていないからこそ、作品を自分で創作する余地が生まれるっていうんですかね。映り過ぎるのも問題だなって思いますね(笑)」と熱く語った。
イベントでは、事故に遭ったこよみがたいやき屋を再オープンするシーンに、音楽がつく前と後の映像を見比べる企画も行われ、このシーンはどのように音楽をつけたのか尋ねられた高木氏は「たいやき屋を再開してみんなが喜ぶシーンなので、こよみさんに成りきった音楽もありだし、お客さん側から見たこよみさんもありですが、一歩引いてその成り立っている状態を見守っているというか、応援している側に立ったくらいの視線でやりたいなと思いました」と意図を明かし、「そのあとに男の主人公の人が足を引きずりながら歩くシーンがあるんですけど、ここでは1番元気な歩き方をしているので、(こよみを)後押しする音楽としてリズムはそこで決めています。たいやき屋再開の音楽には、実は彼のリズムも入っています」と裏話を披露し、中川監督を唸らせた。
- 監督:中川龍太郎
- 出演:朝倉あき, 三浦貴大, 川崎ゆり子, 高橋由美子, 青柳文子
- 発売日:2018/10/02
- おすすめ度:
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