緒方 貴臣 (映画監督)
石崎チャベ太郎 (映画俳優)
映画『体温』について
2013年2月23日21:10~、オーディトリウム渋谷から全国順次公開
前作『終わらない青』で鮮烈な劇場デビューを果たした緒方貴臣監督の新作『体温』。 緒方貴臣監督、主演の石崎チャベ太郎さんに作品の背景を伺った。
タイトル『体温』に込めた思い
――劇中のシーンの中で石崎さん演じる倫太郎が鏡の前でタバコを吸うシーンが非常に印象的でした。その後のイブキとのセックスシーンも含めて物語の転換ポイントですね。
石崎チャベ太郎石崎 このシーンを撮る前に緒方さんからの説明を受けて、タバコを吸うという動機の細部を特にイメージしました。どう思われるか、どう見えるか、というのがすごく中心になっている発想だなと思いました。倫子さんを意識していることとか、そのことを考えて倫太郎が無心になって“研究”しているというか。形は違うかもしれませんが、何気ない日常の中で、自分が少しずつ変化していくことってありますよね。倫太郎のタバコも最初は咳き込んでいるんですけど、あのシーンの後ではタバコを当たり前のように吸えるようになっていると思うんです。現場では、そういう変化を大事に臨みました。
緒方 タバコのシーンは、僕のイメージではあんなに長く撮るつもりはなかったんです。チャベさんにアドリブでやっていただいた部分があって、ロバート・デニーロの『タクシー・ドライバー』があるじゃないですか、トラヴィスが鏡の前で銃を構えるシーン。そのイメージが自分の中にありました。『タクシー・ドライバー』もあのシーンがポイントとなって、そこから狂気に走っていくじゃないですか。そういう意味では倫太郎としてはあのシーンは大きな分岐点になっているんです。その後、イブキの手を使ってセックスをするところも象徴的で、倫太郎はそれまでは自分からイブキに触れていたわけですよね。それがイブキの手を使って身体を触れさせるという、今までは、一方的に自分から愛情を与える、それはラブ・ドールだからなんですけど、倫子と出会うことによって、今度はレスポンスがあるわけじゃないですか。対人間になると。そうなると、ラブ・ドールに対しても直接的に自分の身体を触って欲しいという欲望が生まれるんじゃないか、と。この二つのシーンは倫太郎にとってすごく重要なところなんです。
――その後の倫子とのセックスシーンでは、前のシーンとの対比で非常に“体温”を感じました。
緒方 タイトルが『体温』ということもあって、セックスシーンが一番“体温”を感じさせてくれるというのを考えていました。この映画はすべて対比になっているんですよ。特にセックスシーンに関しては、イブキとのシーンではなるべく体温を感じさせない、でも、汚くはしたくなかったんですね、倫太郎の中での世界というか、そういった部分を見せたいなと。倫子とのソファーでのラブシーンに関しては“現実的”にしたくて生々しくなるようにしました。観た人からはあのシーンが長いと言われるんですけど、僕としては無駄に長くすることにこだわった面があります。無駄な部分が重なり合うことによって作品の奥行きが出るというか、そういった部分が重要だと思いますね。ストーリーを進行するために必要な箇所だけ使うべき、という方もいますけど、個人的には、それは違うかなと思っています。
――セックスシーンがこの作品では非常に印象的ですが、石崎さんは他に印象に残っているシーンはありますか。
石崎 印象的だったのは、岡本太郎の絵がある渋谷駅で、ラブ・ドールと移動しているところをゲリラ撮影したときですね。正直、日常だとあれはかなり恥ずかしいですね。でも、倫太郎にとっては普通ですからそのことだけは心がけてやっていました。非常に刺激的でしたね。もう一つは最後の踏切のシーンです。このシーンは倫太郎にとっての大きなポイント、ストーリーの要なので、本当に倫太郎に寄っていって寄っていって、そこの集中力が勝負だと思い、そこに近づく努力は何でもしました。その状態になって初めて湧いてくる自分の内からの感情を感じていました。あのシーンがちゃんと成立していないと作品が台無しになってしまうというのもあってそこはすごく残っていますね。
――もうひとりの主役、イブキ・倫子を演じた桜木凛さんの演技も非常に素晴らしかったと思います。
緒方貴臣監督緒方 桜木さんの出演が決まったのは、実はクランクイン直前だったんですよ。大手事務所の方でイメージに合う方がいて、それで進めていたんですが、脚本の直しがかなり多くて。僕もそれに応えてはいたのですが、あまりにも要求が大きくて、それでは僕の作りたい作品にはならないと思い残念ながらお断りしたんです。そこからいろんな方に会ったりはしたのですが、人形役と人間の役をやるわけじゃないですか、人形に見える方ってそういないんです。それは顔だけじゃなくて身体も含めて。自分の中で中々OKをだせる女優さんが見つからず、かなり追い込まれていたんですよ。もしかしたら撮影を延期するかもしれないというときに、桜木さんを事務所の方に紹介していただきました。最初会ったとき、少し声が気になったんですよね。ちょっとアニメ声というか。でも、表情がすごく良いですし、すごくやる気があったんですよね。それが僕の中で非常に印象が良くてお願いしました。他の出演作をそれから見て、いろんな役ができるんじゃなないかと、あとは僕の演出次第かなと思いました。それでクランクインして、撮ってみると、本当に良かったと思いましたね。倫太郎からみたイブキを良く演じてくれました。
- 監督:緒方貴臣
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- 監督:マーティン・スコセッシ
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