インタビュー
『体温』/緒方貴臣監督&石崎チャベ太郎

緒方 貴臣 (映画監督)
石崎チャベ太郎 (映画俳優)
映画『体温』について

公式

2013年2月23日21:10~、オーディトリウム渋谷から全国順次公開

前作『終わらない青』で鮮烈な劇場デビューを果たした緒方貴臣監督の新作『体温』。 緒方貴臣監督、主演の石崎チャベ太郎さんに作品の背景を伺った。

緒方 貴臣 福岡県福岡市生まれ。高校中退後、共同経営者として会社を設立する。25歳の時退社。国外を放浪の後、幼い頃から興味があった映画の道に進むために上京。映画の専門学校へ行くが、学校の方針が合わず3ヶ月で辞める。2009年より映像制作を始める。初制作作品『終わらない青』が、ゆうばり国際映画祭ファンタスティック映画祭コンペティション部門にノミネートされ、沖縄映画祭2010(審査委員長:塚本晋也監督)では、準グランプリを受賞。2011年6月に劇場公開される(渋谷アップリンク、大阪第七藝術劇場 ほか)。

石崎チャベ太郎 1982年9月10日ボストン生まれ。大阪府高槻市育ち。松竹芸能俳優部を経て現在はbond。意欲的なテーマに挑む映画を中心に自主、商業問わず積極的に参加している。映画『男たちの大和』、 NHK朝の連続テレビ小説『芋たこなんきん』、 関ジャニ∞公演などに出演。近年ではダメな男役、見た目とギャップのある内面の歪さを持った役に起用される事が多く、また短編企画を原案・製作・出演し、 過去3作が第63・64回のカンヌ国際映画祭Short Film Cornerの審査を通過し上映。そして日智(チリ)合作映画に主演として決定するなど国内外での活躍の幅が広がっている。

<STORY> 食品工場で働く倫太郎(石崎チャベ太郎)は、言葉を発しない、身動きもないイブキ(桜木凛)と、外の世界を遮断しての生活している。ある日、イブキとそっくりなキャバクラで働く倫子(桜木凛)と出会う。本名(倫子)と源氏名(アスカ)の間で、自分を見失いそうになっている倫子。自分たちだけの世界で生きる男とキャバ嬢という出会うことのない2人が出会い、互いの孤独を少しずつ埋めていき、距離は縮まっていくが倫太郎の思い通りに、倫子は自分だけを見てくれない。倫太郎は、イブキにドレスを着せ、髪型を変え、化粧をして「倫子」と呼びかける。しかし、イブキの正体は、実際の人間から型取りされた人形だった。

『空気人形』とは違った視点

――劇場公開処女作『終わらない青』よりも前に今作は構想があったとお聞きしました。今作を作るきっかけは何だったのでしょうか。

緒方 緒方貴臣監督1
緒方貴臣監督
今作の着想を得たのは、東京に来てすぐ映画専門学校に通っていたころでした。常に情報収集として新聞なり、雑誌なりを読んでいたのですが、そのときに新聞の小さい紹介欄に「ラブ・ドールの歴史」みたいな本の広告があったんですね。それを読んだときに、こんな「ラブ・ドール」というものがあるんだと思い、それから調べたら、性的なものとして使われるのではなく、家族として、恋人として、購入している方がかなりいるということを知って強い衝撃を受けたんです。それで、その当時はそういった映画がなかったのでこれをテーマに撮ろうと思いました。
僕は卒制を撮らなければこの学校にいる意味はないと考えていたんですけど、この題材は学校の卒制で撮れるものではないと思ったんですよ。描くなら隠さずに撮りたいと思っていたので。それですぐに辞めて。その学校に払うつもりだったお金で撮ろうと思ったんですけど、何せその三ヶ月しか学校にいなかったものですから、映画も撮ったことない、スタッフもいない、機材もない、お金もない、技術も経験もないところで、撮ろうと思ってもすぐには撮れない状況じゃないですか。でも伝えたい気持ちだけはあって、この作品のプロトタイプと呼べるようなものを実は撮っていたんですよ。
その時はそれで作品にしようと考えていたのですが、スタッフやキャストがどんどん減っていってしまったんです。『終わらない青』のときもそうだったのですが、なぜこの題材を描くのかというのを中々理解してもらいにくくて、僕も過去に作品を撮ったことがなかったので信用されてなくて。結構お金も使っていたんですけど、途中で辞めたんです。最終的な辞めるきっかけは、是枝監督の『空気人形』(2009)や『ラースとその彼女』(クレイグ・ギレスピー監督、2007)の存在を知って、題材が被っているし辞めようと。
その後、『ラースとその彼女』を観ると、これは二人の関係を描いているというよりは、街の彼らのまわりの人を描いていて、最終的にはリアル・ドールから卒業して、本当の女性を好きになりましたという、いわゆる“ハッピーエンド”という話になっていたんですね。男と女が、ラースとその彼女だとしたら、あれはキレイな部分しか見せていなかったんです。やっぱり、男と女だったらその表面的な部分だけではなくて、肉体的な関わりとかそういうものも必ず描くべきだと思うんです。それが描かれていなかったので、この作品とは違うものを僕は撮れると思いました。是枝さんの『空気人形』も、あれは少しファンタジーになり過ぎていて、すごく美しいショットは沢山あるのですが、この作品も僕の描きたいものとは違う。『空気人形』だったら板尾さん演じる男性を主人公にした方が面白いものが描けるんじゃないか。その後、いろんな人に相談したんですよ。同じ設定で被っていて、しかもそれが世界的にも有名な是枝さんの作ったものだったら真似したとしか思われないわけじゃないですか。でも、面白いものを作ればいいんじゃないって言われて。題材が似ていても両作品とは違う作品を作る自信があったので、作ることを決心しました。

“説明しない”面白さ

――石崎さんはどのような経緯で『体温』の出演が決まったのでしょうか。

緒方 知り合いというわけではなかったのですが、映画祭などで存在は知っていて、話したことはありました。

石崎 僕もゆうばり映画祭などで緒方さんの名前は知っていて、どんな作品を作るのかなと気になっていたんです。作品も観て話もしていると、緒方さんは他の作品とは全然違うアプローチをしていたんですよね。何が一番違うかというと、“物語を説明しない”ということをやっていて、映画の表現の中で事を伝えていて、これが面白いなと思ったんです。すると、緒方さんが次回作『体温』の話をするときに、自分に機会を与えてくれたので、脚本を読んで、改めて引き受けさせてもらいました。

――脚本を最初に読んだときの印象、また緒方監督と作品を作り上げていく中でどんなアプローチを石崎さんはしていったのでしょうか。

石崎チャベ太郎1
石崎チャベ太郎
石崎 脚本には表現されていたんですが、まず、ラブドールが好きな人を偏った形ではなく、あくまでも日常である事を改めて心がけました。緒方さんがイメージの強い監督だというのはわかっていたので、リハーサルがない中、自分が脚本を読んで感じたそれを、現場で初めて提示していくべきだなと思ったんですね。その中で緒方さんが何を一番撮りたいのかを摺り合わせていく。最初はどうしても手探りという部分が少しはあったのですが、ここだなって思ったところから緒方さんとも通じ合っていけたと思います。

緒方 一部のシーンではあったかもしれませんが、特に演技に対してディレクションはしていないんです。これは僕の考えなんですけど、キャスティングする時点ですでにチャベさんに委ねている。キャスティングを依頼したとき、僕はまったくチャベさんの演技は見たことがありませんでした。チャベさんを知っている人たちからは「チャベ君で良いの?」というふうに言われたんですよ。僕はチャベさんの演技を知らないけど、他の人は知っているわけじゃないですか。僕の映画には合わないんじゃないかということを指摘されて。でも、僕にはそれが問題とは思えなくて、脚本を読んでもらったときの反応や、『終わらない青』を観た感想など、それが決してお世辞ではなく、深いところまで観てくれているというのを感じたので、やってもらいたいと思ったんです。もちろん、僕のイメージもありますけど、それ通りにやってもつまらないですし。チャベさんはビジュアルがまず、最初のイメージに合ったんですよ。撮影当日を迎えたとき、僕が思っている以上の倫太郎になってくれていましたね。

石崎 僕自身、「チャベさんで大丈夫?」という周りの意見はすごくわかるんです。僕の日常のキャラクターを見て、そのままやってというのがこれまで多かったので。自分としてはそれももちろん有難いですし、やりがいもあります。ただ、この映画に関して、僕としては参加できるというのはすごく挑戦で、もっともっと出来る、もっともっと入り込まないといけない部分が脚本に秘められていると思ったんですね。ふと自分の中から飛び出したちょっとしたリアクションや反応が、倫太郎らしさみたいなものになった時は、喜びを感じましたね。

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体温 2010年/日本/カラー/72分/配給:Paranoidkitchen 公式
監督・脚本:緒方貴臣
撮影:堀之内崇 照明:島根義明、沖田光 録音:根本飛鳥 美術・衣裳:渡辺麗子、下川友理子
ヘアメイク:大矢朋美、山崎めぐみ 編集:澤井祐美
出演:石崎チャベ太郎,桜木凛

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2013/01/28/20:50 | トラックバック (0)
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