(2007 / アメリカ / アンドリュー・ラウ)
この一大バトルに貴方はノレるクチか!?それが問題だ。

佐藤 洋笑

 以下の文章は、映画『消えた天使』鑑賞後の、あるアクション/クライム・ムーヴィー・ファンの二人――仮に黒岩と大門と呼びます――の雑談の抜粋であります。

消えた天使1大門 クロさん、どーでした? 感想は?

黒岩 ……まあ、いかにも今時の映画というか、アンドリュー・ラウの画作りっ て日本でも散々模倣されすぎたせいか、テレビドラマ観てるような気分になっ てしまってどうも……。まあ、ハッタリは効いてたやな。目ェチカチカしたけど (笑)。

大門 また、いきなりイヤミっぽく(笑)。自分は結構楽しめましたよ。まあ、最初に期待したのとはちょっと別の方向に面白かったって感じでしたけど。自分は宣伝を見る限りはポール・シュレイダーの『ハードコアの夜』みたいなのを期待していたんですよ。

黒岩 あれ、よかったねえ。 ポルノ・フィルムに出演していた行方不明の娘を執念で追うジョージ・C・スコット最高だった。その執念っていうのが、正義感を通り越した実にヤバい感じを醸し出してね。ジャック・ニッチェの音楽も良かった。

消えた天使2大門 製作総指揮がジョン・ミリアスっていうのも男のマッチョイズムを掻き立てます。『消えた天使』でリチャード・ギア演じる主人公も職務に熱心なあまりヤバイ事になってるキャラをよく演じていたんじゃないですか。話が佳境になる頃、どんどん薄汚れていくあたり、結構頑張っていました。

黒岩 そうかぁ? なんかいつも同じような表情で、一時期のハリソン・フォードのようだったぞ(笑)どんな場面でも思わせぶりな表情のみで乗り切っていくという。中盤で、何かやらかしそうな前科者を独断で襲撃するあたりも、正義感の行き着く果てって言うより、なんだか、中学生のホームレス狩りのようで実にアナルの小さい感じ(笑)。昔、杉良太郎の「大捜査線」で、犯人にブチぎれてリンチを加える杉良を部下の神田正輝が止めるくだりがあって、普通は逆だろ!ってツッコみながらも、中年がキレると怖い感じが良く出ていて感心したんだけど、どうもギアにはね……。そーゆースゴみには欠けてたやな。

大門 確かに、メークアップの妙で薄汚さを演じている感じで、内側からにじみ出る“ダーティ”なフィーリングには欠けていますね。そこについては自分も認めます。でも、それゆえに“ああ、こいつは善人だ”と安心できて、後半の犯人たちとの一大バトルに没頭できるわけです。また、『THE JUON/呪怨』『アナコンダ2』と「映画秘宝」方面で大活躍のケイディー・ストリ
ックランドが実ブットんでいます。彼女は美人をドブに捨てながら突き進んでいく感じで、もっと評価されてほしい女優の一人です。

黒岩 いやあ、実はオレが一番ノレ無かったのが、その善玉/悪玉の分かりやすさなんだよね。オレの場合、ズバリこの映画に期待していたのは『タイトロープ』なんだ。

消えた天使3大門 ああ、クリント・イーストウッド御大のダークサイド爆発(笑)。そういうノリを狙っている気配というか、目配せは確かにありましたね。追手が標的の中に自分の暗い部分を見出し、それに囚われていくという。宣伝文句もそういう感じでしたし、作中にもストリックランドがギアと自らの類似性を指摘する台詞が出てきました。

黒岩 それが本当に出てくるだけ、という(笑)。原題の“THE FLOCK”っていうのは、羊・山羊・鳥などの群れから転じた、過去の性犯罪者リストそのもの、あるいはそこに登録された者を指すらしいんだけど……ぶっちゃけ、この映画の世界観ってさ、人間の暗い側面を見るというより、世の中にはこんなに沢山のバケモノ、っていうよりショッカー怪人が潜んでいるってノリなんだよ。

大門 まあ、確かに序盤の抑えたタッチは20分目くらいで掻き消えていましたね。盗撮マニアあたりはともかく、全体に死体愛好とか、性犯罪というよりブットビ系の犯罪者が多いですやな。そいつらが市民に公開されている性犯罪者リストを自らも閲覧して友達募集のノリで徒党を組むっていうのはいいアイディアだったと思いますけど。だいたい、ブットビ系はクロさんの好みじゃないですか。

消えた天使4黒岩 いや、基本的に大好物だけど、この映画は、あまりそういうものを期待させない売り方をしているじゃない。それを真に受けて、淫靡な心のアヤみたいなものを期待しているとちょっと違うなという感じになってしまうね。そのくせ、悪い奴らは問答無用でブチ殺せ!と観客がギアを応援できるかというと、ちーと犯罪者が小物ばかりという感じがしてね。ケイディー・ストリックランドらが徒党を組むってあたりもそれを強調してしまって。だから、ストリックランドのバケモノぶりを強調する事でバランスを取ろうとしたんだろうけど、上滑りしている感じで、オレは乗れなかったな。どうせだったら、さっき話しに出てきた性犯罪者連合をもっと発展させてさ、「大激闘 マッドポリス’80」に出てくるジャパン・マフィアみたいな大性犯罪者連合を登場させて、ギア率いる特殊部隊と大戦争やるぐらいのことやって欲しかったな。

大門 だから一々日本の刑事ドラマ、それもマイナーどころを例えに出すのやめましょうよ。まあ、クロさん的にはあれでしょう? 期待しすぎただけに、ひねくれた愛情表現としてこの映画に因縁つけてる感じでしょ(笑)。

黒岩 うん、それが本音(笑)。アンドリュー・ラウとしては、ハリウッド進出第一弾だけに、針の振り切れていない作品になってしまった嫌いはあるやな。しかし、今後のラウの作品への期待を抱かせるポテンシャルは十分持っている映画であることは紛れも無い事実。リアルにせよ、ブットビにせよ、ラウのやりたい放題の新作を早く観たい! これに尽きるね。

(2007年8月某日。東京都新宿区・喫茶「シンドバット」にて)

(2007.8.3)

消えた天使 2007年 アメリカ
監督/製作:アンドリュー・ラウ 脚本:クレイグ・ミッチェル,ハンス・バウアー
撮影監督:エンリケ・チェディアク 美術:レスター・コーエン
出演:リチャード・ギア,クレア・デインズ,アヴリル・ラヴィーン,
ケイディー・ストリックランド,レイ・ワイズ,マット・シュルツ,ラッセル・サムズ 他
公式

8月4日(土)より、有楽町スバル座ほか全国ロードショー

2007/08/13/21:54 | BBS | トラックバック (2)
佐藤洋笑 ,今週の一本
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消えた天使 (The Flock) A Subterranean サブタレイニアン

監督 アンドリュー・ラウ 主演 リチャード・ギア 2007年 アメリカ映画 105分 サスペンス 採点★★★ 痴情のもつれなり憤怒なりで起こる犯罪とは違...

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