現在大ヒット公開中の「NANA」と「メゾン・ド・ヒミコ」の犬童一心監督による「タッチ」、
そして本作「頭文字(イニシャル)D THE MOVIE」と、この秋は漫画原作の作品が相次いで公開されるが、
その中でも本作の様相は際立って異色である。日本の漫画を原作としていながらも、日本人の出演者は鈴木杏のみで、
他のキャストもスタッフも皆香港の人で占められた、純粋な香港映画として製作されているからだ。
日本に逆輸入される形になった本作だけに、不安を覚える向きもあるかもしれないが、はっきり言ってそれは杞憂である。
豆腐配達用のオンボロトレノAE86(ハチロク)を駆る高校生・藤原拓海が、毎日の豆腐配達によって培った超絶ドライビングによって、
最新のスポーツカーを次々と打ち破っていく姿を描いた、しげの秀一の大人気漫画を今回映画化したのは、「インファナル・アフェア」
の記憶も新しいアンドリュー・ラウとアラン・マックだ。「インファナル・アフェア」
のスタッフを再結集させて本作の製作にあたるという力の入れようなのだが、監督達自身も原作の大ファンで、原作を「日本の国宝」
とまで言うほどの「イニDフリーク」であると聞けば納得がいくというものだろう。本作は商業的な思惑から離れた製作陣の、
原作に対するリスペクトが最高の形で結実した作品なのである。
映画は、現在もヤングマガジン誌にて連載中の原作の序盤部分、
車の運転そのものにすら興味のなかった拓海が、走り屋として本格的に活動していく決意を固める(「プロジェクトD」
参加まで)ところまでを描いている。恐らくは尺の関係であろうが、本作ではこの原作に大胆な脚色が施された。
人気キャラクターの一人である高橋啓介を筆頭に拓海の先輩・池谷など登場人物の一部はカットされ、拓海の親友・
樹(イツキ)は拓海がバイトするガソリンスタンドのオーナーのダメ息子になっている、といった具合である。また、
樹のキャラクター造形に顕著だが、香港映画的テイストで味付けされていたり、
劇構成そのものも練り切れていないところもあったりと、原作ファンとしては些か腑に落ちない面もあるかもしれない。が、
そうした不満もカーバトルシーンを観ればたちどころに吹っ飛ぶはずだ。
これまではCGを含めて「画」でしかなかったあのカーバトル、否、あのドリフトが実写で拝めるという興奮。その圧倒的な迫力に、
原作ファンは勿論のこと、そうでない人もきっと息を呑むことだろう。華麗、鮮烈、圧巻――どんな言葉を費やしても、
その映像の力を言い表すことはできはしない。原作の最大の魅力と言っても過言ではないカーバトルを、最高の形で再現したというだけで、
本作は一見の価値を獲得していると言っていい。
漫画的表現で埋め尽くされていた原作のカーバトルを、見事に実写で再現せしめたのは、
カースタントを担当した「高橋レーシング」の卓越した技術力の賜であることは言うまでもない。が、
やはり撮影技術や演出力が大きく寄与しているのは否定できまい。私見ではあるが、
今の邦画ではこれだけの迫力あるカーアクションは撮れないのではないだろうか。これまで撮影が規制されてきた為に、
カーアクションを効果的に見せるノウハウが、恐らく今の日本にはないからだ。その点、
カーアクションでは一日の長がある香港映画が、本作を製作したのは作品にとって幸運だったと言えるかもしれない。
また、今回、ロケ地となった榛名山を撮影のために全面閉鎖するという英断を見せた、行政の全面的な協力も見逃すべきではない。「海猿」
「亡国のイージス」など、最近になって行政側が映画撮影に理解を示すケースが多くなってきているが、
邦画の発展のためにもこの流れは今後もどんどん広げていって欲しいものだ。爆炎の中を疾走するとか、車をジャンプ、
横転させるといった類の陳腐なカーアクションはもうたくさんなのだ。
世界水準の技術を誇るスタント職人が日本にもちゃんと存在することが証明された以上、彼らの能力を正当に生かした作品が作られていけば、
邦画においてもハリウッド映画真っ青のカーアクションが炸裂する日が来ることもそう遠いことではないに違いない。香港映画ではある本作だが、
そんな邦画の未来をも垣間見せてくれる作品である。
(2005.9.12)
「頭文字(イニシャル)D THE MOVIE」(C)2005 Media Asia Films (BVI) Ltd.
主なキャスト / スタッフ
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