芥川賞作家・中上健次 最後の長編が初映像化!!
監督: 廣木隆一×W主演:高良健吾×鈴木杏
軽蔑
2011年6月4日(土)より、
角川シネマ有楽町、角川シネマ新宿ほか全国ロードショー!
『十九歳の地図』、『青春の殺人者』(原作「蛇淫」)、『赫い髪の女』(原作「赫髪」)、『火まつり』……。日本映画史上に燦然と輝く傑作群の生みの親としても知られる比類なき小説家、中上健次。1992年に46歳で夭逝した彼の最後の長編「軽蔑」が、ついに映画化された。朝日新聞で連載され、死の一ヶ月前に単行本が刊行されたこの遺作は、文学の重層的な底力を体感させてきた作家が、あえて若い女性の目線から紡ぎ出したシンプルかつ清冽な恋愛小説。名家の跡取りである放蕩息子と、若い踊り子の、許されざる逃避行の末路が、まるで一輪の花の生命のように映し出される。
メガホンをとったのは、『雷桜』『余命1ヶ月の花嫁』『ヴァイブレータ』など恋愛映画の名手として知られる廣木隆一監督。これまでも男女のぬきさしならぬ感情の発露と行方を、強靭な慈しみとともに見守ってきたそのまなざしは、中上小説を原作に得て、さらに獰猛に、さらに澄みきった地平から、愛の本質に接近してみせる。
「男と女は、五分と五分」。
呪文のように繰り返されるこのフレーズを裏切るように、相思相愛というだけでは決して添い遂げることのできない男と女の運命と逆境のラブストーリーが奏でられていく。
脚本を手がけたのは、相米慎二監督の『お引越し』から、角田光代原作の『八日目の蝉』まで、懐の深いシナリオで知られる奥寺佐渡子。陰影とエモーションがもつれあう物語の呼吸、普遍性を二十一世紀に向けて見事に解放している。
主演は、高良健吾と鈴木杏。『ノルウェイの森』『白夜行』といま最も注目を浴びる若手のひとり、高良は演技に開眼した『M』で顔を合わせた廣木監督と再タッグを組み、破滅的に生きる青年、カズを繊細さと野太さが同居する絶妙なバランスで体現。そして、舞台では巨匠、蜷川幸雄の寵愛を受け、『花とアリス』『空中庭園』と映画でも意欲的な芝居を披露する演技派、鈴木は、ポールダンサー、真知子に扮し、女の熱情と覚悟を迫真のリアリティで見せきる。また、大森南朋、忍成修吾、村上淳、田口トモロヲら、廣木組常連の俳優たちが、ふたりをがっちりサポート。そして物語全体を見守る守護天使のようなマダムを緑魔子が、カズの父、一幸を小林薫が、圧倒的な存在感で演じている。
世界は二人を愛さなかった――
夜の街で欲望のままに生きる男・カズ(高良健吾)と、歌舞伎町でダンサーとして生きる真知子(鈴木杏)。
孤独な二人は、一瞬で恋に落ちた――。衝動的なカズの情熱に流されるまま、二人はカズの故郷で新しい生活を始める。まじめに働くことを知らず、好き勝手に生きてきたカズは地方の資産家の一人息子だった。
「ここじゃ、五分と五分でいられない」引き裂かれる想いで、カズの元を去る真知子。愛すれば愛するほど、運命が二人を隔てていく。重くのしかかる非情な現実から、逃れられるのか。
2011年6月4日(土)より、
角川シネマ有楽町、角川シネマ新宿ほか全国ロードショー!
演出部 竹田正明/制作部 小沼秀剛
●中上健次の故郷「新宮」
2010年8月。原作者・中上健次氏の故郷、和歌山県新宮市に降り立った。いよいよ映画の舞台になる新宮市での先行ロケハンが始まる。中上氏の故郷 紀州熊野は、熊野三山に関係している何千年も前から佇む街。
いずれも大きな山、川、海に囲まれた街。数年前、紀伊半島を網羅する熊野古道が世界遺産に登録され、その昔材木で栄えた町は観光地として賑わう。
東京から高速道を走って8時間、東京駅から電車で5時間半。「陸の孤島」と呼称されているほど遠く感じる。何か構えるようにして熊野川に掛かる大きな橋を渡って「新宮」へ入った。一見閉塞感を感じる街の位置関係は意外とそこに住む人々は義理人情に厚く、外様を閉ざす事もなく、新しいものを受け入れる柔軟さもあり、この街で中上氏が生まれ、どんな風に育ってきたのかと知りたくなった。
●新宮ロケハン
8月15日~プレロケハン。プロデューサー、助監督、制作で約1週間。
台本の第一稿を手に新宮市内中を隈なく練り歩いた。中上健次の世界とは?手探りで真夏の熱気の中を彷徨った。
新宮市の中央に元ジーンズショップを借り、1階を倉庫兼スタッフルーム、2階を住居として環境作りをスタート。中上健次の立ち上げた私塾「熊野大学」の森本氏を頼って、新宮の歴史から人間関係、生活から根掘り葉掘り尋ねる事からロケハンを始めた。
日中は車でリサーチした場所をあらい、朝夕は借りた自転車で道の一本、一本をカズや真知子に成ったつもりで、風景を感じながら回った。
9月中旬と10月上旬にメインスタッフによるロケハンを行った。東京から深夜発で車で8時間かけて和歌山県田辺市の天神崎へ到着。海に沈む夕日なるロケーションがロケハンのスタートとなった。そこから国道42号線を海岸線伝いに白浜、串本、太地、那智勝浦を経て新宮入りした。
また、新宮人を募ってオーディションを地元ホールで行ったり、数台登場する劇用車の選定会など監督を中心とするスタッフ達は限られた日程の中でフル稼働であった。
●アルマン
アルマンのオープンセットを建設する候補地を2か所に絞ってプレゼンした。町が見渡せて周辺にも生活を感じる高台か熊野川の畔、三重県川の製紙工場と鉄道橋が見える場所。物語の終盤アルマンは火災に成る。この「燃やし」とEX消防関係と実際の消火をリンクできロケーション的に相応しい場所の選択がまず第一となった。
結果は熊野川の畔「池田港」にアルマンを建てることになったが、撮影が終了するまで頭を抱える問題がずっと続いた。
この場所の管轄は国土交通省。許可申請が降りるまで日々、何十枚と書類を提出した。そして、新宮は台風銀座。風害、水害が多い土地でも知られる。10月に入り2度大雨が降ることがあったが道路は冠水し、熊野川は氾濫し、池田港は一時オープンセットが建設するぎりぎりのところまで増水し、美術デザイナーと地元大工と夜中何度も見回りに行った。本当にここで撮影する事が出来るのか?毎日天気予報ばかり覗いていた。
●カズ役・高良健吾
芝居のフィールドを映画中心にしている数少ない映画俳優。「僕がやるからカズはこうなる」。自分がこの役を演じる意味を本気で模索し、本気で悩み、本気で表現する。自分がこの役を演じることへの執着。全てを曝け出す。思い返せば、その日に撮影するシーンによって、朝の支度から顔つきが異なっていた。答えを探し求めつづけ、山の頂に向かって確実な一歩を踏み出す。心底、信頼のできる強い役者だ。
●真知子役・鈴木杏
ロケハンを含む制作サイドの準備と並行して、8月下旬から真知子役・鈴木杏のポールダンスのレッスンが始まった。高良健吾は外へ向かう闘志なら、鈴木杏が内なる闘志。ポールダンス初体験でも、決して甘えることはない。全身が筋肉痛で悲鳴を上げようと、足の爪が剥がれようと、最終的には腕の筋を痛めても、一度も弱音を吐くことはなかった。真知子になるために、精神が肉体を凌駕していく日々となった。スタッフには決して見せなかった苦悩は絶対にあったはず。でも、弱音を吐くこともなく、平然と当たり前に踊る。撮影中も鈴木杏は本当に強かった。ポールダンスの撮影日に完璧に踊りきった。その女優魂に感服した。
●新宮編クランクイン
10月下旬、狙ったかのように台風が日本列島へ向かってやってきた。一日繰り上げて移動日に実景撮影を行い、翌日は撮休諸準備となりスケジュール変更で台風を回避した。両天だらけのスケジュールだった為、無事撮りきる事が出来たが中盤から雨にとにかく悩まされた。初日、台風は通過したが晴れ間が見えず、結局3シーンをこぼし出足をくじいた。この地方は比較的雨が多い。11月は雨期だという人もいた。
●アーケード商店街
約300mのアーゲード商店街があり、この場所でデイシーンとナイトシーンを撮影した。
朝7時にホテルを出発し、5分10分で現場に付く為、8時ぐらいにはテストが出来る。新宮はお店等の開店は大体9:30~10時の間だった。約60以上ある店舗に一件一件、8時~お店開けてもらえる様お願いに歩いた。スケジュールによっては当日時間や日にちが変更することもあり、ロケ慣れしていないこの地域にはロケを歓迎してくれる反面、がっかりさせてしまう事も多かった。地元エキストラで参加してくれた方の中には仕事を休んできてくれた方も多く、急な変更に対応してくれた事は頭が下がりっぱなしだった。
クライマックスのナイトシーンでは、誰もいない、全てお店が閉まっている状態で傷付いたカズが独り歩くというシーンでも「何もない状態」を作る為に当然、挨拶周りをするのだが、ロケがあれば見学する方がいる。だが、ラストシーンだからギャラリーを寄せ付けたくないという演出の事情もある。現在、撮影場所が消滅している原因のひとつである、撮影協力者に対するケアとメリット。その人々が住んでいる土地をお借りして撮影をさせてももらう事の意味をどうスタッフに伝えるか?そして地元の方々に撮影というものを理解してもらうか?映画のあがりで恩返ししたいと思い、監督の要望にはNoと言いたくなかった。撮影者と地元の方々の「軽蔑」への思いが、後に市や警察にも苦情が一つもなかったという結果につながったのだと思う。
●新宮駅 奇跡の1カット
新宮駅で撮影した長回しの1カット。ほぼ一発勝負で、俳優部含めた全パートに求められた難易度の高い技術。マダムの火葬の後、高飛びをするカズと真知子。駅改札を抜けて特急に乗り込み真知子を残し発車する電車を見送ったカズがタクシーに乗り込んで山畑の事務所に行くまでのシーンを1カットで撮影するという総尺10分近いシーンであった。通常通り運行している特急電車狙えるチャンスは計4回。失敗できない環境の中で入念に打ち合せをし、誰もがミス出来ない緊張感は、応援で来てもらった新宮市観光課職員やタクシーの運転手にまで伝わった。皆が背負ってきた歴史が集約された瞬間。ラッシュを見た時、「全ては、この1カットのためにあったのか」とさえ思えた。
●廣木組のチームワーク
これまで数々の作品作りに携わって来て、これほどまとまった組は初めてだった。
スケジュールがキツイ中でも誰一人マイナスな事を口にしないし、笑顔が絶えない。
各部署の仕事を超えて、今しなきゃいけないことを全スタッフで協力してやろうという気持ち。出演者もスタッフも廣木監督が好きだという事が共通点であり、居心地のいい温かい場所だ。クランクアップが近づくと悲しさがこみ上げてくるほどに。そんな風に思ったスタッフ、キャストは僕ら以外にもきっといたに違いない。11月23日「軽蔑」はクランクアップした。巨大な幸せと悲しみに包まれて。
- 映画原作
- (著):中上健次
- 発売日:2011-03-25
- おすすめ度:
- Amazon で詳細を見る
- 監督:深川栄洋
- 出演:堀北真希, 高良健吾, 姜暢雄, 緑友利恵, 粟田麗
- 発売日:2011-07-20
- おすすめ度:
- Amazon で詳細を見る
主なキャスト / スタッフ
TRACKBACK URL: